国際貿易に関する支払いタームの、それぞれのリスクや長所を比較解説おこないます。
詳しい説明は各項に譲り、ここではドイツの貿易事務における支払い方法全般の捉え方について解説をおこないます。貿易実務の仕事は国内ビジネス以上に、リスクとリターンのバランスを明確に、時に迅速に勘案しなくてはいけない世界と言えるでしょう。
買い手の顔の見えない案件も少なくなく、オーストリアやフランスといったEU諸国は勿論、エジプトやケニアといったアフリカ、タイやベトナムといった東南アジア、南米や北米、といった世界各国のバイヤー(セラー)と売買契約を結ぶことがあります。そして、広い世界の中には、「製品を受け取った途端雲隠れしてしまう」「製品を受け取ったが、難癖をつけて支払わない」「製品の運送中に買い手が倒産し、売買契約が履行できなくなってしまった」といったケースが多々起こり得ます。自国内ならともかく、はるかかなた世界の裏側で雲隠れをされてしまったら、売り手にはもはや売掛金を回収する手立てがありません。
ゆえに、単に高値で買ってくれる買い手が見つかったと言っても、売り手は手放しに喜べないわけです。売り手にとっては、「製品代金を自社の銀行口座に回収して」はじめてビジネス成功と呼べるわけで、単に売買契約が成立した、というのは長い商取引のほんの序章に過ぎないのです。
代金の回収タイミングは、すなわち売り手のリスクに直結します。下記の表のように、一般的には代金の回収タイミングが早ければ早いほど売り手のリスクが軽減され(売り手有利)、逆に代金の回収タイミングが遅ければ遅いほど売り手のリスクが高まります(買い手有利)。
支払いのタイミング | 買い手リスク | 売り手リスク | 書類の手間・手数料 | |
前払い | 発送前 | 💀💀💀💀💀 | ‐ | ‐ |
頭金制度 | (製造着手前など)一部を前払い | ※頭金の額による | ※頭金の額による | ‐ |
D/P | 💀💀 | 💀💀 | ||
CAD | 💀💀 | 💀💀 | ||
L/C | 銀行への書類の引換えタイミング | 💀 | 💀 | 💀💀💀💀💀 |
D/A | 💀 | 💀💀 | ||
COD | 💀💀 | 💀💀💀💀 | ||
後払い | 買い手に届いて後 | ‐ | 💀💀💀💀💀 | ‐ |
後払い+信用保険 | 買い手に届いて後 | ‐ | ※保険会社にリスク転嫁 | 💀💀 |
売り手と買い手の公平さ
ゆえに、当然のことながら売り手も買い手もそれぞれにとってリスクの低い方法による売買契約を模索します。売り手にとっては全額前払いで払ってくれればリスクゼロですが、そうすると買い手は当然納得しません。ゆえに、貿易実務の世界ではそれぞれのリスクが同じ塩梅になるような支払い方法に帰結することが多いと言えます。上の表では、L/C辺りが一見公平なため使いやすそうですが、果たしてそうでしょうか?
リスクvs手続きの煩雑さ
双方のリスクを鑑みれば、L/Cが双方のリスクの総量を最低限に抑えられる支払い方法の一つと言えるでしょう。もっとも、L/Cを用いる場合、銀行手数料と書類手続きの手間が他支払い方法に比べ高まります。また、与信結果や国によってはL/Cが用いられないケースもあり、L/Cが利用できたとしても書類不備により「discrepancy」が発生、手形の買い取り拒否となることもあり油断できません。
その意味で、リスクの偏りは極端ですが、T/T前払いやT/T後払いは煩雑な手間が省け効率的とはいえます。
支払い方法はケースバイケース
貿易実務において、支払い方法の見極めはビジネスの成果に直結するといって過言ではないでしょう。リスクとリターンを見極め、顧客や状況に応じ、迅速に適切な支払い方法を準備できる知識と決断力が往々にして求められてくるわけです。買い手と売り手の信頼関係やパワーバランス、納期、出荷数量、カントリーリスク、与信状況、など様々な状況に応じ、適切な支払い方法を選択しましょう。