外務省統計によると、約45,000人の日本人がドイツに長期滞在しており、そのうちの1/4程度の12,000は、帰国を前提とした駐在や交換留学ではなく永住者としてカウントされています。

イギリスのEU脱退に伴い、ドイツの欧州拠点としてのプレゼンスが日本の産業界でも益々高まっていることから、現地移住・現地採用の専門性の高い日本人需要も増加傾向にあります。

今回は、 日本で一度就職したバックグラウンドを持つ元サラリーマンが、新天地ドイツで仕事探しするにはどんなことが必要なのか、解説していきたいと思います。

この記事のターゲット:

  • 日本で2~3年以上の職歴があるサラリーマン
  • ドイツでの仕事探しを目指す人
  • ドイツでの仕事や留学の経験がない人

ドイツと日本の就活の違い

ドイツでの仕事探しを志す場合、まずは日本とドイツの仕事文化の違いを念頭においておく必要があります。

ドイツにおける就活・就職スタイルは、日本のそれとは異なり、プロフェッショナル育成を前提としたものです。それゆえ、経理畑なら経理畑、営業畑なら営業畑、と、基本的に専門が変わることはなく、日本のようなジェネラリストの育成を前提としたジョブローテーション方式とは一線を画します。

また、人材は企業が長期的に育てる、という育成文化の日本とは違い、ドイツでは若さよりも過去の職歴・実績が重要視されます。

例えば、A社の「マーケティング部」の職種に空きが出たとすると、40歳のベテランから大学出たばかりの新人まで多種多様な人材が応募し、一般的に企業としては伸びしろよりも過去の実績をもとに採用します。

これは、ドイツの「ジョブホッピング」と呼ばれる転職文化を考えれば納得のいくもので、日本のように終身雇用の根付いた文化とは違い、折角育てても他社に流れていってしまうことが常態化している以上、企業としても辞められることを前提に、即戦力を採用するわけです。

就活時に求められる技能

そのことを念頭において、続いてドイツ仕事探し時に求められる技能についてまとめていきます。ドイツにおける仕事探しで重要視されるポイントは、以下の4点です。

  1. その分野における職務上の経験
  2. 学歴(大学の成績)
  3. 語学力
  4. ドイツに滞在するバックグラウンド

職務上の経験

職務上の経験とは、その分野、その専門での職歴、功績などです。ドイツで転職を考える際は、最低でも3年程度、特定の分野での職歴があることが好ましいとされています。

この職務上の経験に対する日独考え方のギャップが、日本人がドイツで転職する際にしばしば難点となることがあります。

例えば、日本で営業、マーケティング、人事など、いわゆる「文系の仕事」にカテゴライズされる職能は、日本の仕事文化に適していますが、それが常にドイツでも通用するとは限りません。

いくら日本で日本人相手に10年の営業経験があっても、ドイツ人に対してその営業力が発揮できる保証はどこにもないので、ドイツで簡単に営業職につけるわけではありません。ここが、日本における就活と、ドイツにおける就活を比較した際の大きな違いです。

そのため、ドイツで新しく仕事を始める日本人は、しばしばキャリアがリセットされ、給与テーブルも最初からになるケースが少なくありません。あくまで、 ドイツにおいて認められるのは、通算の職歴ではなく、特定の専門職における職歴の長さです。

ただ、ドイツにとって日本は貿易上重要なパートナーの一つであるため、日本における仕事の経験が重宝される分野もいくつかあります。日本への貿易を検討しているドイツ企業、ドイツ国内の日系企業と取引のある企業、あるいはドイツにある日系企業で日本本社との折衝を必要とする企業などでは、日本における経験がそのまま活かせます。

ドイツ就活における職歴に関する考え方に関しては、「日本人の転職はドイツで分が悪い?」の記事をご参照ください。

学歴・大学の成績

職歴と並んで、ドイツ就職時にしばしば言及される点が学歴です。日本のように、「どこの大学を出た」といった大学のネームバリューというより、大学・大学院で何を学んだか、どれほど良い成績を残したか、といった部分に焦点が当てられます。

上述の通り、ドイツ社会における就活のスタイルは「特定分野におけるプロフェッショナル」の育成ですので、大学の専門⇒大学院⇒インターン先⇒就職先、と、基本的に一貫した専門性が求められます。

大手企業の中には、GPA換算で3.0以下(ドイツ方式で2.0以下)を足切りするところもあり、いかに大学の成績を重視しているかがうかがえます。

もっとも、日本と同様、20代のキャリアが形成される前には学歴が重要視されますが、年数を経て仕事上の経験が増えるにつれて、こうした学歴上の成績や大学のネームバリューの持つ意味は薄れていきます。

語学力

日本人がドイツで就職する際に障壁となるものの一つが語学力。ドイツ企業で働く場合、基本的に「ドイツ語+英語」がともにビジネスレベルで必要とされます。日本語が求められる企業数はそう多くなく、語学力をアピールしたい場合、ドイツ語と英語を武器にする必要が出てきます。

一般的に、ドイツ企業での就職を考える場合、ドイツ語・英語ともにC1レベルの語学力が目安となります。ドイツ語だと、TestDaf 4×4やGoethe-Zertifikat C1のような試験、英語だとTOEFL 100やIELTS 6.5~7.0くらいがC1と見なされるボーダーラインです。

一方、在独日系企業など、ドイツに拠点を持つ外資系企業で働く場合、ドイツ語力は必須ではなく、むしろ話せると高評価を貰える場面が少なくありません。

ドイツ就活における語学力に関する考え方に関しては、「ドイツ就職で求められる語学力」の記事を参照ください。

ドイツに滞在するバックグラウンド

語学力や職歴とはやや毛色が異なりますが、 人事担当者の関心事の一つは「この応募者はどのくらいドイツに滞在するのだろうか」という部分です。

それは、長期雇用を前提とした在独日系企業であってもドイツ企業であっても同じことで、その根拠づけのために、面接ではたびたび「ドイツに来た理由」「将来ずっとドイツに滞在するのか」といったことを聞かれます。

ここで、返答に窮してしまうと「あんまりドイツに長く滞在してくれなそうだな」と面接者にとられてしまい、好印象とは言えません。

日本人のドイツにおける就職先

上述の通り、日本人がドイツで職を得ようとすると数々の困難に直面します。このような条件を満たせるような日本人のサラリーマンは、そう多くはないのではないでしょうか?

元サラリーマンの経歴を持つ日本人がドイツでの就職を志す場合、こうした大手ドイツ企業の求める条件を全て充足することは難しく、自身の強みを活かせる分野で戦うことをお勧めします。以下に、日本人が自身のキャリアを活かしやすい就職先の例です。

在独日系企業の現地採用

まず、 最もポピュラーな就職先にあげられるのが、現地に拠点を持つ日系企業です。欧州経済におけるドイツのプレゼンスは非常に高く、多くの日系企業が欧州本社をドイツに構えており、日本のバックグラウンドを持つ者にとってヨーロッパでもっとも働きやすい環境の一つです。

在独日系企業に就職するメリットとしては、ドイツ語がマストではないケースもあり、かつ日本での職歴がそのまま評価されやすい点です。

仕事としては、日本と欧州市場を結ぶ重要な役割が多く、現地のマーケティングからサプライヤーとの折衝、販売の管理まで、多種多様な任務が必要とされています。

現地の文化を取り入れつつも、日本的な長期視野での仕事文化を残すため、採用者の長期的な育成を心がけている企業も少なくありません。

ドイツ現地企業

日系企業ではなく、ドイツの企業で働くという選択肢も少なからず存在します。

この場合、日本での前職を活かせる仕事の内容としては、日本市場開拓、在独日系企業との交渉事など、対日本関連の業務が大多数を占めます。

人事や経理、あるいはドイツの顧客向けにコンサルや営業をする、という業務は、主にネイティブドイツ人の担当となるため、どうしても日本のバックグラウンドを活かした仕事内容になりがちです。

ドイツでは日増しに専門性の高いポジションへの日本人需要も増加しつつありますが、このように、在独日系企業を狙うのか、ドイツ企業をターゲットにするのかで、就職の戦略が変わってくることに注意しなくてはいけません。