ドイツの女流作家、インゲボルグ=バッハマンは小説「30歳」の中で30歳という年齢を、「若くもないものの、かといって年を取ったというには早すぎる年である」と形容しました。

バッハマンの一節に表されているように、ドイツ社会において、この30歳という年齢は、精神が半端な青年期から壮年期へと成長する過渡期として考えられており、キャリアの上でも私生活の上でも重要な転換期の一つです。

今回は、ドイツでの就活(転職)を考えるとき、30歳という年齢がどのような意味を持つのか、給料の目安、転職時に求められるスキルなどに焦点を絞って解説を行います。

日本とドイツ:“30歳”に対するとらえ方の違い

日本では、大学卒業後に順当に新卒で仕事をスタートしたと考えると、30歳という年齢はすでにキャリアで言えば6~7年目にあたり、大勢の部下を扱うとまではいかないものの、それなりに責任のある職務を任せられている年齢です。

私生活で言えば、日本の男女の平均初婚年齢が30歳±1歳であることを鑑みると、一種の結婚適齢期のように扱われている節があります。

こうしたことから、日本社会において30歳という年齢は、公私ともに責任のあるポジションを任せられる年齢、として捉えられていることが伺えます。

一方で、ドイツにおける30歳の扱いはどうかというと、ドイツの場合大学生が大学を卒業後そのままストレートで仕事を始める、というケースはまれで、実際にはインターンシップ、海外留学、大学院進学などを挟み、本格的なキャリアをスタートするのは25歳以降であることが目立ちます。

実際に、転部などをおこなったことで、30歳を超えて大学や大学院を卒業する、というケースもドイツでは多々存在し(統計的には、大学生の15%は30歳以上)、そこまで30歳という年齢が特異に扱われることはありません(Spiegel OnlineSpiegel Online)。

ドイツの結婚平均年齢は男性で33.8歳、女性で31.2歳と、日本より約2年遅れていることを考えると、公私ともに責任を持つには30歳という年齢は少し早いと思われています。

30歳は海外就職の最後のチャンス?

ただ、上記の条件はあくまでドイツ国内でのことですので、日本や韓国、欧州国外からのドイツ転職を考える場合、やはり30歳という年齢が一つの区切りとして見られている側面は多々あります。

根拠の一つに、ワーキングホリデービザの上限が挙げられます。ドイツ‐日本間で結ばれているワーホリビザの上限を見てみると30歳で、これを大きく上回ってしまうと、外国人がドイツでまっさらな状態からキャリアをスタートする場合、様々な困難が予想されます。

二つ目の根拠となるのが、当社の調べによるアンケートリサーチに基づくもので、日本からドイツに転職する人の平均年齢は30.7歳で、26歳から35歳までの全体における割合が82%と、ほぼ大半を占めています。

出典:Career Management ドイツ転職レポート 2020

もちろんこれらはあくまで目安であり、必ずしも30歳を超えるとドイツでの就職が難しくなる、というわけではありません。人によってはマネージャーとして海外経験を積んだ35歳以上のほうが転職のポジションに引っ掛かりやすいというようなこともあり、一概に年齢がネックになるとは限りません。

ただ、日本と全く異なる環境であるドイツにまっさらな状況から身を移す際の年齢の目安としては、やはり30歳~35歳辺りを一つの目安として捉えることが良いでしょう。

30歳からのドイツ転職 求められるスキル

それでは、30歳からドイツへの転職を考える場合、どのようなスキルが必要とされ、どのような給料でどのようなポジションが用意されているのでしょうか?以下、それぞれの点について解説をおこなっていきます。

仕事上のキャリア

人事の評価対象は、一般的に30歳を境に変化します。日本では、30歳まではある程度企業側が育てることも考慮し、将来のポテンシャルなどを重用しますが、30歳を超えると過去の実績や経験に重きを置いた採用プロセスになります。

日本よりも成果に重きを置いた評価をなすドイツでもこれは同様で、30歳までは学歴、大学での専攻や成績、語学力など、必ずしも仕事上の成果とは言えなくても評価の対象になりますが、30歳を超えると、今までの仕事上の実績などにより重点をおくようになります。

ドイツのリクルート会社(Gulp experts unitedGulp experts united)の統計によれば、ドイツでは過去の職歴が6~7年であればJunior Managerとしてではなく、Senior Managerとしての広範な知識と経験が要されるとあり、一般的に30代前半を超えると、こうした仕事上の専門知識と経験が重要視されてきます。

とはいえ、ドイツの大学生の15%は30歳以上であることからも言えるように、30歳を過ぎて大学を卒業する、というケースも稀ではありません。その場合は、過去のフルタイムでの職歴よりも、在学中におこなった仕事や、インターンシップなどの経験が評価対象になります。

また、以下のグラフが示すように、日本からドイツに転職する場合、平均的な日本での勤続年数は3.8年で、転職成功者の多くが2年~8年のキャリアを日本で積み、ドイツに転職しています。

出典:Career Management ドイツ転職レポート 2020
  • 30歳での就活では過去の実績(仕事経験)が多くのケースで求められる
  • ドイツ企業に転職する場合、過去の職務と似たものであることが多く要求される
  • 在独日系企業に転職する場合、必ずしも同じ職務でなくても通用することがある
  • 大学卒業したばかりの者でも、インターン経験などや大学の評点が重要な評価対象

語学力

年齢にかかわらず、ドイツでの就職時には必ず日本語+英語(ドイツ語)のスキルが求められてきます。実際にどのくらいのスコアが必要かは会社やポジションによりけりですが、一般的にビジネスレベル(C1)、あるいはB2レベルが一つの目安です。

英語、ドイツ語ともにC1レベルに達している場合、就活の範囲は広がります。一方で、ドイツにおいてドイツ語ができる、英語ができる、というのはあくまで他のドイツ人同様のスタートラインに達したにすぎず、そこからアドバンテージを得るには上述のような仕事上のスキルが必要です。

例えば以下のグラフは、日本からドイツに転職した応募者が転職時にどの程度の語学力を満たしていたかを示しています。

出典:Career Management ドイツ転職レポート 2020
  • 語学力は非常に重要
  • 英語(or/andドイツ語)でB2~C1レベルが必要
  • 実務経験は必須ではないが、あると評価対象
  • ビジネスシーンで扱える日本語知識があると就活の範囲が広がる

大学時代の専攻や成績

年齢とともに、過去の実績に対する評価の割合が大きくなる一方で、専攻や大学時代の成績に対する評価は少しづつ減っていきます。

それでも、ドイツでは「成績2.0以上のみ応募可能」といった求人広告を見かけることも少なくなく、やはりそれなりに人事の評価軸に学歴や大学時代の研究といった項目は含まれてきます。

また、ドイツのキャリアステップは基本的に「専門分野の深化」によって行われるため、大学の専攻=過去の職歴であることが多く、過去の仕事上の実績の延長線上として、大学時代の成果が評価されることが多々あります。

  • 30歳以降になると学歴はそこまで重要ではなくなるが、一定レベル評価対象となる
  • 特に、大学院や博士課程まで進学した者にとって専攻は重要なポイント
  • 重要なのは、大学名だけでなく「大学時代の専攻」と「大学時代の成績」

給料

ドイツリクルート会社のStep Stone社の公表しているデータ(Jobsuche im FokusJobsuche im Fokus)によると、ドイツにおける給与は会社の規模、仕事の分野、都市、性別、役職、最終学歴などによって左右され、特にその中でも過去の勤務年数が重要なファクターになってきます。

例えば、ドイツで全く新しい分野で過去の実績無くキャリアをスタートする場合、目安となる給与テーブルは30,000~45,000€程度と言われています。

一方で過去の実績があり、中途として採用される場合、過去の実績や勤務年数に応じて給与がかさ増しされ、仮に24歳で大学卒業後6年間のキャリアを積んでいたとすれば、平均的な年収はそれ以上です。

ただ、いくら過去の実績があっても、日本など異なる文化圏からの転職の場合、こうした過去の職歴がリセットされ、「ドイツでは新卒」とみなされて一から給与テーブルの階段をスタートするケースも稀ではありません。

このように、重要なのは「過去の職歴があるかどうか」であり、逆に言えば「30歳だからこれくらい」「35歳だからこれくらい」という年齢に応じた相場というものがあまり多く見かけられないのがドイツ就活事情の特徴です。

  • 新卒としてスタートする場合、大卒で年収30,000~45,000€が相場
  • 過去の勤務実績がある場合、その年数や成果に応じて報酬が加算される
  • どこまで過去の実績が加味されるかは、転職先の企業の特性次第
  • 特に、日本からの転職の場合、過度な期待はできない