ヨーロッパ転職を志す際、企業側から重要視される項目の一つに応募者の「職歴」が挙げられます。ところがこの職歴の考え方については、ヨーロッパと日本との仕事文化の違いを念頭に置いておかないと、大きな誤解を招きます。

ヨーロッパでの就活時に、この職歴の持つ意味を、日本での意味のまま捉えてしまうことが原因で、上手くいかないことが多々あります。

今回の記事では、日本とヨーロッパでのキャリア・職歴の考え方に関する違いに焦点をあて、ヨーロッパにおける正しい「職歴」の理解について解説し、内定の勝ち取り方を説明します。

この記事の読者層:

  • 日本からヨーロッパへの転職を考えている層
  • ヨーロッパで就職活動しているが上手くいかない層

ヨーロッパと日本:職歴・キャリアステップの違い

日本の職歴・キャリアステップの向く方向性は、日本という国の文化・性格を投影するかのように、色々な部署の構造を知り、色々な仕事に対応できる、長期的な社員の「ジェネラリスト」としての育成です。

日本の代表的な人事制度として挙げられる新卒一括採用ですが、採用時点で、会社側はまだ誰をどこに配置するかを決めていません。まず人ありき、続いて個人に適したキャリアパスを用意し、それを通じて会社事情に精通するジェネラリストを育てる、というのが、日系企業の伝統的な方法論です。

それゆえ日本人の職歴は、同じ会社にいながら、たびたび違う部署や専門を経験することが少なくありません。

転職ペンギン

日本のジョブローテーション文化って、欧米から見たらかなり特殊なんだってね

フェリ

いろんな部署を経験して、横断的に組織を知る人材を育てて社内のコミュニケーションを円滑にする、っていうのが戦後日系企業が世界市場でイニシアチブをとってきたやり方だからね。それが今後通用するかどうかは別として。。

対して、ヨーロッパの仕事文化の方向性は「スペシャリスト」の育成です。職人文化の息づくドイツやオランダ等では通常、大学では一般的な理論を学び、大学院でさらに細分化された専門性を深め、それをもとに卒業後は特定の分野でのキャリアを極めていきます。

会社側は、通常空いた部署やポジションに人を当てはめていくような採用方法を採ります。日本の「先ず人ありき」の人事制度と対比をなす、「先ず仕事ありき」の人事制度なのです。

そのためヨーロッパ人の職歴を見ると、会社は転々としていても、大学・大学院時代から一貫して専攻・経験職種は同じという、専門性の軸のぶれないものが目立ちます。

日本からの転職はなぜヨーロッパで分が悪い?

さて、上記の職歴・キャリアステップに対する捉え方の違いを念頭において、日本人がヨーロッパで転職をするという状況を考えてみましょう。

日本で経験する、営業、マーケティング、人事、など、いわゆる日本人の大半のサラリーマンの占める文系ポジションは、日本の会社、社会への特化型の職能です。

サラリーマンの写真
(C)flicker Ryuta Ishimoto

上述の通り、ジョブローテーションを通じて会社内でのネットワークや暗黙知を強化し、仕事の進みをスムーズにする、という考え方は、日本の仕事文化に独特なもので、欧米のようにスペシャリストの育成を目指す文化圏にあっては、その強みが評価されません。

また、対外的なスキル、例えば「私は営業・マーケティングの経験があります」という職歴も、実際のところ、「私は日本市場に対して営業、マーケティングの経験があります」と置き換えて考えなくてはいけません。

日本の企業や市場に向けた営業やマーケティングの知識や功績があっても、それが「ヨーロッパでの営業・マーケティング」といったポジションで同じように発揮されるとは限らないと、採用側は考えるのです。

転職ペンギン

日本でどんなに職歴があっても、ヨーロッパの企業に転職する際は「新卒」扱いで仕事を始める人も少なくないんだとか

フェリ

残念ながら、欧米企業は日本での職歴を現地で活かせると考えるケースは少ないわね。国が違えば仕事のやり方も違う、やはり現地で大学を出て現地化された専門知識を身に着けた人が優遇されがちよ

人事や経理など、現地(ヨーロッパ)のルールを知らないと対応が難しい職種の場合、日本における資格上のアドバンテージ(例えば公認会計士や弁護士)は全く同じようには使えません。知識やスキルとして応用することは十分可能ですが、日本国内と同等の待遇を受けるためには、現地の資格を新たに取得する必要が出てきます。

もちろん、日本の大きな企業で仕事した経験、というのはヨーロッパでの就活の際に一定評価がなされることもありますが、就職ポジションと日本で経験したポジションとで乖離がある場合、キャリアの階段がまた一からのスタートになることも珍しくありません。

そのためヨーロッパでの転職は、日本で長年キャリアを培った人にとっては、正しい就活知識をもとに行わないと、鬼門なのです。

日本人、30代、男性

日本では大手銀行の法人営業を10年勤めていました。ヨーロッパでもそのキャリアを活かして就職、と思ったのですが、日本の実績を評価してくれる現地企業は全くない。50社以上履歴書を出して、返事はゼロでした。

フェリ

ヨーロッパの企業からしたら、銀行業を知っているといよりは「日本市場の銀行業を知っている」と同義ですからね。ヨーロッパでその知識が使えるかどうか不明瞭なので、おのずと採用にも慎重になりがちね。。

日本での「職歴」を正当に認めてもらうためには?

とはいえ、日本での職歴がヨーロッパでも正当に活かせる分野や環境、というものがいくつか挙げられます。

一つ目は専門職です。特殊な例でいえば、多くの日本人サッカー選手がドイツやイタリアで活躍しているように、国境を越えてもその技能が活かせる職業の場合、日本での職歴がそのままプラスに反映され、転職成功というケースが見受けられます

その他、エンジニア、プログラマー、建築家、芸術家、音楽家なども、遠いヨーロッパの地で成功を収めている日本人が少なくない分野です。

転職ペンギン

芸は身を助く、ってやつだね

フェリ

言語面で不利がある日本人は、特殊なスキルや技能でカバーする必要があるわね。他にも、料理長やイラストレーターなども日本人の専門職が多い分野ね

二つ目は、日本への営業や市場開拓を企図するヨーロッパ企業への就職です。特に中小企業の場合、日本やアジアの市場の知識がないものの、コンサルタントを雇うほどの規模でもないため、日本人を水先案内人として採用し、日本市場開拓に向けるケースがあります。

この場合、主な取引先は日系企業になるため、過去の日本企業との営業や、マーケティングの知識が活かせます。ただし、ヨーロッパの企業は合理的なので、撤退の判断も早く、数ヶ月、早ければ数週間経っても日本市場で満足な結果が残せそうにない場合、首を切られることもあります。

転職ペンギン

日本の外資系みたいなイメージかな?

フェリ

まさしく!欧米企業は短期で結果を追うので、試用期間内で結果が出ないと半年でクビ、みたいなことも割と当たり前でおきてしまうわ

三つ目は、ヨーロッパにある日系企業への転職です。

上述の、日本市場を開拓するヨーロッパ企業の逆で、ヨーロッパにはヨーロッパ市場を開拓するための大手日系企業拠点が数多く、そういったところでは、主に日本本社とヨーロッパ市場、双方の折衝役となる日本人が必要とされています。

こうしたポジションでは、日本組織の理解が必要とされる一方、ヨーロッパ市場に対する興味、英語やドイツ語の知識などを持つ、国際的な場面で活躍できる日本人が渇望されています。

実際に、ドイツの日系企業に転職した日本人のうち、約40%はもともと営業畑出身のもので、転職後には海外営業、支店マネジメントなど、より国際色の強い仕事に携わっています。

転職ペンギン

実際に、ドイツ転職する日本人のうち8~9割はこの「日系企業」への転職者が占めているね

フェリ

上述したように、日本での職歴や学歴を一番正当に評価してくれるのは日系企業ね。どんな職種がおススメかに関しては過去記事の「ドイツでの日本人のおススメ求人ベスト5」を参照してね

日系企業の場合、前職の日本人としてのジェネラリスト的な職歴も十分に評価してもらえるため、日本での経験が無駄になり、またキャリアを一から始めなくてはいけない、ということがありません。昨今、優秀な海外人材を追い求める在欧日系企業への就職は、日本の職歴をキャリアアップにつなげるための好例として挙げられるでしょう。