ドイツで現地採用された日本人のうち、日系企業とドイツ企業に就職する割合は約8:2とされています(埼玉大学研究「変容する海外で働く日本人」参照)。サッカー選手や音楽家と言った専門家人材の好まれるドイツ企業への就職と対をなすように、ドイツに進出している日系企業は日本での社会人経験を積んだ営業職やアシスタント職を好む傾向にあり、ドイツ渡航・就職を目指す若い日本人の受け皿として知られています。
さて、このようなドイツの日系企業での現地採用は日本で得た知識や経験が活かしやすく、日本人有利の就職先ですが、こうした現地採用勤務ではどのようなポジションが与えられるのか気になりませんか?
今回の記事では、皆さんが ドイツ現地の日系企業に採用された際の職種や役割について徹底解説していきます。
ドイツの日系企業ってどんな感じ?
世界各国に拠点を持つ日系企業の総数は約77,000社にのぼります。うち7割近い53,000社が中国やベトナムといったアジア諸国に集中しており、欧州に拠点を持つ日系企業の数は10%程度となる8,300社です。
国単体として見ると、ドイツに拠点を構える日系企業の数は1934社にのぼり、世界では7位、欧州内であれば欧州2位のイギリスに2倍近い差をつけて圧倒的な1位の座を長年維持していることが分かります。
欧州における日系企業拠点数 | 国名 | 日系企業数 |
---|---|---|
1位 | ドイツ | 1934社 |
2位 | イギリス | 960社 |
3位 | フランス | 749社 |
4位 | オランダ | 673社 |
5位 | ロシア | 416社 |
なぜドイツは日系企業が拠点を構える先としてこうも人気なのでしょうか?
いくつかその要因は挙げられますが、市場規模が大きくインフラ整備がされており、販売先の市場としても、生産拠点としても、はたまた欧州統括拠点としても魅力的なことが大きな理由です。
また、ドイツに進出する日系メーカーの数が増えれば、そこに付随して金融や保険といったサービス業、さらに日本人駐在員やその家族をターゲットにしたレストランや、病院、幼稚園が進出し、日本人にとって魅力的な国としての環境が好循環で整えられていくわけです。
ドイツに日系企業が多い理由:
- 平均所得も人口も大きく、市場が魅力的
- 労働者の知的水準が高く、生産・研究拠点としても適している
- 企業向けインフラが整っている
- 欧州経済の中心として、他ヨーロッパ市場進出の足掛かりにしやすい
- 日本人コミュニティが強く、駐在員の家族も安心して生活できる
- 医療、治安、セキュリティなど全体的に欧州内で高水準
地域別
ドイツには5つの都市(ベルリン、デュッセルドルフ、ハンブルク、フランクフルト、ミュンヘン)に日本総領事が設けられており、それぞれの担当地域を管轄しています。
全ての企業形態をカウントに入れると、ミュンヘンに属する日系企業の数が738社として最も多いのですが、日本人現地採用の受け皿になりやすい、現地法人として登録されている日系企業の数を見比べるとデュッセルドルフが最多であることが分かります。

日系企業や日本人駐在員、その家族をターゲットにした日本語のサービスも、やはりこの5都市、特に「リトル・トーキョー」の名前で知られるデュッセルドルフでは日本人向けコンテンツが充実しており、レストランや食材屋だけでなく、病院、美容院、幼稚園なども日本語でサービスを享受できることで知られています。

業種別
続いて、業種別の日系企業数に目を向けてみましょう。ドイツ日系企業全体の約半分にあたる979社が「製造業」であり、業種としては圧倒的な比率を持つことが伺えます。もっとも、この傾向はドイツに限らず他国に進出している日系企業に関しても同様の事情で、モノづくりの優位性を活かした現地販売、現地生産拠点の設立、といったニーズによって進出が顕著です。

必然的に、ドイツで求人案件となる日系企業のポジションは、製造業に関わるものが多く、語学力を活かしたドイツやドイツ周辺地域への営業、マーケティング、営業補佐といった職種が人気を博しています。
製造系の職種では、過去の製品・業界知識があれば重宝されますが、それら周辺知識は必ずしも求められるわけではなく、就職後の社内研修などを通じ製品知識を身に着けていきます。
ドイツの日系企業で多い現地採用職種
ドイツに進出している日系企業の主たる目的には、欧州最大の経済大国ドイツ市場における拡販、あるいはドイツを足掛かりにした他欧州諸国への拡販といった内容が挙げられてくるため、求められる職種にも全般的に語学力を活かした営業系が多く見受けられます。当社、キャリアマネジメント直近5年の転職者割合では、アシスタント職や営業職が半数以上を占めます。
※現地就職と海外駐在の違いについては「ドイツ就職で海外駐在と現地採用のどちらを目指すべき?」の記事を参照してください。
営業アシスタント(営業、物流、経理全般)
日本人のドイツにおける職種で多くを占めているのが、営業アシスタントと呼ばれる職種です。日本社会では、総合職との対比で知られるエリア職が近しい表現になることでしょう。営業サイドから送られてきた発注書をまとめたり、インボイスを発行したり、貨物の見積もりをおこなったり、営業のサポートをおこなう業務です。
日本のエリア職との違いは、業務内で多言語を活用する機会が多いこと、異文化コミュニケーションが求められること、貿易処理的な実務内容が多い事、などが挙げられます。表立って顧客と切った張ったの交渉事をおこなうわけではありませんが、フォワーダーやドイツ人営業との折衝の際に英語やドイツ語によるコミュニケーションが必要となります。
オフィスワークの機会が多く、出張などに同行することは稀ですが、業界や会社によっては展示会の準備、顧客訪問なども業務内容に兼ねられていることがあります。

営業
日本でも人気の高い職種の営業ですが、ヨーロッパで販路を拡大する日系企業にとっても同様、海外法人における花形的なポジションです。対象とする市場がドイツやオーストリアと言ったDACH地域であればドイツ語の素養が、その他ヨーロッパ市場への拡販を狙うのであれば英語での素養が求められるポジションで、加えて文化差を越えたコミュニケーション・交渉の技量が問われます。
その仕事の性質上、デスクワークよりも出張ベースの業務が多くなり、人によっては年の半分を出張に費やす、というケースも見られます。当然、製造部や営業アシスタントといった部内の同僚とのチームワークも求められますが、基本的には一人で外出することが多いでしょう。
上述の通り、ドイツに進出している日系企業の大半は製造業のため、必然的にメーカーでの営業チャンスが増えることとなります。製品の強み、弱みを熟知するためには本社や製造部との密なコミュニケーションが要され、欧州内だけでなく日本本社への出張や、頻繁な日本とのやり取りも任されることがあります。

マーケティング
マーケティングという職種には様々な業務内容が含まれます。企業ブランドの欧州における認知度向上、デザイナーや写真家との折衝、カタログの作成、サイトのローカライズ、等々。当然、こうした業務をすべて一人でやるには限界があるため、こうしたタスクを横断的に理解し、それぞれのパートナーや代理店との交渉役に回ることが一般的です。
もっとも、業務の特性上当然デザインやウェブ周りに関する知識を持っていることは重要で、過去にそういった経験が有れば採用の確率が上がりますし、就職後もトレンドに乗り遅れないために自己研鑽の日々が続きます。仕事柄、デザイナー等と折衝することが多いため、社内でも少しくだけた、洒脱な格好をしていることが目立ちます。

営業促進・営業推進
営業が顧客や取引先を飛び回る前線ポジションであるのと対照的に、営業促進は一歩引いた位置で戦況を見守るポジションとして理解されます。特に、企業サイズが中規模以上になれば、各国、各地域に展開している営業職の数字をまとめあげ、本社や欧州統括との意思伝達をおこなう役が必要になり、それがこの営業促進というわけです。
単に営業から挙げられる報告を右から左に流すだけでなく、業績向上のためにプロアクティブな動きを見せることも。特にドイツ人と日本本社との間に入ってお互いの橋渡しをする、といったダイナミックな業務も期待されています。
