幻冬舎が運営する「13歳のハローワーク」では、2021年上位に「外交官」「YouTuber」「プロスポーツ選手」などがランクインし、世相を反映する形となりました。もっとも、このランキングが実際の転職市場に反映されているかどうかはさておき、昨今の若年層の興味を示すのに面白いデータの一つです。

様々な理由でドイツに渡った日本人の中にも、やはり「人気の職種」というものが存在します。給与水準や仕事のやりがいであったりと、人気であるその理由はまちまちですが、こうした人気の職種は市場にも求人が出やすく、ドイツ移住を考える日本人の受け皿として機能しています。

今回の記事では、こうしたドイツで日本人就職に人気の職種を理由を交えて紹介していきたいと思います。

ドイツでの職種の住み分け

在独日本人に人気の職種の解説に入る前に、ドイツでの「職種」に関する考え方について簡単に触れておきましょう。

ドイツの社会は徹底したスペシャリスト文化として知られています。「餅は餅屋」の精神に則り、それぞれの職域を他の職域の人間が侵さないような形で仕事が割り振られており、日本のようなジェネラリスト型の仕事文化とは一線を画します。

例えば大学・大学院で「物流・ロジスティック」を専攻した学生は、卒業後も「物流・ロジスティック」関連の職種に従事することが多く、ここから「営業」や「マーケティング」のような他業務に移るようなことはあまりありません。

具体的にどの職種がドイツ人にとって人気かは、定義方法にもよって異なるので一概に断定することはできませんが、高給取りである「士業」関連以外では(Welt紙調べによると、ドイツで最も人気のある職種は医者)エンジニア、海外営業、コンサルタント、ITデベロッパー、などが需要の多い人気職種として知られています。

日本で人気の高い「マーケティング」「デザイン・設計」などの需要も多い一方で、給与水準は上記のような職種と比較して低いことから、爆発的に人気を博すことはありません。

日本人にとっての人気職種

さて、この「ドイツで人気の職種」をドイツで就職活動をする日本人に当てはめて考えると、状況は異ななってきます。Career Management社2020年調べのデータによると、ドイツでの日本人就職者に人気だった業種は以下の順で、営業関連の需要が高いことが窺えます。

  1. 営業関連
  2. マーケティング関連
  3. 研究開発・エンジニア
  4. ロジスティック・物流関連
  5. IT関連

人気の理由は事項で詳しく説明しますが、上述の職種群には共通して以下のことが言えるでしょう。

  • 給与水準が比較的高い
  • 日本人でも無理せず就職が可能
  • 専門スキルを身に着けやすい

注意すべきなのは、ここで書かれている「営業」や「マーケティング」の業務内容は日本国内のそれとはまったく異なる、という点です。ドイツでドイツや欧州各国の市場を相手にする以上、求められる業務内容や給与水準などは、キャリアアップを考えて渡独した日本人たちを満足させるのに十分な水準であると言えます。

またドイツでの就職先を考える際には、「ドイツ国内の日系企業」と「ドイツ企業」の就職先二種類が存在し、それぞれ異なった特色を持つ点に注意しましょう。ドイツで就職活動する日本人にとって人気の就職先は、日本語の素養や過去の職歴をそのまま活かせることの多い「ドイツ国内の日系企業」で、全体の日本人就職者の9割以上を占めています。

営業関連(営業・営業推進・セールスエンジニア)

ドイツで日本人が転職・就職を行う際に一番人気となる職種が、「営業」関連の仕事です。営業と一概に言っても飛び込み営業や厳しいノルマが設けられているところはそこまで多くなく、英語やドイツ語、日本語、あるいはその他欧州諸語の知見を活かし、世界各国の法人顧客を相手に折衝する業務です。

人気であることの理由の一つに、経験を積んだ日本人の営業の数がドイツ市場で不足しがちな点が挙げられます。特に、ドイツに進出している2,000社とも言われている在独日系企業は、欧州で自社市場のプレゼンスを保つために、常に欧州各国の顧客と対等に渡り合える優秀な営業社員を探し求めています。

顧客(代理店、小売店、直接の顧客)の売上管理をおこない、日本の本社とのパイプ役となるのが、ドイツにおける日本人営業として求められる仕事内容となります。特に、ドイツの営業で数字の管理が必要になってくる理由が、日本やそれ以外の生産拠点からドイツに製品を運ぶ、Lead Time(納期)の存在です。顧客とのコミュニケーションを密にとって在庫の管理を行わなくては、顧客から発注が来てもすぐに販売できないという事態に陥ります。
出典:【ドイツ求人】日本人営業社員の業務内容・応募要件を徹底解説します

給与面でいえば、ドイツで営業職は全職種の中で中位(キャリアによるが、役職無しで年収40,000EUR~60,000EUR程度)に位置し、成果や役職次第では100,000EUR以上の報酬も得ることが可能です。専門知識やアフターサービスを必要とするセールスエンジニアはドイツでも高所得の部類に入ることから、日本人だけでなくドイツ人からも人気の職種です。

Außendienstと呼ばれる外勤営業やセールスエンジニアであれば、顧客を訪問して顔を合わせてミーティングすることが主たる業務となり、欧州内への出張業務が醍醐味の一つともなります。逆に、営業推進などでは数字と向かい合って数値目標を定めるデスクワークが多く、出張は少ない形となります。

ドイツ日系企業の営業職

  • 英語は必須、ドイツ語は必要ではないこともある
  • 対欧州顧客対応を受け持つことが多い
  • 欧州各国への出張が多く、やりがいを感じやすい
  • 日本人の受け皿・需要が多い

ドイツ企業の営業職

  • 高度な英語・ドイツ語レベルを要する
  • 日本人の場合、対アジア営業を受け持つことが多い
  • 日本人の受け皿・需要が極少

ドイツでの日本人営業関連の求人はこちらを参照

マーケティング関連

日本人がドイツでマーケティング業務に着く際の受け皿となるのは、メインとして「欧州で認知度を広めたい在独日系企業」でのディレクション業務であることがほとんどです。仮にドイツ企業でマーケティングのポジションを得ようと思うと、ネイティブクラスの言語力が必要となるため、日本人には不適であることがほとんどです。

各国でのマーケティング・ブランディングにはその国々の言語や文化に知悉している必要があるため、日本人である我々がその国(ドイツ等)のマーケティングをどっぷりおこなう、というよりは、日本本社のコンセプトを現地用にかみ砕き、現地人のマーケティング担当者と協力して業務をおこなっていくようなイメージとなります。

この中には「Webサイト作成」「動画作成」「広告の作成」といった様々な分野のマーケティング業務も含まれており、特に少数精鋭の企業などではマーケティング部の担当者にその責務が課されられることも少なくありません。

給与水準に関しては、直接の顧客折衝を含む営業やセールスエンジニア等と比較するとやや低く、日本人平均で35,000EUR~45,000EUR程度となっています。また、営業と違って目に見える成績の判断が難しく、昇給に結び付きにくいというデメリットを持ちます。

ドイツ日系企業のマーケティング職

  • 英語はマスト、ドイツ語は必ずしも必要ではない
  • 欧州市場におけるマーケティング・ブランディングの包括的なかじ取り
  • 営業職に比べると需要は少ない

ドイツ企業のマーケティング職

  • 高度な英語・ドイツ語レベルを要する
  • ドイツでの学位を必要とすることが多い
  • 専門性を活かした各部門(IT、雑誌、広告等)の担当
  • 日本人の需要は極少

エンジニア・セールスエンジニア

ドイツに拠点を持つ日系企業、あるいはドイツ企業の双方でエンジニアは一定数の需要を持ちます。日系企業の場合、セールスエンジニア的な立ち回りであることが多く、純粋なエンジニア(機械工学や電子工学)の専門性を活かすのであればドイツ企業での就職が望ましいでしょう。

ドイツ日系企業のエンジニア職

  • 英語はマスト、ドイツ語は必要ではないこともある
  • フロント寄りの業務も任されることが多い
  • ジェネラリスト型の職種
  • 営業と比較すると需要数は少ない

ドイツ企業のエンジニア職

  • 高度な英語・ドイツ語レベルを要する
  • ドイツでの学位を必要とすることが多い
  • スペシャリスト型の職種
  • 日本人の需要は極少

物流・ロジスティック関連

日系企業とドイツ企業とでは、物流・ロジスティック業務の形態は異なります。ドイツに拠点を持つ日系企業の場合、物流部は「輸出」「輸入」「在庫管理」などを包括的におこなう部署として、時には営業社員や営業アシスタントが物流的な仕事を兼ねることも少なくありません。こうした業務には、過去の仕事で貿易や輸出業務に関わっていた人が適していると言えます。

対してドイツ企業では、物流系の業務はスペシャリスト寄りのポジションで、特に大企業では理系のロジスティックの専門知識や学位が求められることが少なくありません。

ドイツ日系企業の物流・ロジスティック職

  • 英語はマスト、ドイツ語は必要ではないこともある
  • ジェネラリスト型の職種
  • 営業と兼ねることが多い

ドイツ企業の物流・ロジスティック職

  • 高度な英語・ドイツ語レベルを要する
  • ドイツでのロジスティック学部の学位を必要とすることが多い
  • スペシャリスト型の職種
  • 日本人としての需要はほぼゼロ

Web・IT関連

便宜上、IT周りの職種をこのカテゴリにまとめてしまいましたが、実際には「ITデベロッパー」「ITエンジニア」「フロントエンドデベロッパー」「バックエンドデベロッパー」「Webデザイナー」等多様な業務を含みます。

特に、ドイツ人の間でもITエンジニアは人気職種の一つですが、日本からドイツに転職するときにIT関連の業務を選択するのは簡単な道のりではありません。ドイツの場合、大学の専門と就職後のキャリアが紐づいているため、基本的にはIT畑でのキャリアを目指す場合、大学でITエンジニアなどの学位をえていることが望ましい条件となります。加えて、高度なドイツ語と英語能力が求められるため、ドイツにあるIT系のスタートアップなどでも、日本人の姿を見かけることはほとんどありません。

ドイツにある日系企業のWeb・IT関連の業務を見ると、やはり業務はローカライズしていることが多く、日本人のエンジニアやIT人材を雇うケースは少数です。ただし、セールスエンジニアのように、専門知識を活かして顧客との折衝まで行える人材は一定数の企業でも必要とされています。

ドイツ日系企業のWeb・IT関連職

  • 英語はマスト、ドイツ語は必要ではないこともある
  • 営業・フロント寄りの業務も任されることが多い
  • ジェネラリスト型の職種
  • 仕事の受け皿は少ない

ドイツ企業のWeb・IT関連職

  • 高度な英語・ドイツ語レベルを要する
  • ドイツでの学位を必要とすることが多い
  • スペシャリスト型の職種
  • 仕事の受け皿自体は多いが、日本人の採用者は極少