ドイツの求人を見渡すと、ほとんどの案件が「ドイツ語必須」となっていることに気がつき、またドイツ就職を諦めることもあるかもしれません。実際のところ、中には少なからず「ドイツ語不問」つまりドイツ語が話せない人でも応募可能な求人が隠れていて、これらは英語さえ話せればポジションを得られるチャンスを秘めています。

今回の記事では、ドイツ語が話せない状態で日本人がドイツ就職活動を行う際、どういった求人が応募可能か、またどういった求人で特に日本人としてのアドバンテージが活かせるのかについて一覧をまとめていきます。

ドイツ企業

ドイツでの仕事の受け皿の9割以上を占めるドイツ企業の求人に関してですが、基本的な要件として「ドイツ語」が必須になる会社がほとんどである一方、少なからず「ドイツ語不問」の会社も存在します。特に、ベルリンやフランクフルトのような大都市では企業のグローバル化も顕著であり、おのずと社内の公用語もドイツ語・英語を使い分けたり、英語のみで行われているケースも存在します。

there are in fact many English-speaking jobs in Berlin and international companies are popping up left, right and centre in the city. With a thriving start-up scene, some have even labelled Berlin as the Silicon Valley of Europe.
Quote: English-Speaking Jobs in Berlin, How to Find One?

こうした英語のみで就職可能なドイツ企業での求人を探す場合、以下のような企業が対象となることが多いでしょう。

  • 大都市の企業
  • 比較的新しい会社(スタートアップ等)
  • IT分野の企業
  • 国際市場に展開している企業

これとは逆に、田舎であったり、事業形態が国内市場に依存しているような会社であると、社内の公用語としてドイツ語のみを用いていたり、そもそもドイツマーケットを対象にする以上ドイツ語の話せない人材が不必要であったりします。

また、こうした企業特性に加え、以下のようなポジションでは比較的「ドイツ語不問」の応募要件になりやすいでしょう。

  • IT Developer
  • System Engineer
  • Recruiter(海外人材向け)
  • Marketing(ドイツ以外の海外市場向け)
  • Sales(ドイツ以外の海外市場向け)
  • Customer Service(ドイツ以外の海外市場向け)

こうしたドイツ語不問の求人案件に共通するのは、概して「ドイツ人顧客との直接対応がない」、「海外顧客・市場とのコミュニケーションに重点が置かれる」といった点です。社内でどれくらいドイツ語が求められるかは会社の規模や産業により異なりますが、上述の通り大企業であれば社内文書も英語化されており、日々のレポートや契約書が英語表記されていて、コミュニケーションに不具合を生じることは少ない傾向にあります。

ただし、こうした案件はあくまでも「ドイツ語不問」の応募資格があるというだけで、日本人が必ずしもこの分野でアドバンテージを活かせるか、仕事が得られるかどうかはまた別問題となってきます。

生粋のドイツ企業の中にも、日本語人材を求める企業は一定数存在します。ただしその場合、上述のように欧州マーケットをターゲットとする日系企業とは真逆で、「ドイツの財・サービスを日本やアジア地域に売りたい」ドイツ企業が対象となり、その全体の母数はそこまで多くありません。
出典:ドイツでの日本人のおススメ求人ベスト5

ドイツにとって貿易相手国世界15位の日本という国は、中国に比べ5分の1程度の貿易額しかなく(Quote: Facts about German foreign trade)、必然、日本語を話せる人材の必要性というものは乏しくなってきます。仮に日本人の「日本語が話せる」というアドバンテージを取り外すと、欧州内で労働許可の下りやすい欧州人や、英語を母国語として話す米英人と比べ、どうしてもドイツ企業が「わざわざ日本人を雇う」必要性が見当たらなくなります。

こうした状況を鑑みるに、日本人にとってドイツ語不問のドイツ企業での就職は応募こそ可能であっても、現実問題でポジションを勝ち取ることができるかは別問題になってきます。

在独日系企業

上述のドイツ企業に比べ、日本人の就職可能性が格段に高く、日本人であることのアドバンテージが活かせるのが「在ドイツの日系企業」です。

ドイツに拠点を構える日系企業は、ドイツ語を話せない日本人にとって格好の受け皿となります。実際にCareer Management調べによると、ドイツの日系企業に就職した日本人のうち、ドイツ語がビジネスレベルに達していない、あるいはまったくの初心者であった割合は全体の半数以上に達します。

出典:Career Management調べ(在独日系企業への就職者を対象とした調査)

この理由の一つが、ドイツに拠点を構える日系企業の対象が必ずしもドイツマーケットではなく、他の欧州市場(フランス、ロシア、北欧など)でもあり、それらの国の開拓、マーケットリサーチに従事することも多いからです。もう一つの理由として、基本的に日本からドイツに駐在する日本人駐在員はドイツ語を話さず、社内の公用語が英語であることが多く、社内のドイツ人とのコミュニケーションも英語で事足りるケースが挙げられます。

具体的に以下のようなポジションでは、特にドイツ語が必要とされず、英語だけで業務に携わることが多くなります。

ただし、ドイツ語が不問かと言われるとそうではなく、業務では勿論、日常生活でもドイツ語はいたる所で使用されます。そのため、ドイツ語が話せずにドイツ就職した者でも、就職後に語学学校に通ったりオンラインのレッスンを受けてドイツ語の勉強を行う者が少なくありません。

また一緒に働くドイツ人の心情としても、難しいドイツ語をビジネスで活用できるかどうかはともかく、挨拶や、少なくともドイツの文化に適応するような姿勢を見せてほしい、という声も聞かれます。

ドイツ人は現実、ドイツ語での会話を好みます。客との商談や社内の会議も、可能であればドイツ語で行いたいと感じている人が多いですが、一方で英語能力が高いのも事実です。「長期滞在する日本人がドイツ語を勉強してくれた嬉しい」というのはあくまで気持ちの問題であり、仕事で要求することは多くありません。
出典:ドイツ人は親日か?ドイツで現地就職して分かった意外な実情

在独多国籍企業

最後に、在独日系企業と似たような立ち位置で「在独の多国籍企業」というものもドイツ語不問の求人を得られやすい選択肢となります。理由としては、在独日系企業と同様で、社内の公用語が英語であること、欧州域内での仕事が多く、必ずしもドイツ市場だけに注力しているわけではないこと等が挙げられます。

ただし、この「在独多国籍企業」のポジションを日本人が得られるかというのも、ドイツ語不問のドイツ企業と同様「日本人を採用するメリットがあるのか」という問題に帰着します。

例えば中国企業や韓国企業であれば、ドイツ語の話せない日本人とドイツ語の話せない自国人が面接に来た場合、コミュニケーションの容易さから後者を採用するでしょうし、特にドイツ国内における中国人留学生の数は、日本人のそれをはるかに上回っています。参考までに、年間40万人のドイツにおける外国人正規留学生のうちの40,000人が中国人で、6,000人が韓国人、日本人はその20位の表のランク外です。

Quote: ICEF Monitor

アメリカ企業やイギリス企業であれば、英語さえ話せれば国籍を問うことは多少減りますが、求められる英語の技量は最低でもC1レベル(TOEIC満点に近いレベル)で、ドイツ市場を見渡すとそれくらいの英語力を身につけた人材というのはゴロゴロいるため、ここで日本人が自身のアドバンテージを活かせるかについては疑問符がつきます。

こうして、ドイツ企業、在独日系企業、在独多国籍企業と三つの「ドイツ語不問」の選択肢を見比べてみると、最終的に日本人として最も活躍できる場は「在独の日系企業」ということになることが多く、企業側もまたそれに対して相応のポジションを用意している場合が多いです。