新型コロナの影響で「コロナ失職者」と呼ばれる雇い止め・失業者の数が増加したことは、ニュースでも大きく取りざたされました。リーマンショック以降右肩下がりを続けていた完全失業率ですが、コロナ禍の終わりの見えない状況下でじわじわと悪化の一途を辿っています。正社員の数が減り、契約社員の数の増加とともにこの雇い止めは日本の経済基盤を脅かす社会問題にもなっています。
さて、こうした「解雇」「雇止め」「クビ」にまつわるドイツでの状況はどうなのでしょうか?労働者天国と言われるドイツでは、果たしてどのようにクビが宣告されるのか、またドイツで就職した日本人はどのような事情でクビになることが多いのか、解説していきたいと思います。
ドイツの「クビ」事情
ドイツは労働者の権利が尊重される「労働者大国」で、企業側も一度正規労働を交わしてしまうと簡単にはクビにできません。そのため、企業側も正規の労働契約書を従業員と交わすには慎重で、その前に試用期間を設けて従業員のパフォーマンスや人となりを見るようにします。
一度正規の雇用関係が結ばれると、企業側には「解雇通知期間」という縛りが発生します。これは、従業員に対し解雇の〇〇ヶ月前には解雇通知をしなくてはいけないという縛りで、従業員の勤続年数に応じてこの解雇通知期間は長くなっていきます。
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ただし、ドイツ民法626条によれば、従業員に以下の行動などが見られた場合、例外的に解雇通知なしに解雇を行うことが可能となります。
- 就労拒否
- 無断欠勤
- 無断での有給消費
- 脅迫行為
- 雇用者に対する犯罪行為(詐欺、横領、窃盗、傷害など)
この「解雇通知期間」によって守られていることに加え、企業側は解雇にあたって明確な理由を必要とすることなどから、基本的に一度労働契約関係になってしまうと、従業員のクビ、という事象は発生しずらいものとなります。
実際に、クビになった従業員の勤続年数を紐解くと、大多数は試用期間を含む「0~4年」でのクビとなり、勤続年数が5年を超えるとクビになる確率は格段に下がります。
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また、クビになる理由の内訳に関しては、同Kündigungsstudieレポートを参照すると、68%が業務・パフォーマンス上の理由で、23%が個人的理由、9%が問題行動という形になっています。
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パフォーマンス上の理由って?
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簡単に言うと、数字目標が達成できなかったり、仕事上で大きな失敗をしてしまったり、という理由ね。ドイツ人は結果重視で、かなりドライな決断を下すことで有名よ
日本人がクビになる理由
異国の地であるドイツで就職した日本人にとっては、ドイツの企業からクビを宣告されるような場面はドイツ人よりも残念ながら多い傾向にあります。特に、仕事のプロセスを重視し、将来のポテンシャルを買ってくれる日本のシステムの逆で、ドイツでは徹底的な結果重視文化が浸透しており、短い試用期間内に結果を出せない日本人は契約の非延長を告げられます。具体的には、以下のような要素が日本人のクビになる原因として挙げられます。
- 言語上の意思疎通の問題
- 仕事の進め方の違い
- ドイツのパフォーマンス重視文化との対立
- 慣れないドイツでの健康上の問題
以下、日本人はどのようなフェーズでどのような理由でクビになることが多いのか、解説していきます。
試用期間中・終了時の解雇
ドイツで仕事を開始した日本人が乗り切らなければならない最大の関門は、就職後に待ち構えている「試用期間」の壁です。
ドイツの民法622条によれば、企業側は従業員の人となりを見極めるために最大で6ヶ月の試用期間(Probezeit)を設けることが可能となり、この期間中、あるいは期間終了時には通常の雇用契約期間よりも解雇宣言がしやすいメリットが企業側にあります。
例えば、この期間中であれば企業側からの解雇通知は2週間でよく、かつ解雇のための具体的な理由の説明責任が免除されます。解雇、あるいは契約の非延長となる理由に関しては、目立った結果が出せなかったなどのパフォーマンス上のことが多く、日本人の中で素行不良や犯罪行為が原因となることはほとんどありません。
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正社員契約を餌に毎日遅くまで働き、パワハラまがいの上司にも耐えてきましたが、最終的に正規契約は交わさない旨を伝えられました。今までの苦労は何だったんだろうという気持ちでしたね
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仕事を失うのはもちろん、労働ビザの受け皿となる企業を新しく探さなくてはドイツにいられなくなるというデメリットもあるわね。まさに、最初にして最大の難所、「試用期間」。。
有期契約の非延長
企業と従業員が結ぶ労働契約書の種類には「有期契約書」と「無期限契約書」の2種類があり、有期契約書の場合は一年ごとの更新など、双方の合意のもとで延長される形となり、その更新の切れ目で企業側は従業員を解雇しやすいというメリットを持ちます。
2020年度のStatistaの調べによると、ドイツの社員のうち約11.8%がこの「有期契約」の契約状態にあると言われており、労働者の権利向上を求める団体からは無期限契約への更改が求められる一方で、スタートアップ企業など変動的な業態では重宝されています。
こうした形態の場合、契約期間の切れ目となる時期などに企業側は従業員と次の契約を結ばないことで事実上の「解雇」を行なうことが可能です。契約の非延長となる理由は、試用期間中の解雇同様、パフォーマンス上の理由であることが多いです。
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単年ごとの契約で、企業側の課したノルマを達成するために毎年死にもの狂いで働きました。最終的には、為替レートやコンテナ代の高止まりなど、外的な理由で売り上げが落ちたため、翌年の契約を更新しない旨を言い渡されました
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ドイツの大手企業は高級だけれども結果のみを重視し、ドイツに拠点を持つ日系企業や田舎のドイツ企業は割とプロセスや努力なども見てくれる傾向にあります。大手と中小の違いに関しては「【ドイツの大手企業vs中小企業】日本人の転職でおススメなのはどちら?」の記事を参照してね
無期限契約中の解雇
一度、企業と従業員とが無期限契約書を取り交わすと、企業側も解雇のための手続きが煩雑になるうえ、上述のように解雇通知期間を守らなければならなく、解雇されるリスクは上記の2パターンに比べると格段に軽減されます。
この期間中に日本人の現地社員が注意しなくてはいけないのが、オフィスや部署の閉鎖、日本市場撤退による人員削減など、自身というよりも会社の戦略的な理由から人員が不要となるケースです。
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30歳後半の時に、長年勤めていたドイツ企業を解雇されました。理由としては、売上不振に陥った日本デスクの閉鎖で、日本人の需要が必要なくなったからです
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事業縮小やオフィス閉鎖などは、個人的な努力ではどうしようもないしね。運が良ければ別のオフィスや別部署への配置換えとなるけど、レアなケースね