ドイツで働く日本人にとって、ドイツ人との距離の測り方は誰もが悩むポイントの一つではないでしょうか。

こてこての日本の会社のように、終業後に同僚同士で飲みに行くという文化はドイツには無く、こうした日本的な文化を押し付けてしまうとむしろ嫌がられてしまうこともあります。

かといって、単に職場で仕事の話ばかりをしていても、ドイツ人社員との距離は一向に縮まりません。こうしたジレンマに関しては、以前のコラムで取りまとめています。

今回は、ドイツ人社員が喜ぶ職場での程よい気配り・演出について、ドイツの会社で一般的に行われている事例を参考にまとめていきたいと思います。

誕生日は盛大に祝う

ドイツ人と日本人の誕生日の捉え方は大きく異なります。ドイツ人にとって、誕生日はみなで分かち合い、盛大にお祝いをするさながらの儀式のようなもので、職場であろうと大学であろうと、誰か誕生日の人間がいたら当日に盛大に祝ってあげるのがマナーです。

上司から、いきなり直通の電話がかかってきてなんだろうと思ったら「誕生日おめでとう」だって。出張中で職場でお祝いできないからと、わざわざ電話までかけてくれた上司にほっこりしました(ドイツ人社員)

特にプレゼントを買ってまではしませんが、職場で歌を唄う、ケーキを用意する、別の部署であれば足を運んでお祝いするといったささやかな気配りが、お祝い好きのドイツ人を喜ばせます。

スイーツのおすそ分け

ドイツ人は公私混同(職場とプライベートとの)を嫌いますが、かといって万事が万事ものの見事に明確に区切られているわけではなく、割とルーズにその辺の境界をぼかしたりもします。

「家でケーキを焼いたから職場に持ってきた」光景は、ドイツ企業で働いているとよく見かけます。「ママがケーキを焼いたので、みんなにおすそ分け」「明日で退職なので、ケーキを焼いてきた」「新しいオーブンを買ったので、ケーキを焼いてきた」などなど、古いアメリカ映画さながら、日本では出くわすことの滅多にない、ケーキを焼いて持ってくるという状況に出くわすことが非常に多いです。

お祝い事はみんなで共有

ドイツ人は日本人と比べ、感情表現が非常に豊かです。嬉しいことがあれば笑いますし、怒るべき時には割と簡単に激高します。そんな彼らにとって、自分の周りで起きた嬉しい出来事は皆と共有し、祝ってもらうことが一般的です。

上述したような誕生日に加え、結婚や子供の誕生など、日本のようにご祝儀を包むとまではいかなくても、手紙を書いてもらったり、スイーツを貰えると好感度が高まります。

日本人の場合、自分のお祝い事を皆と共有というのはなんだか気が引けてしまいますが、物事をダイレクトに表現するドイツ人にあっては、そうしたお祝い事は包み隠さず職場でも共有しましょう。

お土産を分ける

日本では、出張や長期休暇の後などささやかなお土産があると喜ばれますが、ドイツでもそれはマストではないにしろ喜ばれます。当然それらは高価なものである必要はなく、チョコレートやお茶等、業務の合間を縫って楽しめる小さなものがベターです。

ま、一人一人に手渡しする必要もなく、キッチンのようなところに❝Geschenk❞といった形でお土産を置いておけば、ドイツ人が勝手に来てぺろりと平らげます。

空いた時間は雑談

雑談は、ドイツ語では「quatschen」と言い、主に業務に関係のない話や生産性のない話をするときに使われます。それが終日行われるようであれば労働環境として問題ありなのですが、多少の息抜きの雑談は、彼らにとってはむしろ生産性を高める絶好の息抜きです。

ついつい「ドイツ人は仕事をプライベートをきっかり分ける」という固定観念を意識し、中々ドイツ人に意味のない話題を振ることを躊躇してしまいがちですが、ドイツ人は非常におしゃべり好きで、5分~10分程度こうした大して実の無い話をすることが、心の距離を近づける近道になります。

日本人と仕事をしていると、やはり距離感の詰め方が難しい。業務以外の話はしないし、昼食の時は日本人同士で固まって話してしまう。どこかで打ち解ける時間などがあれば、こちらとしてももう少し仕事がやりやすくなる (ドイツ人社員)

もし業務中に話しかけることに気が引けるのであれば、一緒にランチに行こうと誘ってみるのも一つの手段でしょう。

季節ごとのイベントを企画する

基本的にドイツ人にとって、業務時間外の会社内の付き合いは避けられるものであれば避けたいものでしょう。とはいえ一部例外もあり、一年に1度や2度会社主催のクリスマスパーティやバーベキューパーティなどが開催されることは、むしろ大歓迎という面があります。

他部署の人とは普段は全く話す機会がないけど、この前のクリスマスパーティでは色々な人と仲良くなれてよかった。日本の料理もいろいろ出て、もっと日本の文化を学ぼうという気持ちになりました(ドイツ人社員)

会社によっては、社員だけではなく社員の家族やパートナーなどの参加もOKにしており、その時ばかりはドイツ人も仕事を忘れて、ビールを片手にソーセージを貪ります。終業後の飲み会のような文化がないドイツにあっては、このような季節柄のイベントは社員との距離をぐっと縮める一つのチャンスです。

プライベートを大事にしてあげる

最後に心構えとして、ドイツ人は自身のプライベートを非常に大切にする文化を持ちます。すなわち、クリスマスや冠婚葬祭、または日々の業務後の時間など、家族と過ごす時間を非常に大切にし、そのために仕事をしているといっても過言ではありません。

例えば、厳密には12月24日や12月31日はドイツでは法定の休日ではありませんが、慣例的に多くの企業がその日を休みにしたり、有給を取りやすい環境にし、家族と過ごす時間を作ってあげています。

国境を越えた人事マネジメントと言えど、行きつくところは一人ひとり個人との対話です。日本の会社だからといって日本の慣習を押し付けるのではなく、業務に大きな影響の出ない範囲で、彼らのプライベートの時間に配慮した働き方を提案できると、ドイツ人もより大きな働き甲斐を見出してくれるかもしれません。