ドイツ企業への就職を志す際、日本では聞きなれないポジションや役職名が名を連ね、具体的な職務内容がイメージできないといった経験があるかもしれません。日本とドイツではそももそ企業の成り立ちからして異なる点が多く(スペシャリスト型 vs ジェネラリスト型、等)、字義通り理解しようとしても上手くいかないことがあるでしょう。
そんな時、ドイツ企業の構造、各部署が担うタスク、それらが相互にどう関わっているかを知ると一助になることがあります。
ドイツの会社組織図
ドイツ企業の会社の組織図は、まさに千差万別と言えるでしょう。IT、メーカー、金融といった産業によっても組織構造は異なりますし、大企業と中小企業とでもそのマトリックスは大きく異なります。
もっとも、それらのカテゴリに共通した特性というものは存在しており、特にドイツ経済の根幹をなす製造業に目を向けると、「営業」「製造」「調達・物流」「社内管理」といった大きなカテゴリが共通項として挙げられます。
以下に、それぞれのカテゴリに紐づく部署名と詳細な職務内容について記載します。
(※この記事で登場する給与はあくまで目安であり、求人の給与を確約するものではありません。)

営業(Vertrieb)
販売一般に関する業務はこの営業(Vertrieb)の下位カテゴリに含まれます。すなわち、日本の会社でいうところの「営業部」であり、カスタマーサービスやマーケティングもこのカテゴリに含まれることが多々あります。
要するに、製品やサービスの販売・販促にまつわる業務に携わる部署であり、直接顧客と接する部署もあれば、マーケティング部のように間接的に接する部署も存在します。
販売(Verkauf)
日本でいうところの「営業社員」がこの販売(Verkauf)であると考えればイメージしやすいことでしょう。顧客との折衝をおこなう部署であり、多くの場合はセールスアシスタントがバックについていて、製品の出荷や書類の準備などはセールスアシスタントに任せることとなります。
営業の中にはマーケットに応じて細分化された役割が課せられていることも少なくありません。技術的な知識を要するVertriebsingenieur(セールスエンジニア)や 法人顧客に特化したAccount Management(法人営業)などが最たる例でしょう。
求められる職務や経歴、給与水準はこうしたタイトルによって変化します。企業規模や業界、都市、成果による報酬の変動も大きいため一概に給与水準を表すことは難しいですが、平均的な年収は38,000~55,000EUR程度だとされています。営業職に関する詳細は「ドイツの営業職(Vertrieb)って高収入?」の記事を参照ください。
求められるスキル:
高い語学力、コミュニケーション能力、市場分析能力、商法知識、等
年収相場:
38,000~55,000 EUR

セールスアシスタント(Sales Assistant)
営業社員とペアで仕事をすることの多い職種で、日本の会社での「エリア職」と言えばイメージが伝わりやすいかも知れません。営業社員が対外折衝で獲得した案件のサポートを請け負い、書類の発行や製品の発送などを物流部などとと連携しておこないます。フォワーダーを含め、様々な会社や部署の中継地点として機能することがあるため、社内外における高いコミュニケーション能力が求められます。
企業によって(特に多国籍企業や在独日系企業等)は、日欧の輸出入を多く手掛けることがあり、そうした場合は一般的な営業アシスタント能力に加え、貿易実務の知識が必要となることがあります。営業アシスタントの業務内容の詳細は「女性採用が多い、営業アシスタントの業務内容・応募要件とは?」をご覧ください。
求められるスキル:
高い語学力、コミュニケーション能力、書類処理能力、貿易実務、等
年収相場:
31,000~46,000 EUR
マーケティング(Marketing)
製品や企業のプロモーションやブランディングを司る部署です。自社内でコンテンツ作成をおこなう(動画撮影、展示会の出店等)場合もあれば、専門的な企業と連携してマーケティング施策をおこなうケースもあります。
新卒であれば大学や大学院などでBWL(特にマーケティング系)の背景があると就職時に有利ですが必須ではなく、中途であれば実務経験のほうがより勘案される傾向にあります。
職業の特性上、やはり高いドイツ語スキルを持ったドイツ市場に精通する人材が重宝されますが、ドイツ企業の中では海外マーケットのマーケティングに注力することも多いため、英語やその他外国語の知見も有利に働きます。実務レベルでは、Google AnalyticsやGoogle Tagmanager、Google Adsenseや各種SNSの運用実績はプラス要因です。
求められるスキル:
高い語学力、コミュニケーション能力、マーケティング実務、等
年収相場:
36,000~54,000 EUR

カスタマーサービス(Kundendienst)
ドイツ語でKundendienst、日本の会社組織ではカスタマーサービスと捉えられる職種です。会社によっては電話による応対、チャットによる応対など様々な形態がありますが、一般的には電話応対の求められる仕事であり、卓越した語学能力が必要となります。ドイツ企業において日本市場での取引が多い場合、日本語カスタマーサービス要員としての需要が一定数あります。
営業のような成果報酬的要素の高い職種と違い、時間固定制の労働形態であることが多く、自身の仕事評価は顧客からのフィードバックなどによってなされます。
求められるスキル:
高い語学力、コミュニケーション能力、製品知識、等
年収相場:
30,000~40,000 EUR
購買・調達・管理(Beschaffung)
会社によって形態は異なってきますが、メーカーであればBeschaffung(調達)部門が存在し、その中に購買やサプライチェーン管理、ロジスティック分野などが含まれています。
購買(Einkauf)
メーカーであれば会社の要ともいえる部署で、会社の成功は、いかにして安定的に、安く原材料を調達できるかにかかっているといっても過言ではありません。例えば、2019年以降発生したコロナ禍、ウクライナ戦争の余波でヨーロッパのサプライチェーンが混乱し、メーカーも原材料高で一斉に苦境に立たされることとなりました。
各国のサプライヤーとコミュニケーションできる言語力や交渉力も重要ですが、なによりサプライヤーとの取引きには契約書(多くの場合、長期的な)がつきものであり、商法・貿易の知識が大前提となります。加えて、社内の原価や利益の計算にも密接に関わってくることから、商学や経営学的な知識も必要とされることでしょう。
求められるスキル:
高い語学力、高い交渉力、商法・貿易の知識、経営者的目線、等
年収相場:
37,000~53,700 EUR
ロジスティック(Logistik)
企業ごとにロジスティック部(物流部)の役割は多岐に渡ります。調達された物資、生産された製品、出荷物の梱包、廃棄された物資、HSコードや原産地情報の管理、等が含まれます。帳簿の管理や税法の確認、原材料の法規制に関する知識など、人々の思い描く単なる「出荷作業」よりも広範な作業内容が求められる部署ともいえます。大企業であれば、支店や代理店への効率的な出荷・分配の計算など、高度な理系知識が要されることとなります。
„Logistiker(物流従事者)“としての職業訓練枠を設けている会社も多くありますが、将来的なキャリアアップを求めるのであれば学位取得者が有利となります。

求められるスキル:
高い語学力、商法・貿易の知識、等
年収相場:
36,000~53,000 EUR
運営(Verwaltung)
経理や財務、人事など、会社の運営に密接にかかわる主要業務部です。小規模な企業であればそれぞれの部署に担当者が一人~二人というケースも少なくなく、昇進や採用は能力に応じてというよりも「ポジションに空きが出たら」というパターンも目立ちます。
経理・財務(Buchhaltung・Finanzen)
経理と財務は基本的には異なる職務で、前者が文字通り会社の経理(請求書や領収書の仕分け等)を司るとしたら、財務部では売掛・買掛の管理や保険などを管理する業務内容となります。
文系職種の中でも特に数字に触れる機会の多い部署であり、ドイツの商法、会計・財務知識を身につけていることが採用条件とされています。そのためには、大学・大学院の会計、ファイナンス系を修学していると最低限の知見アリと見なされます。
求められるスキル:
高い語学力、会計・財務知識、等
年収相場:
32,000~47,000 EUR(経理)
33,000~50,000 EUR(財務)
人事(Personalwesen)
日本の組織でいうところの人事部に該当します。採用、業務効率化、給与、教育、退職、という人事に関する業務一般を手掛ける部署であり、大学や専門学校での「人事」の学位があると有利に働きます。ドイツの労働法に深く知悉している必要があるため、ドイツ語の読み書きスキルは必須です。
大規模な企業ではツールを用いて大規模な分析をおこなうこともあり、人事部の決定が組織の方向性を大きく決めることも少なくありません。
求められるスキル:
高い語学力、労務知識、契約書作成能力、分析能力、等
年収相場:
36,000~53,000 EUR
製造(Produktion)
会社の形態によりますが、ドイツの一般的なメーカーの場合、製造部門の構造は経営の成否に密接に関わっています。一般的には理系専門職の領域で、大学・大学院での専門の分野での就学が求められますが、例外的に他部署からの配置換えなどによって製造に配属されるケースもあります。
製品開発(Produktentwicklung: PE)
理系専門職と見なされることの製造関連の職種ですが、製品開発部は社内外の市場知識や幅広いサプライヤーとの折衝を要するため、ジェネラリスト的な働きが求められます。そのため、小規模なメーカーなどではむしろ営業経験者が製品開発部に配属されるといったことも散見されます。
製品開発部の職務としては、自社の強みやポートフォリオを活かした新製品の開発や改善であり、自社の開発スキームで足りない場合は他社との連携作業などもおこなわれます。そのため出張や他社との会議も多く、高度な語学力とコミュニケーション能力が求められることで知られています。
求められるスキル:
高い語学力、コミュニケーション能力、高度な製品知識、市場分析、等
年収相場:
36,000~52,000 EUR
品質管理(Qualitätsmanagement: QM)
外部監査・内部監査を通じて自社の製品やサービスが一定の基準をクリアしているかを判断する部署です。Blue Angel、EMAS、ISO、TÜV、CE等、ドイツの製品はBtoB、BtoCを問わず各種基準の達成が時に必須であり(時に任意ではあるが、マーケティングに大きな影響を及ぼす)、こうした基準達成のためのコミュニケーションには品質管理部が欠かせません。
分野によっては特殊な化学・物理の知識を要することから、一般的には理系スペシャリストの仕事と見なされています。社内では特にマーケティング部、社外でもサプライヤーや監査機関との連携が必要となることから、他部署同様高度な語学力が必要となります。
求められるスキル:
高い語学力、高度な製品知識、管理ツール知識、等
年収相場:
45,000~64,000 EUR

製品管理(Produktmanagement: PM)
上述の製品開発と類する部分がありますが、製品管理部(Produktmanagement)の場合、開発だけでなく製品のライフサイクル全体に関与することが多いと言えます。そのため、社外のサプライヤーは勿論、社内の営業部等とも密接に関係することで、絶えず自社内の特性を活かした製品の開発・改善に携わることとなります。
特定の製品に関する高度な理系知識に加え、折衝向けのコミュニケーション・語学力も不可欠、かつ新しい技術やデザインのトレンドを追っていくため、積極的に展示会に足を運ぶなどの動きも求められるポジションです。このように、業務が複雑なうえ自社の比較優位性を保つ最重要ポジションに数えられることから、数ある職務の中でも年収レベルは特に高く設定されがちです。
求められるスキル:
高い語学力、高度な製品知識、管理ツール知識、等
年収相場:
48,000~67,000 EUR