大学を卒業して新卒社会人として会社に入り、30代で係長、40代で課長、50代で部長となり、私生活では20代で結婚、その後子供を持ち、30年ローンでマイホームを購入する・・。終身雇用制度が終焉を迎えつつある一方で、我々日本人の頭の中にはいまだにこのような「人生設計」の図が残っているのではないでしょうか。
ドイツはこうした横並びのキャリアプランとは無縁の世界で、大学卒業後に数年のブランクを経る者もいれば、新たに大学に入る者もいたりと、そもそも新卒採用すら一般的ではなく、人生設計は文字通り「オーダーメイド」です。一方で統計を紐解いてみると、ある程度年齢別のライフステージというものが見えてくることでしょう。
今回は、ドイツ人の年齢別のキャリア、給料、私生活などについて解説を行なっていきます。
ドイツでの年齢とキャリア・年収の関係
各年代ごとの詳細を解説する前に、ドイツ社会におけるキャリア全体の仕組みを俯瞰的に見てみましょう。
新卒採用者の年齢が大学卒業後の22~23歳に集中している日本と異なり、ドイツの場合、学士課程の後に40%強の学生がそのまま修士課程に進学するため、日本と比べると社会人として働き始める年齢は遅く、平均して25~27歳あたりが一つの目安となります。
学部を卒業してすぐに働き始めるような層は20代前半からキャリアを形成しますし、逆に修士・博士課程に進学したり、インターンシップや留学を経験するような層はその分社会に出る時期が遅れる形となります。
各年代の給与テーブルに目を向けてみましょう。各年代ごとに以下のような曲線を描きますが、日本のように「年功序列」というわけではなく、その専門分野で過去にどれだけの実績があるのか、が給与算定の指標となります。
グラフの示す通り、40代を超えるとある程度給与は頭打ちとなり、その後定年間際まで似たような水準の給与を保ちます。最も、ここに性別、学歴、職種、企業規模などのファクターが関わってくるため、一概に「〇〇歳における給料は××」と言い切ることはできませんが、ある程度の参考にはなることでしょう。
やはり日本の賃金はOECDの中でもかなり下のほうになってきてしまっているね
ほかの記事でも述べているとおり、所得税や住宅・交通費補助なども考慮しないと総合的な判断はできないけどね。詳しくは「ドイツの給与支給額のからくり」の記事を参照してね
職種にもよりますが、基本的にその専門分野でのレベルを元に「ジュニア・マネージャー」「シニア・マネージャー」などと区別されます。こちらも、年齢というよりも当該職種における勤続年数で定められることが多く、5~7年を目安にジュニア・マネージャーからシニア・マネージャーに昇格することとなります。マネージャーという言葉は管理職の意味も持ちますが、ドイツでは部下を持たない職種もある程度の権限があれば総じて「マネージャー」と呼ばれます。
昇給には個人の成果や企業の業績が関わってきますが、昇進にはそれに加えて運も絡んできます。というのも、職に人を当てはめるタイプのドイツの人事システムの場合、上職にポジションの空きがない場合、いつまでも昇進できない、というケースも少なくありません(特に、人の流れが緩やかな従業員3,000人以下の企業)。
仮に順風満帆な企業人生を送るとすると、以下のようなキャリアアップの道を辿ることとなりますが、これも業界や職種によって異なります。
20代のキャリア
ドイツで20代の社会人の多くは「ジュニア・マネージャー」と呼ばれるポジションで、チームを率いるのではなく率いられる側の存在です。上述のように、平均して5~7年はジュニアマネージャーのポジションであることが多く、20代の社会人の33%はその役職に留まります。また、在学中の場合「インターン生」であるようなケースも決して珍しくありません。
決裁権限に関してはまた小規模で、動かせる予算やプロジェクトも限られています。チーム全体に目を向ける、というよりは上司から言われた目標を達成するために目の前の仕事に取り組むことが求められる年代です。
プライベートに関しては、まだまだ学生気分の抜けない社会人も多く、大学時代の友人と飲み会をしたり、30歳未満限定のパーティに出かけたりと、社会人になってからも青春を楽しむ傾向が見られます。
「統計からみるドイツ人の恋愛・結婚観」の記事で書いた通りドイツ人の平均初婚年齢は34~35歳と日本よりも遅く、まだ結婚するには時期尚早ですが、結婚に至るまでの交際期間は平均して5~6年と日本よりも長い傾向にあるため、20代の後半から将来のパートナーを意識し始めることが多いでしょう。
- 新卒平均年齢は25歳前後
- ジュニアマネージャーとして専門知識を磨く時期
- 部下を持つケースは少ない
- 決裁権限は少なく、あくまでチームの一員として自身のタスクをこなす
30代のキャリア
日本同様、30代はドイツ社会でも様々な転換期として捉えられます。まず、ドイツにおける1社での平均勤続年数は10年であり、25歳前後で最初の職場に勤めてから最初の「転職適齢期」を30代半ばで迎えることとなります。
転職となると、基本的には同一職種での転職となり、給与水準は前職よりも高くなることが望まれます。ドイツ人の転職理由は上から「給与への不満足」「自身への評価への不満」「劣悪な労働環境」となり、特に金銭上の理由が大半を占めています。
転職後の心情の変化には注意が必要です。特に転職後の18ヶ月までの時期を「ハネムーン期」といい、新しい環境や同僚に興奮し、一時的な陶酔効果に陥る現象となります。その期間を超えると今度は「二日酔い期」が訪れ、転職先への不満が噴出し始め、また新たな転職を考えたくなります。こうした現象を「Honeymoon-Hangover-Effekt」と言い、こうした二日酔い期を乗り越えないと仕事の安定は叶いません。
仮に同じ職場に留まり続けるとなると、最初の昇進の時期も30代半ばくらいで巡ってくる計算になります。30代の8割以上の社会人は「シニア・マネージャー」として着実に職種内での専門性を高めていき、会社や専門分野によっては部下を持つケースも出てきます。
仕事内での決裁権限が増え、以前よりも大きな規模の予算やプロジェクトを任されるようになるため、中間管理職として仕事に対する大きなプレッシャーを感じる頃でしょう。
私生活でもいくつかの転換期が訪れます。結婚に関して、ドイツは世界でも指折りの晩婚国家で、男性の初婚平均年齢は34.6歳、女性の初婚平均年齢は32.1歳、キャリアの境目である30代半ばが、私生活でも変化の訪れる時期です。
- 30~35歳辺りで最初の転職の時期を迎える
- あるいは、企業内での昇進が訪れる
- 仕事上の決裁権限が増し、仕事の幅と責任が増える
- 私生活では30代前半辺りで結婚が訪れる
40代以降のキャリア
すでに30代ごろから、多くは40代に差し掛かると「バリバリ昇進組」と「ゆったり仕事組」で社内の空気が分かれていきます。冒頭で説明した通り、40代は給与テーブルが頭打ちになる年齢でもあり、仕事の効率性という意味でもこれ以上の発展が望めない一つの分岐点となります。
年収ベースで700~800万円稼ぎ、共働きが多いので世帯年収は1500万円程度となると、すでにこの時点で多くの社会人はこれ以上遮二無二働いて昇給するよりも、まったりと家族と時間を費やしたい、と考えるようになります。
給与に関して「たくさん稼ぎたい」「新しい知識を覚えたい」という高い意識は年齢とともに薄れていく傾向にあり、30代以下のころは30%の割合を占めていた「もっと稼ぎたい」という欲が50代を過ぎると15%まで低下します(Michael Page調べ)。
キャリアに関しても同様です。年齢とともに若いころの情熱は薄れ、30歳未満では8割近くが「キャリアの向上を求める」と回答している一方で、30~40歳ではその割合が58%、40~50歳で40%、50歳以降になると23.6%となります(IWD調べ)。
それでも向上心を持ち、出世を目指すものは、社内でも次のステップに進むこととなります。すなわち、部門長や部門統括として部下や地域を統括し、10人~30人規模のチームを動かす役割です。日本でいう課長職がこれにあたるのではないでしょうか。チームリーダーと呼ばれるこの管理職につくと、給与ベースで1.5倍~2倍近く跳ね上がる分、中間管理職として上下に挟まれたストレスを抱えることとなります。
以下、40歳以降も管理職の階段を上ると仮定した際の給与水準の変化です。チームリーダー以降急激な給与の増大が見込まれ、権限が増大する都度その割合が高まります。
役職が上がるにつれて日本との差が広がっていくね
ジュニアマネージャー、シニアマネージャーという括りは日本にはないし、ドイツではなく似たような給与水準のオーストリアのデータなので、あくまで参考程度ね。とはいえ、やはり欧米型の人事システムだと権限の増加とともに給与増加の幅も甚だしいわね
会社規模によりますが、さらにここで成果を出した者がより大きなチーム・部門の統括として昇進のステップを登っていくこととなります。会社規模によりますが、どのような人材が出世の階段を上っていくのかは採用時に決められていることも少なくなく、また欧米特有の「外部から優秀なディレクターを雇う」ということも発生し、必ずしも内部に長くいるからといって昇進できるわけではありません。
- 40歳以降はキャリアの分岐点
- 家族第一の人生を送るのか、バリバリ出世を目指すのかで道が分かれる
- 金銭的には「安定」するため、半数以上のドイツ人が40歳以降の出世を諦める