港町として発展し、2015年にユネスコ世界遺産に登録されたレンガ造りの倉庫街が運河を彩るハンブルク。ドイツのなかでは独特の、海からつながる大きな河に向かって開けた水辺の街です。
日本人にとってはありがたい魚市「フィッシュマルクト(魚を中心に生鮮品店が並ぶマーケット)」が開かれたり、ブラームスやメンデルスゾーンといった著名な音楽家を輩出しており、音楽文化が栄えているという特徴もあります。
以前ご紹介したデュッセルドルフは、ドイツの中では群を抜いて日本人が住みやすい町ですが、港あり・魚あり・安全・経済的に豊か・ドイツ2番目の大都市という魅力満点なハンブルクも、一度住んだ日本人の心を離さない人気の生活拠点です。
ハンブルクってどんな町?
約185万人の居住者を抱え、人口は首都ベルリンに次いでドイツ第2の規模を誇ります。一方、人口密度は2,300人/km2(参考 東京23区:約15,000人/km2, 横浜市:約8,600人/km2, ロンドン:約5,700人/km2)、市部の14 %が緑地あるいはレクレーションエリアとして開かれており、都市機能を備えながらも居住地として申し分ない環境と言えるでしょう。
さらに、人口のうち約25万人(全人口の約15%)は185の他国からの出身者であり、ドイツ国内さらにはEU内でも有数の国際都市と認知されています。
ハンブルクの家賃相場は1㎡あたり€13.5。ベルリンは€13.6/㎡、フランクフルト€15.75/㎡、ミュンヘン€18.48/㎡となっており、緑の多い環境で他の主要都市と比して手頃な価格で家を借りられることも、魅力のひとつかもしれません(下記グラフ参照)。
空の玄関口であるハンブルク空港から、ハンブルク中央駅あるいは市庁舎のある町の中心部までは、近郊電車で約30分。ハンブルク空港は、ドイツ国内はもとよりヨーロッパの主要都市とハンブルクを結んでおり、日本への直行便はないものの、ミュンヘンやフランクフルトなどを経由して日本と行き来が可能です。
倉庫街のある旧市街と新市街が融合する川沿いの「ハーフェンシティ」と呼ばれる再開発エリアでは、住居、オフィス、研究・教育機関などに加えて広大なオープンスペースが用意され、ハンブルクに暮らす、または訪れるすべての人々の集いの場となっています。
ハーフェンシティの目玉として建てられ、今やハンブルクのシンボルとなった波打つファサードが目を惹くヘルツォーク&ド・ムーロン設計の「エルプフィルハーモニー」コンサートホールは、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団の本拠地で、定期的に公演が開かれています。街のランドマークにふさわしく、入館無料の展望スペースからはハンブルクが360℃に渡って眺望できます。
ハンブルクと日本
ハンブルクと日本の深い交流は、約50年前にさかのぼります。日本企業のドイツ進出が盛んだった1960年代後半、日独交流の証としてハンブルクの中心地にあるアルスター湖周辺に桜が植樹されて以来、春にはドイツにいながらにして桜が楽しめるようになりました。毎年5月に開催される「桜まつり」では、屋台も並び、日本のお祭りの雰囲気を演出します。
また、1999年から始まった日本映画祭(JFFH:JAPAN FILM FEST HAMBURG)は、ドイツ国内では最も長く歴史のある日本映画祭で、日本で人気を博した作品や新進気鋭の若手監督の作品などを見ることができます(2020年はオンライン開催)。
さらに、先述のエルプフィルハーモニーホールの要である音響設計は、日本のサントリーホールなどを手掛けた永田音響設計によるもの。他方、ヨーロッパ最大規模といわれる水辺を利用した都市再生手法の成功例を参考にしようと、ハンブルクと同じ港町である横浜市から視察が訪れたり、環境・エネルギー分野について神戸市と提携するなど、ハンブルクと日本は双方の技術を取り入れ研鑽しあう関係性を築いています。
ハンブルクでの仕事生活について
では、上記のような背景を備えたハンブルクでの生活はどのようなものでしょうか。仕事と暮らしに目を向けましょう。
現在は1,700人ほどの日本人が暮らし、約120の日本企業が拠点を構えます。さらに、ハンブルクにある540ほどの企業が日本とビジネス上のつながりがあり、そのうち35社は日本に支社を構えています。アジアへと視点を広げると、欧州最多の550を超える中国企業、約50の台湾企業がハンブルクを欧州最大の拠点としており、アジアマーケットが非常に大きな存在感を持っている地域なのです。
ドイツの他の中規模都市で数年働き、現在はハンブルクのデザインオフィスで働く別府さん(仮名)は、「以前暮らしていた街では、人から向けられる目線が少し気になっていました。ハンブルクには、自分が外国人だということを忘れさせてくれる空気が流れている。受け皿の深さを感じますね」と街の寛容さを語ります。
国境のボーダレス化が急速に進む時代、外国人への許容度が高い環境であることは、仕事に集中するうえで重要な要素の一つではないでしょうか。
日本企業の支社で駐在員として働く坂本さん(仮名)は、コロナ禍の影響で駐在期間が延長したことを前向きに捉えています。「滞在は2年ほど延びました。在宅勤務が増えて通勤もないので、家族との時間は増えましたね。息子の毎日の保育園の送りは私の担当です。ここではお父さんが子どもと散歩している光景をよく見るし、保育園もお父さんの送迎多いですよ。仕事と家族の時間のバランスを大切にしている印象を受けます」
「ワークライフバランス」ではなく、まずライフが先にくる「ライフワークバランス」を重要視した暮らしぶりが見えてくるようです。
ハンブルクでの私生活について
冬は日照時間が短く寒さが厳しいハンブルクですが、4月から9月のサマータイムは、とても過ごしやすく気持ちの良い季節。天気に恵まれた週末には、公園で存分に太陽の光を浴び、家族や友人と外でのアクティビティを楽しむ人々の姿が多く見られます。
そして、いまや世界中で常に新しいトレンドが生まれ、カルチャーシーンに欠かせない存在となったコーヒー。実はコーヒー消費大国なドイツ、ハンブルクでもコーヒーやカフェは暮らしの一部です。ハンブルク港でのコーヒー(生豆)の交易は、先述したレンガ造りの倉庫街が19世紀に建設された理由のひとつであり、現在では倉庫街を利用した景観の美しい地区の一画にコーヒーミュージアムや”Coffee Plaza”と呼ばれるエリアまであるのです。市内には大小20ほどのロースタリーがあり、それぞれの味を市内各地のカフェで自家製ケーキとともに楽しむことができます。
「ドイツでは仕事とプライベートは完全にすみ分けられているので、こっちで友達を作ろうと思うと、やっぱり積極的に外に遊びに出かける必要が出てきますね。スポーツは全国共通で、コミュニケーションに役立ちます。特にサッカーができると、ドイツでも友達が作りやすいですよ」
出典:ハンブルグ就職体験記 現地採用者のトラブル、日独文化の違いを巧みに解消
日々の食生活に話題を移すと、近頃はドイツ企業が運営する現地のスーパーでも、豆腐、醤油などヨーロッパでもポピュラーになってきた食品に加えて、春雨、ごまやパン粉まで、日本人に馴染みのある食材や調味料を手に入れることができます。先述の鮮魚類のほか、ドイツの食卓に欠かせないパンや精肉類はもちろんのこと、乳製品や小麦粉製品はイタリア、フランス、デンマークなど近隣国からの輸入も盛んですから、現地で揃えることのできる食品のバラエティは相当なもの。多種多様な文化背景をもった移住者が多く暮らす街にふさわしい食卓の華やかさとなるでしょう。
世界中からの移住者を温かく受け入れる土壌を持ち、アジアとの交流も深く、グリーンスペースが潤沢で食生活の豊かなハンブルクは、仕事にも暮らしにも適した街と言えそうです。