ドイツで職を得て最初に届く給与明細を読むと、見慣れない字面が並んでいます。

ドイツの給与額面(Brutto)から手取りとなる金額(Netto)を計算するためには、日本と同じく、保険や税金などが差し引かれなくてはならないため、給与明細にはそれについての計算や税金の種類がつらつらと書き綴られているのです。

中には、ドイツ特有の税金や概念なども加わっており、一見して日本人には分かりづらいものとなっています。

それゆえ今回は、ドイツにおける額面と手取りの違い、実際にもらえる額などに関して、日本人流にかみ砕いた説明をしていきたいと思います。

ドイツの額面と手取りの違いについて

ドイツで初めて給与を手に入れると、差し引かれる額の多さに戸惑うことがあります。額面とされる月収から、所得税はもちろん、健康保険、年金、さらにはSolidaritätszuschlagといったよく分からない税金まで引かれていて、それらが正当な金額なのかどうか自分では判断がつきません。

ドイツの額面と手取りのギャップを計算する際には、様々な条件(年齢、子供の有無、額面の多寡)などが関わってくるため、一概にどれくらいの額面でどれくらいの手取りが残るとは言えませんが、30歳未婚男性であれば、おおよそ以下のような形です。

参照元:Brutto Netto Rechner

例えば、日本の30代前半サラリーマンの平均年収は457万円(民間給与実態統計調査より)ですので、これをベースに、月収40万円の人がそのままの給料でドイツに転職した場合を想定してみましょう(ボーナスは算入しないと仮定)。

日本で月収40万円の場合、一般的な手取りは32万円前後です。

これに対し、ドイツの場合3000€(約40万円)の額面を想定すると、手取りは2000€(約26万円)程度となり、ドイツでは額面と手取りのギャップが日本以上に大きいことに気が付きます。

さらに、日本の企業とドイツの企業とを比較し、注意しなくてはいけないポイントが、福利厚生の有無です。

日本では、基本給とは別に、通勤手当、住宅手当などが支給されますが、ドイツの企業では大抵そういった福利厚生面の手当ては発生しません。それゆえ、日本と同じ生活水準を保ちたい場合、給与交渉の際に注意が必要になってくるのです。

※在独の日系企業などは例外です。日系企業の場合、日本風の福利厚生文化を残し、現地採用者に対して月の交通費をあてがっているケースもあります。

差し引かれる額について

ドイツの給与明細は、郵便にて自宅に届くケースが大半です。封を開けると「給与明細書」が同封されており、給与に加え、差し引かれる税金や保険料が記載されています。

給与明細の項目は、以下のような形で記載されています。

この例をもとに、具体的に額面から差し引かれる保険料、税金の種類を順に解説していきます。

①Summe Gehalt (Brutto) – 額面

給与明細の一番上に記載されているのは、Bruttoと呼ばれる金額で、日本語では額面・給料として知られるものです。ここに記載されている額から、実際に税金や保険料などが差し引かれていく形になります。

ジョブオファーの面接などでよく人事や面接官に「給料はいくらほしい」と聞かれますが、その場合聞かれているのはこの「Brutto(額面)」の給料のことです。

②Lohnsteuer – 所得税

給与税、所得税として日本語では知られるものです。ドイツにおける所得税の計算方式は、日本同様、累進課税と呼ばれる「高所得者であればあるほど支払う税金の率が増えていく」というものです。

例えば、月収3000€の場合の所得税は400~450€程度ですが、月収がその2倍の6000€になると、所得税は単純に2倍ではなく1500€程度に達します。

➂Kirchensteuer – 教会税

日本には無くヨーロッパの一部の国に見られる税金の種類で、教会に属するすべての給与所得者が対象となり、この税収をもって教会の運営費などが賄われます。

逆にいえば、教会に属していなければ支払う義務のない税金になりますので、ドイツで働く日本人で教会に属していない場合は、支払わない選択肢もあります。

④Solidaritätszuschlag – 連帯税

教会税はドイツ以外の国(アイスランド、フィンランドなど)でも見かけることがありますが、連帯税はドイツ固有の税金です。

連帯税の起こりは、1991年に西ドイツと東ドイツが統合した際の莫大な財政負担(特に東ドイツ側の)を将来の税収で賄っていこう、という種のものですが、2019年現在でも続いていることに対しては、各界から疑問の声が上がっています。

2021年以降随時撤廃予定

➄ Rentenversicherung – 年金

ここから先は、Sozialversicherungと呼ばれる社会保険料で、ビスマルク時代にドイツがシステムを構築した社会保障制度の枠組みを踏襲しています。

ドイツの年金受給年齢は現在過渡期にあり、2029年以降ドイツの年金支給は67歳からとなります。日本人の場合、ドイツで60ヵ月以上年金を支払うことで年金受給資格が発生、年金受給年齢に達すると支払った額と年数に応じた年金が受け取れます。詳細は以下のコラムを参照ください。

結論から述べると、どちらの道を選んでも両国での加入期間を合算して受給することができます。日本とドイツは日独社会保障協定を結んでおり、この協定に従い、ドイツでの加入期間は日本で加入していたものとして数えることができるからです。
引用元:ドイツと日本で年金保険に加入:受給方法と制度解説

⑥ Krankenversicherung – 健康保険料

ドイツに在住する者は全て、ドイツ人も外国人も、健康保険への加入が義務付けられています。大学生や正規所得者でない語学留学生などの場合、私的健康保険への加入が可能ですが、ドイツで正式な職を得た場合、法定の健康保険への加入が必須となり給与からの天引きが行われます。

➆ Pflegeversicherung – 介護保険料

要介護状態と認定された場合、毎月、あるいは一時介護支援金がドイツから支給される制度です。介護保険を含む日本の社会保険制度は、ドイツ制度を見本として作られており、こうした制度や支払いに関するルールは、日本の制度を思い返すと感覚的につかみやすいはずです。

⑧ Arbeitslosenversicherung – 失業保険

日本人であっても、ドイツで所定の条件さえ満たせば失業手当の給付対象となります。逆にいえば、日本人であってもドイツで働く以上失業保険料の支払いの義務が発生するということで、毎月いくばくか給与から差し引かれていきます。

ちなみに、ドイツにおける失業保険の受給資格が開始するのは、失業前の2年間のうち、12ヶ月以上失業保険料を納めており、かつ現在求職中(すなわちドイツで就業の意思がある者)に限り、支給額は支払った失業保険料の額と期間に応じます。

➈ Netto – 手取り

上に列挙した税金・保険の類を額面(Brutto)から差し引いて残った額が、給与口座に振り込まれる金額である手取り(Netto)になります。

就職活動の際の賃金交渉は、このように、あらかじめ差し引かれる税金、保険料の額を念頭において行う必要があります。上述の通り、一般的にドイツでは差し引かれる税金、保険料の総額が日本よりも多くなるため、日本からの転職の際、同じ生活水準を保つためには、あらかじめ手取りと額面のギャップを計算しておくと良いでしょう。