3年時には企業説明会に参加して、インターンなどを経験し、4年生になったらもう内定を得て、とすでにスケジュールの大枠の定められた日本の新卒採用と違い、ドイツの新卒採用には定まったスケジュールが存在しないのが特徴です。

とはいえ、ドイツの学生にもお手本となるプロセスや指標があるわけで、基本的に職歴の無いドイツ人はそうした例に沿って就活をおこないます。日本とは異なり新卒採用枠のないドイツの就活事情を、詳しく解説していきたいと思います。

ドイツの大学生の就活事情

大学卒業と同時に新卒一括採用が行われ、右へ倣えのトレーニングがおこなわれる日本(人にポジションを当てはめていく)と異なり、ドイツは空いたポジションに人材を採用していく通年採用タイプの就活システムです。ポテンシャル採用ではなく、会社で結果を出せるか否かによって採用の合否が定まるため、職歴の無い新卒学生が圧倒的に不利な市場とされています。

こうした日本と異なる社会システム上では、就活の時期や方法、採用の評価基準が根本的に異なるため、我々の目からしたら奇異にうつるかもしれません。以下、特にドイツ独特の文化である「インターン制度」「大学の成績重視」「自由なスケジュール」の3点に焦点を当てて解説をおこなっていきます。

インターンシップ

徹頭徹尾合理化された「実力主義」のドイツ社会では、仕事経験の全くない学生は、薄給に甘んじようともまずは仕事の実績を「創る」ところからキャリアパスが始まります。この、ドイツ人学生にとっての職歴における最初の第一歩はPraktikumと呼ばれ、日本やアメリカでは「インターンシップ/internship」という名で知られています。

日本の企業の提供する、どちらかと言えば企業説明の側面を持つインターンシッププログラムとは異なり、ドイツのインターンシップは文字通り本格的な「職業訓練」のニュアンスを色濃く持ちます。つまり、給料や年金も支払われますし、履歴書上にも書くことができる立派な職歴の一つと見なされるわけです。就職ポータルなどでも「Praktikant(in)」や「Internship」などのキーワードで検索をかけるとこうしたインターン生用の仕事が検索結果に表示されることでしょう。

Statistaを元に著者作成

上述の表を見ても分かる通り、職歴の無いドイツ人にとって在学中にインターンシップで職歴を稼ぐことは、まさに将来就活市場で戦うための権利を得るに等しい行為と呼べるでしょう。企業側も、ドイツの労働市場はこうした「新卒不利」の構図であることを認識しており、基本的にインターン生は安価な労働力として活用し、主に市場調査や新規開拓など失敗しても痛くない業務に割り振る傾向にあります。

  • ドイツの学生の9割近くが新卒採用前にインターンを経験
  • インターン経験後そのまま企業から採用されるケースも多い
  • 大学によっては卒業要件にインターンを課すこともある
  • フルタイムでの業務経験が多く、実際の社員と似たような環境で労働し、給与を得ることとなる
  • 期間は3ヶ月~6ヶ月が一般的

大学の成績重視

社会経験の乏しいドイツの大学生を推し量るにあたり、採用担当者は上述のインターンの成果(インターン終了後に修了証や成績証が企業から渡される)と並び、専攻の成績も大きく評価基準として考慮します。

すなわち、大学から企業まで一貫してスペシャリストの育成を軸とした人材開発プロセスをおこなうドイツにあっては、その専門分野の知識をどの程度大学時代に身に着けたかという点は特にシビアに評価されるという訳です。勿論、大学で学ぶ内容と現実の業務内容とでは乖離も多いでしょうが、少なくとも知識を正しく吸収し、それをアウトプットできているか(ドイツの大学ではアウトプット型の回答形式の試験が多い)を推し量るためには大学の成績は重要な指標になるのです。

もっとも、それでは大学の成績が100%全ての要素を持つのかと言われるとそういうわけでもなく、あくまで応募者の多い場合の足切りであったり、同等の応募者を比較したに考慮する一因、といった、日本でいうところの学歴フィルター程度のニュアンスが強いかも知れません。

  • 大学成績は、特に人気企業や大企業の書類選考に反映されることが多い
  • 一方で、中には成績をあまり勘案しない企業群(中小企業等)もある
  • 機械工学など理系分野の専門職では特に成績の重要度が高い
  • 全体の大学成績ではなく、専門分野の成績のほうが重要度が高い
  • GPA2.5~3.0あたりを下回らなければ大きく減点にはならないとされる

就活スケジュール

日本の就職活動と異なり、ドイツは完全に個人ベースで就活スケジュールが定まります。そもそも、大学の卒業時期も、入学時期や卒論の提出タイミングによってガラリと異なってくるため、どこかの時期に合わせた一斉面接・一斉採用、という方法がおこなえないのです。

例えば、某メーカーでインターンを半年経験したドイツ人のAさんの場合、卒論提出し大学卒業と同時に仕事を開始する契約を取り交わします。ついでに卒論も業務内容に関わるテーマを選び、9月内定、10月卒業、11月仕事開始、という日本人から見たら中途半端なスケジュールで就職活動を終える形になりました。

また、某銀行でインターンを経験したドイツ人のBさんは、銀行側からオファーをもらったにもかかわらず不服だったようで、大学卒業後にその職歴を手に別のコンサルタント会社に内定を貰います。Bさんは、インターン経験後海外を1ヶ月くらい旅していましたが、有名銀行でインターンしたという経歴と、大学を優秀な成績で卒業したということもあり、就職活動開始後1ヶ月くらいで内定、仕事開始というトントン拍子の就活成功となりました。

このように、学生のインターン内容や、卒論内容、はたまたライフプランによって内定や仕事開始の時期は大きく異なります。結局のところ、採用担当者と応募者との間で労働契約書がその条件で交わされれば就活や入社のタイミングはある程度融通が利く、というわけです。

  • 日本の就活のように、定まった新卒採用スケジュールがあるわけではない
  • 自身の卒論提出時期などに応じて柔軟に対応可能

新卒日本人がドイツで働くことは可能?

さて、今までドイツ人学生の新卒採用事情を見てきましたが、果たして日本で大学を卒業した学生が、ドイツで新卒として働くことは可能なのでしょうか?

後述の通り統計データとしては、日本での職歴ゼロでのドイツ就職者(新卒採用)の数はゼロではありません。ただし割合を紐解くと、職歴ありでドイツ就職したものと新卒就職したものとでは後者の割合が2倍近く少なく、さらに新卒就職した中での内訳をみると、ほとんどが在独日系企業への就職であることが伺えます。

在独日系企業とは、日本に本社を持ちながらドイツに法人としてビジネス活動を行う企業群のことで、ドイツと日本の文化のハイブリッドのような運営形態であることが多く、ドイツでの現地採用を志す日本人の人気の就職先として知られています。

(埼玉大学「変容する海外で働く日本人―現地採用者に着目して―」を元に著者作成)
  • 日系&独系&その他 32人・・職歴アリでの採用
  • 日系 14人が職歴ゼロでの採用
  • 独系 4人が職歴ゼロでの採用

(※もっとも、上述の調査には音楽家など専門職も含まれているため、ドイツ企業における純粋なオフィス勤務としての新卒採用者の数はさらに少ないと予想)

Career Management社調べ

就労ビザや言語・文化の壁などの点などにおいても、やはり在独の日系企業は日本からの就職を志すにあたりドイツ企業よりも日本人にとって働きやすい環境が揃っていると言えるでしょう。ドイツでのダイナミックなキャリアパスを志すのであれば、応募してみるのはいかがでしょうか?