職場の服装は、その人がどのような仕事に就き、どのような社会的立場にあるかを体現するものです。所属する社会によって温度差が大きいことはみなさんご存じのとおりで、業種・職種に関わらず全体的に堅い国もあれば緩い国もあります。日本とドイツを比較すると、日本は前者寄りでドイツは後者寄りであると言えるでしょう。

仕事中の装いが保守的な日本人にとってこの「緩め」のさじ加減が難しく、特にファッションの幅が広い女性はどこまで崩していいか迷う場合が多いのではないでしょうか?そこで今回は、ドイツ社会でのファッションに対する考え方を解説しながら、ドイツで働く女性のオフィスファッションの最適解に迫ります。

【そもそも論】こだわり皆無?!ドイツ人のファッション

オフィスファッション云々の前に、ドイツ人のファッション全般へのこだわりについて少し解説します。まず、ドイツ人は基本シンプルな服装を好みます。それは、デザインと色づかいの両面について言えることです。毎年の流行を追いかけることには興味がなく、「自分は自分、他人は他人」という確固たる自信を根底に持って自分が好きなもの・似合うものを身に着ける傾向が強いようです。

ファッションはドイツ人の生活の中でプライオリティが低く、生きていくために必要な三要素「衣食住」の中でも最下位に位置すると言えるほどの重要度と見なされています。個人差はあれど、多くの人にとっての優先度は「住>食>衣」。デザインよりも機能を重視し、見た目よりも快適であることの方が大事と捉える人が多いのが実情です。また、顔立ちがはっきりしているのでシンプルでシックな服装が似合うというのも、ファッションにこだわりがない要因のひとつかもしれません。

職場に何を着ていくのが最適解なのか

前述のように機能性が重視されるドイツ社会では、「成果が出やすいのであればどんな格好でも構わない」というのがオフィスファッションに対する基本的なスタンスです。言い換えれば、「仕事をしていて快適な服装」、いわゆるオフィスカジュアルが推奨されています。日本のように高温多湿で汗を多くかく真夏にスーツを着用して仕事をするのは、ドイツ人にとっては非効率以外の何物でもないと映るのです。

Statistaの調査(2010年、※1)によると、ドイツ国内の雇用主の63%が「カジュアルルックで働いた方が生産性が高い」と考えており、調査対象24か国の平均値45%よりも18%、日本よりも22%高い値を示しています。雇用側の意識も働きやすさや快適性に向けられており、見た目や慣習に対するこだわりが薄いことが分かります 。

データ元:Statista, Zustimmung zur Aussage: “Arbeitnehmer im ‘Casual Look’ sind produktiver in ihrem Job als solche, die vorgeschriebene Kleidung am Arbeitsplatz tragen.”

それゆえ、女性の服装においても動きやすいパンツスタイルが定番になっています。スカートやヒールを日常的に着用する人は珍しく、キャビンアテンダントや百貨店員など日本ではスカートの制服が一般的な職業でもドイツではパンツスタイルが導入されています。服装面でも男女平等が進んでおり、身に着ける物による女性らしさは求められていないのがドイツらしいと言えるでしょう。

ドイツ流の女性版オフィスカジュアルとは?

ではドイツ流の「オフィスカジュアル」は具体的にどのような服装を指すのでしょうか?堅い業界であればパンツにジャケットやシャツ/ブラウス、自由度の高い業界であればパンツにセーター/カーディガンやTシャツ、というのが定番スタイルです。勤務先からの指定がない限りは好きなファッションに身を包んで仕事をして問題ありませんが、銀行や保険会社など顧客と接する機会が多い職業ではスーツ着用が規定されている場合もあります。夏場はワンピースやスカート着用率が高くなりますが、見た目というよりは涼を求めて着ている人が多いのがドイツらしく、また冷房設備のないオフィスも多いドイツでは合理的な装いと言えるでしょう。

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自由度が高い職場での服装は個人のモラルに任されていますが、さすがに仕事に適さない以下のような服装は上司から注意を受けることもあるようです。あくまで仕事であって遊びではない、という前提を頭に入れておくことが大切です。

【さすがにNG?オフィスでタブー視されるファッション】

・フリップフロップ(ビーチサンダル)

・ショートパンツやミニスカート、へそ出しなど露出度の高い服

・派手なリゾートファッション                                                      

ちなみに、オフィスで着用する服への支出額調査(ドイツと近隣2国、2021年、※2)によると、感染症流行前の2019年と2020/2021年の比較で約60%も減少していることが分かりました。以前は毎日出勤していたオフィスワーカーが、リモートワークやハイブリットワークなど働き方の変化によって出勤の間隔が空き、少ない手持ちで使い回せるようになった、あるいは普段着と兼用で問題なくなった、といった理由が背景にあるようです。無駄な支出を嫌うドイツのオフィスワーカーの間で、この傾向は今後ますます進んでいくと考えられます 。

データ元:Statista, „Durchschnittliche Ausgaben für Bürokleidung in Deutschland, Österreich und der Schweiz im Vergleich der Jahre 2019 und 2020/2021“

【出典・参考】

※1:Statista, Zustimmung zur Aussage: “Arbeitnehmer im ‘Casual Look’ sind produktiver in ihrem Job als solche, die vorgeschriebene Kleidung am Arbeitsplatz tragen.“, 2010年9月30日公開

※2:Statista, „Durchschnittliche Ausgaben für Bürokleidung in Deutschland, Österreich und der Schweiz im Vergleich der Jahre 2019 und 2020/2021“, 2022年7月12日公開