2025年現在ドイツの有効求人倍率はやや減少傾向にあるものの、高度なスキルを持った人材は不足が続いています。特にITや貿易に携わる「高技能人材」の不足は顕著で、ドイツの各企業はこうした人手不足に対処するために、転職エージェントや採用ポータルを駆使し、海外の優秀な人材を採用するなどの対処に追われています。
今回の記事では在独リクルーター歴10年の著者が、 「日本からドイツ転職を目指す応募者」のために、ドイツ企業の求める応募条件から応募方法・面接・採用後の手続きなどに関してのコツを解説したいと思います。
・転職後の有給日数や賃金水準など
・日本人がドイツで仕事を見つける方法
ドイツ転職後の入門知識
「ドイツへの転職」を考える際に、そのイメージが漠然としていてつかめないのではないでしょうか?給料はどれくらい?資格って必要なの?ドイツ語って話せる必要があるの?・・等々。まずは基礎となるドイツ転職の知識について、過去の転職成功者のデータを基に解説していきたいと思います。

転職での人気職種
ドイツに拠点を構える日系企業や、日本との取引を念頭においた国際貿易関連の仕事人気が多いと言えます。「海外営業」「営業アシスタント」「物流マネージャー」などに加えて、経理や総務といった日系企業のサポート的な職種が人気を博しています。
エンジニアやIT関連、デザイナーといった仕事内容での転職もありますが数は少なく、数の上で上位を示すのは貿易に関する職種と言えます。
応募条件に関する基礎知識
ドイツ転職を考えるにあたり、そもそも自分のスキルや応募条件でポジションを獲得することが可能なのかどうか、気になることでしょう。
「職歴」「学歴」「語学レベル」「海外経験」などが転職に成功するかどうかのファクターとなります。それぞれの条件に関する過去の転職成功者のデータは以下の通りとなります。
これは平均値であるため、実際には40代・50代で転職した人もいれば、就職経験が全くない状態で転職成功した人もいます。
傾向として10代~20代の場合でのドイツ転職の場合、仕事上の実績が乏しいため極めて優秀な語学や行動力(海外営業等)を武器にする傾向があります。
30代では仕事上の実績が多く考慮されるため、語学に加えて専門知識や大きなプロジェクトに携わった経験が求められます。
40代以降の場合では管理職経験などが現地の日系企業で重宝されることが多いため、語学力に加えて海外駐在経験、外国チームを率いて成果を出した経験などが求められるようになります。
転職後の待遇に関する基礎知識
ドイツに転職する場合、給与テーブルと業務形態は現地の習慣に準じることとなります。そのため年間20~30日の有給取得や、ワークライフバランスといった面での恩恵が享受しやすいのが特徴といえるでしょう。
ワークライフバランスで常に上位に顔を出すドイツの職場環境は、ワースト5位の常連である日本と比較すると良いものとされ、給与面でも転職後に平均して121.1%の増加が見られます。

ドイツ転職と応募
ドイツ転職の基本的な情報収集が完了したら、次は具体的な応募プロセスを見ていきましょう。応募自体は基本的にオンラインで無料でできるため、後述するように日本にいながらでもできますし、熱意を見せたければドイツに渡って転職活動を始めてしまうという手もあります。
いずれにせよ、転職活動に必要な書類はだいたい決まっており、以下のような書類や資格を準備しておく必要があります。太字で記したものは必須で、その他の書類は「あれば良い」程度にとらえてください。
日本から応募するパターンとドイツに渡ってから応募するパターンとでは何が違うでしょうか?
日本で現職を続けながらドイツでの転職チャンスを探るというのは、日本での転職活動同様、リスクを最低限に抑えられるやり方でもあります。一度ドイツに行ってしまうと、ビザのカウントが始まり、かつ生活費や保険料の負担も大きいことから、 ドイツでツテがない場合はこの「日本にいながら応募する」方法を推奨します。
日本にいながらの応募となると、基本的に転職活動はインターネットを通じてのものとなり、具体的には以下のような方法が見受けられます。
それぞれに長所、短所があり、一概にどの方法がベストかを断定することはできません。リクルーターを活用することは、人材募集の案件にスピーディにアクセスし、自身に適した職をマッチさせてくれるため、ドイツの転職事情が分からない場合に最も適しています。リクルーターへの人材登録自体は無料なため、登録しておく傍ら他の方法で採用を探るような手も可能です。
既にドイツに就労ビザ取得などの知見があったり、働きたい企業がピンポイントで決まっている場合などは、転職サイトを活用したり、それぞれの会社の個別採用ページから応募を受けるようなやり方も王道です。
日本で仕事を続けながらではなく、覚悟を決めてドイツに渡ってしまい、そこから転職活動を行うという方法も可能です。この場合、仕事が得られなかった際のリスクや生活費の負担などは増える一方で、面接に呼ばれたときにスムーズに顔を出せたり、採用メッセのようなところで情報収集ができるようになる、という利点もあります。
特にドイツ企業は世界各国からの応募を相手にするため、日本にいながらの応募者を冷やかしととらえてあまり真剣に相手にしない傾向にあります。また、リモート化が定着したとはいえ、まだ企業面接はオンラインではなく対面でのものを好む企業が多く、その意味では多少リスクを負ってでも渡独してしまうというのも、熱意を見せる上で良い手段となるでしょう。
ドイツ転職時の面接
応募して企業側から興味を持たれたら、次のステップは「面接」となります(筆記などを課す会社も一部あります)。面接ではドイツ企業は対面方式を好みますが、遠方に住んでいる等特殊な条件下では、お互いのリスクと手間を軽減するためにオンラインで面接を行うケースも多々見受けられます。
面接で聞かれることはある程度事前に予測可能で、以下のような問いがオーソドックスでしょう。
特に自身の専門性に関しては、ドイツ社会全体が「専門性」を重視する風潮にあるため、大学から就職まで一貫した自身のスキル・専門性をアピールできると良いでしょう。また、これらの質問を通じて会社側は以下のようなことを判断しようと試みます。
色々な質問が投げかけられますが、畢竟、人事側が知りたいのは「採用したらオファーを受けるのか」「自社で活躍できるのか」「自社に長く残るのか」の3点で、よほど人間性に問題がない限り、その他のソフト面での特徴などはあまり関心を示しません。
企業によっては3~4回複数の面接を設けるところもあれば、1~2回で面接が終えられる企業もあります。また、年収に関しても面接の場でざっくりとした数値を確認することが多いですが、実際にいくらでフィックスるかは契約書に署名するまで決まりません。
面接後・内定について
さて、こうした「応募」「面接」のプロセスを経て晴れて人事側が認めれば、見事に「内定獲得」となります。ここからの行動は、自身の居住地や仕事形態などにもよりますが、具体的には以下のような手続きが残っています。
既にドイツに住所がある場合はともかく、先ほど紹介したうちの「日本で働きながら転職活動をする」を選択していた場合、ここから就職の日までは様々な書類手続きに追われることとなります。
口約束での「内定」はまだ効力を持たず、最終的に法的な効力を持つのは労働契約書にサインした瞬間からです。世界の中でも指折りの「契約書文化」で知られるドイツでは、今後もこの契約書によって決定がなされる場面が多いので、注意しましょう。

ドイツ就職後の生活について
内定獲得後、実際にドイツでの仕事生活が始まります。その土地に実際に長期間滞在することになるため、単なる短期旅行のようにはいきません。ドイツで職を得た後の生活について紹介をしていきたいと思います。
冒頭で説明した通り、ドイツの仕事環境・ワークライフバランスは世界でもトップクラスです。一般的な企業では20~30日の有給休暇が定められており、残業も日本の一般的な社会人と比較すると少ない傾向にあります。
日本からドイツに転職した場合では、過去の職場との比較で有給休暇は年平均+13.29日増で、この休暇日数を駆使して欧州国内外への旅行や家族サービスなどに時間を費やすことが可能となります。Statistaのデータによると、有給消費中のドイツ人の7割が海外旅行に出かけているというデータもあります。
元々食料不毛地帯で知られたドイツでは、主食はジャガイモや保存食(ソーセージやハム)、揚げ物などで、新鮮な魚や野菜が食卓に並ぶようになったのは戦後になってからです。戦後間もない世代のドイツ人女性は「ジャガイモを料理できないとお嫁にいけない」と言われていたほどです。今でも、米の代わりに食卓には「フライドポテト」「マッシュドポテト」「茹でたジャガイモ」などが並びます。
こうした「保存食向き」の歴史的背景もあることから、ドイツの食事は脂っこく高カロリーであることが言えます。このことは、胃腸炎、メタボリックシンドローム、糖尿病などの生活習慣病などを引き起こすリスクがあり、外務省の公式HPでも注意が喚起されているほどです。
日本食に関しては大都市のアジアショップやオンラインショップを経由して購入することとなり、日本よりも1.5~2倍ほど割高となりますが、その他野菜・果物などに関しては日本よりも安い傾向にあります。
ドイツ全体の家賃・生活費の水準に関しては、住んでいる都市や家族構成によって大きく異なります。以下のように、都市の大きさによって家賃水準が変動(特にミュンヘンは高額)する傾向にあります。
| 都市分類 | 人口(市) | 50㎡程度の家賃(月) | 食費(月)目安 | 交通費(月)目安 |
|---|---|---|---|---|
| ベルリン (Berlin) 巨大都市 |
約3,750,000人 | €1,100~1,400 | €250~300 | €60~80 |
| ハンブルク (Hamburg) 巨大都市 |
約1,890,000人 | €1,000~1,300 | €400~500 | €60~70 |
| ミュンヘン (Munich / München) 巨大都市 |
約1,500,000人 | €1,400~1,800 | €350~450 | €60~85 |
| デュッセルドルフ (Düsseldorf) 大都市 |
約630,000人 | €900~1,300 | €250~320 | €50~60 |
| ミュンスター (Münster) 中堅都市 |
約300,000人 | €700~900 | €250~320 | €50~60 |
手取り、は求人に載せられている給与(額面)の6割から7割が手元に残るような計算になることが多いです。そのため、都市(※ミュンヘンなど)によっては月額4000€程度の給与がないと家賃・生活費を含めて生活が厳しいかもしれません。
一方、ドイツ日系企業のお膝元ともいえるデュッセルドルフは比較的家賃水準が安価なことで知られています。

