ワークライフバランス、私生活の充実と仕事の両立とが、日本においても昨今取りざたされています。ゴールデンウィークやシルバーウィーク等大型連休中の連休を取りやすくし、国内の旅行需要を促したり、リフレッシュ休暇を導入して休みやすくする試みも最近ではなされています。

労働者天国と呼ばれるドイツでは、すでにこうした日本の動きに先駆け、労働環境の改善や、私生活の充実プログラムを推進しています。

今回は、ワークライフバランスを語る上でもとりわけ重要なテーマの一つ、 「有給休暇」にスポットライトを当て、ドイツと日本における有給文化の違いを解説していきたいと思います。

この記事のターゲット:

  • ドイツでの就職や転職を目指す社会人
  • ドイツでの仕事文化、休暇文化に興味のある人

ドイツと有給休暇

ドイツでの仕事文化を日本のそれとを比較した際、大きく目を引く違いの一つに、有給休暇の日数と、その消化率が挙げられます。

最近では改善の兆しがみられますが、日本の一般的な会社風土の中では、まだまだ社内での有給の申請は様々な理由で困難なケースが少なくありません。

一応、名目上は労働基準法により、勤続年数と年間の労働日数をベースに付与される有給が義務付けられているものの、実情で、その規定通りに有給が消化されているかというと、やや疑問が残るでしょう。

一方、ドイツ社会ではどうかというと、有給の日数は、一般的な週5で働く会社員の場合、年間最低20日と義務付けられています。ただし、これはあくまで法定最低基準として設けられている日数ですので、企業によってはいくばくかの有休を加算し、最大で年間30日程度になるところもあります。

“(1) Der Urlaub beträgt jährlich mindestens 24 Werktage.
(2) Als Werktage gelten alle Kalendertage, die nicht Sonn- oder gesetzliche Feiertage sind”
和訳
(1) 年間で最低でも24日間の有給を労働日に対して与える必要がある
(2) ただし、労働日とは年間のうち日曜日と祝日を除いた日のことである

出典:Mindesturlaubsgesetz für Arbeitnehmer (Bundesurlaubsgesetz)

これに加え、ドイツには年間で10日前後(州によって異なる)の祝日が設けられているため、祝日の前後に有休を使い、毎月4~5日規模の連休を作る人もいます。このことは、ドイツ人が有給をロングバケーションに使うことを可能にし、実際に休み中にドイツ国内に滞在する人の割合は全体の3割程度で、7割近いドイツ人が海外(近隣欧州諸国や北米、東南アジア等)旅行で仕事の疲れを癒します。

Urlaub im Heimatland(Statista), JTB調べを元に作成
転職ペンギン

ドイツの場合、電車でも国境を越えられちゃうからね。それにしても国民の7割が毎年海外旅行なんて、羨ましい・・

フェリ

ちなみに、ドイツ人に人気の旅行先はStatista調べで1位スペイン、2位イタリア、3位フランスで、海がきれいで御飯がおいしい南欧諸国が人気ね。残念ながら日本はトップ10位にランクインしていないわ

ドイツの有給申請の方法と実体

さて、気になってくるのが、公にはドイツでは年間20~30日の有給休暇が与えられているものの、実際のところ、それらを使い、旅行に行ったり、実家に帰ったり、ということがしやすい雰囲気なのでしょうか、という点です。

例えば、日本エクスペディア社の調査によると、日本の有給消化率は支給日数20日に対して消化日数10日と、調査を行った19ヵ国のうち最低の消化率50%を示しており、実態が支給日数と乖離し、有名無実化しているケースが少なくありません。

一方、ドイツの場合、支給日数30日に対し、消化率100%と、実に支給された有給休暇30日を、年内に全て使い切っている様子がうかがえます。

日本エクスペディアを元に作成

ドイツという社会は、プライベート・家族の時間を大切にするため、有給取得に対して非常に寛容で、取引先も相手が有給休暇中、家族と旅行中と分かれば、それ以上の追撃をかけてきません。

むしろ、日系企業やアメリカ系企業から言わせると、ドイツ人は忙しい時にも平気で有給を使って旅行に行ってしまうため、たまには自重してほしい、という声が出ています。

また、こうした、有給のとりやすさや、家族との過ごしやすさは、OECDの算定した世界ワークライフバランスランキングにも反映されており、調査を行った35ヵ国のうち、ドイツのワークライフバランス指標は世界8位でした。

韓国やトルコと並び、世界ワースト5位にランクインしている日本と比較すると、その違いは顕著で、名実ともに、ドイツの有給は先進国屈指の取りやすさということが言えるでしょう。

OECD Better Life Indexを元に作成

また、日本からドイツに転職した応募者の実際の声を紐解いてみると、平均有給増加日数は+13.29日(年間)というデータが明らかになりました。日本からドイツに転職した者の半分以上は、前職よりも+15日(年間)以上の有給増という結果になっており、ドイツでの有給の取りやすさが垣間見れます。

転職ペンギン

日本に転職した日本人の平均有給増加日数は+13.29日!

フェリ

その代わり、ドイツは日本よりも国民の祝日が少ないから、トータルで見るとイメージ程休みは多くならないかもね。例えば、新年ドイツ人は1月2日から働いて、日本のようなゆっくりとしたお正月休みはありません

ドイツの有給休暇はなぜ多いのか?

さて、日本とドイツの有給休暇の日数、およびその消化率とで、なぜこうも違いが生まれてくるのでしょうか?

理由の一つとして挙げられるのが、日本とドイツの休暇に対する捉え方、態度です。

ドイツの場合、社会全体がすでに休暇(Urlaub)という文化を受け入れており、日本のように「周りが休まないから私も休めない」といった圧力が存在しません。それゆえ、「有給はとって当たり前」という雰囲気が昔から流れていることが、原因の一つとして挙げられるでしょう。

また、性格的な側面も強く影響しているといえます。例えば、心理的障壁に焦点を当てた学術調査によると、日本とドイツの企業文化の中で、以下のような違いが強く見受けられ、しばしばジョイントベンチャーなど日独共同作業の障害になる、ということが分かりました。

 日本ドイツ
個人主義vsグループグループ主義個人主義
ルールの守り方場の雰囲気を読む規範重視
ワークライフバランス公私混同が多々公私の分別をわきまえる
Source: Adapted from (Brennen et al, 2000)
転職ペンギン

周りに気を遣う、っていうのは日本人のいいところでもある一方、有給のような利己的な幸せや快楽を追求する際には不利に働くよね

フェリ

ちなみに、Expedia社の調べだと日本人の58%が有給を使うことに罪悪感を感じるとかで、世界でもぶっちぎりの一位。ドイツ人なんてどんなに仕事がたまっていても平気で休暇に出てしまうのに。。

日本社会では、場の雰囲気を読んで、有給取得を言い出せない、という場面がしばしばありますが、ドイツ社会においては、契約書に明文化されている有給の取り決めは絶対であるため、繁忙期であってもこれを使用する権利が社員にはある、という考えを持っています。

ドイツに支店を持つ日系企業は度々「ドイツ人は空気を読まずに有給を取る」という悩みを抱えますが、実際に契約書に明文化された権利である以上、それを忖度させることは難しいのがドイツにおける実情です。”
出典:ドイツ就職の際に知っておきたい日本とドイツの仕事文化の違い

このように、社会的、および個人の性格的違いなどから、ドイツと日本の有給取得率の差が生まれているといえるでしょう。

日本でも有給消化の義務化、ワークライフバランスの向上が喫緊の課題の中、ドイツ社会での有給の取りやすさは、一つのお手本になるのではないでしょうか。