文系男性の人気職上位は総合商社で占められています。海外を飛び回りダイナミックな業務を体験する「商社マン」に憧れる学生も少なくない事でしょう。
今回の記事では、ヨーロッパ経済の中心地「ドイツ」で商社マンのように働ける仕事を見つけるにはどうしたらいいか、解説していきます。
ドイツに商社はある?
結論から言うと、ドイツでは日本人のイメージするような典型的な商社(自社工場を持たず、貿易や国内売買の仲介料によって利益を得る企業)は目立ちません。
ドイツにあって典型的な「商社(Trading Company)」のイメージは日本のそれとは異なり、物資を輸入し在庫を持って「店舗」や「オンライン」で販売する企業を指し、REWEやEDEKAといったスーパーマーケットも広義の「商社」に含まれます。
「海運会社」や「フォワーダー」がドイツにあっての「Trading Company」ととられることもありますが、こちらは日本の商社のようにビジネスコネクションを提供して仲介料を得るようなビジネス形態ではなく、倉庫・運輸業となります。
中には対面・オンライン上での輸出入の売買を斡旋してマージンを稼ぐモデルの会社はドイツにも存在しますが、日本の商社ほどの規模ではなく、あくまで「コンサルタント」のような立ち位置が多いと言えるでしょう。
様々なドイツの「商社・貿易会社」の定義:
- 海外との貿易をおこなう会社全般(スーパー、大手E-Commerce)
- 海運業者・空運業者
- 海外から物品を仕入れ、小売店に卸す輸入商
- 海外の企業とのマッチングをおこない利ザヤを稼ぐ会社
なりをひそめたヨーロッパの「貿易会社」
日本人のイメージする「商社」、すなわち海外のマーケットを股にかけ、物品の売買を手掛けるエリート社員がドイツやヨーロッパで全く存在しないわけではなく、実は過去にはこうした形態の「商社」が重要視されていたこともありました。
17世紀の欧米列強の植民地政策の過程で設立されたアジアやアフリカの貿易会社がそれにあたり、代表的なところではイギリスやオランダが運営し、植民地貿易で巨万の富を築いた東インド会社でしょう。自国の法や商慣習の及ばない植民地地域での貿易行為を、こうしたエキスパートである貿易会社が担っていた時代があったのです。
国家の統一が遅れ、海外植民地をほとんど持たなかったドイツ帝国はこうした「貿易会社」設立の必要性にさほど迫られませんでしたが、アフリカやアジアなどに点在するドイツ植民地と本国の輸出入を繋ぐ意味合いで、19世紀には「Gesellschaft Süd-Kamerun(南カメルーン会社)」や太平洋のコプラ輸出を目的に作られた「Hernsheim & Co」などが存在していました。
もっとも、20世紀にヨーロッパ諸国が次々と植民地を失陥すると、こうした植民地と本国のサプライチェーンを繋ぐ貿易商社の数は激減していくこととなりました。また、貿易行為自体もグローバル化の流れにのって、一部の特権階級の既得権益から中小企業でも手の届くものとなってきたため、その地域に特化した貿易商社の意味合いは次第に薄れていったのです。
ドイツの貿易事情
現代のドイツにおける大手メーカーや大手小売業にあっては、直接海外のバイヤーやセラーとコンタクトする「直接輸入(輸出)」の形式が目立ちます。企業体力やノウハウのない中小企業の場合は逆に、大手企業のブランド名を借りたり、協同組合に中間マージンを払って仕入れてもらう「間接輸入(輸出)」をおこなうケースが多くを占めていると言えるでしょう。
特筆すべきポイントとして、ドイツにおいては中小企業の直接輸出経験率が他国よりも高いという点が挙げられます。ドイツの「直接輸出」の経験割合は18%とその他欧州諸国に比べトップクラスであり、大手企業や商社の手を借りずに海外輸出を自力でおこなえる環境が整いつつあることを示しています。
中小企業における直接輸出の割合:

(UPSを元に筆者作成)
ドイツ企業による直接貿易取引が多い理由:
- 担当者レベルでの英語が堪能である
- 輸出入ノウハウが身についている(特に、障壁の少ないEU内での貿易経験が活かせている)
- 第三者への中間マージンを嫌う
- 自社での市場価格のコントロールを好む
逆に、なぜ日本に商社(仲介業者)が必要なのかというと、WEDGE紙のコラム「なぜ日本にだけ総合商社が成立したのか」の中でも記載されているように、「日系メーカーによる直接輸出が困難だったこと」が主要な理由の一つとして挙げられます。英語や貿易ノウハウの点で、島国である日本の産業はガラパゴス化しやすく、こうした「貿易のエキスパート」に頼らざるを得ない背景を持っていると言われています。
ドイツで商社マンのような仕事に就きたい場合
日本での就職活動で、世界を股にかけて貿易をおこなうエリート会社員、「総合商社」や「専門商社」に憧れる人も少なくないのではないでしょうか。そういった応募者たちがドイツで「商社職」に就きたい場合、どうすればよいのでしょうか?
ドイツでメーカーに入社する
上述の通り、ドイツには日本でいうところの「商社」の定義に一致するような業種が少ないと言えます。代わりに、個々の企業が独自の海外事業部等を持ち、担当者レベルで海外との折衝をおこなうことが少なくありません。
そのため、日本の商社マンのようなな仕事を目指す場合、ドイツのメーカーに入社して海外折衝に携わることが一つ目の近道と言えます。
ドイツメーカーの海外事業部の仕事内容:
- 新興市場の開拓、市場調査
- 各国の代理店や法人顧客との折衝、販売
- 輸出入の支援
- 各国ネットワークを組み合わせ、製造拠点・販売拠点を開拓
ドイツの日系企業(メーカー・商社)に入社する
もう一つ、ドイツに展開している日系商社やメーカーに入社することも、「商社マン」的な仕事をドイツでおこなう早道になります。ドイツに法人を持つ商社・日系メーカーは、多くの場合でドイツやヨーロッパを対象とした貿易を生業としており、ヨーロッパ中を飛び回るダイナミックな業務を味わうことができます。
ドイツの日系メーカー・商社の仕事内容:
- ヨーロッパ市場の開拓、市場調査
- ヨーロッパ諸国の代理店や法人顧客との折衝、販売
- 日欧貿易のサポート
- 各国ネットワークを組み合わせ、製造拠点・販売拠点を開拓
