日本の就職・転職市場で根強い人気を誇る「営業職」ですが、ドイツでも営業職(Vertrieb)は実績主義で給与が上がりやすく、対人スキルや商学の知識を身につけられる職種として長年人気を博しています。
さて、一見して国を越えても同じ「営業職」のため求められる技能や素質は同じように思えますが、日本とドイツとでは求人条件や仕事内容が一部異なることに注意しなくてはいけません。
自身の語学能力や異文化コミュニケーションを存分に活かせる場としてドイツの営業職に就くには、どのような技能が必要になってくるのでしょうか?給与水準から求められる能力、日本人のおススメのドイツの営業職まで徹底的に解説をおこないます。
ドイツにおける営業職の仕事
一口に営業職といっても、実はドイツには無数の種類の「営業職」が存在します。我々日本人にとって、営業とは窓口顧客や取引先と折衝し、モノやサービスを「販売」する仕事全般を指しますが、ドイツでは以下のように細分化されており、職種や会社によっては職業訓練や学位が必要になることもあります。
主なドイツの「営業」
- Vertrieb (営業全般)
- Verkauf (販売部)
- Vertriebsingenieur (セールスエンジニア)
- Account Management (法人営業)
- Außendienst(フィールドセールス)
- Innendienst(インサイドセールス)
こうした「営業」に関わる仕事の中で、日本の「総合職営業」の解釈に近いのがドイツ語の「Vertrieb」になるのでしょうか。企業間顧客(一般的にはB to B)との直接の折衝に加え、マーケティングや、メーカーであれば物流のアレンジも含まれることの多い立ち位置となり、企業によってはビジネスデベロップメントや営業推進の職域も含まれます。

対して「Verkauf(販売)」は、Vertrieb(営業)のカテゴリの一つとして理解されることが多いと言えるでしょう。車のディーラー、スーパーや小売店の販売員、などは「Verkauf(販売員)」として、一般的にはVertriebとは応募要件が異なります。直接一般顧客との対面が多く、極めて優秀なドイツ語が求められるため、日本人が働くとしては極めてレアな業種と言えるでしょう。最も、中にはVertriebとVerkaufの境界が曖昧であったり、会社によって呼称が異なったりもするので、具体的にどのような職業なのかは求人詳細を見て確認する必要があります。

仕事内容
ドイツのVertrieb職の業務では、同じく日本でいうところの「営業」に関連する業務を幅広く引き受けています。重要な点は、ドイツにあって営業は最前線の職種というよりも、企業と顧客の中間でボールをさばく「ミッドフィルダー」のような働きが求められています。そのため、対外折衝よりも往々にして対企業内折衝の割合が多くなるケースも少なくなく、それが原因でドイツの営業職では対外折衝要員であっても高度なドイツ語力が求められる、というわけです。
営業職のメイン業務
- 情報収集
- 市場分析
- 顧客の新規獲得
- 顧客との折衝
- 顧客のアフターサービス
我々が営業と聞いてイメージする、上記のような業務内容の中でも、企業によっては役割がさらに細分化されています。例えば、企業規模が大きければ、新規獲得専門のインサイドセールスやリサーチ部隊を配置しているケースもありますし、逆に中小規模であれば一人の営業が一手に引き受けます。
上記のような業務に加え、社内の他部署と連携して動く類の下記のようなタスクも、営業の仕事として重要だと言えるでしょう。
サブ業務
- 新製品の開発(製品開発部等と)
- マーケティング(マーケティング部等と)
- ブランディング(マーケティング部等と)
- 認証取得(製品管理部等と)
- 貿易、物流手配(物流部等と)
- 在庫管理(物流部等と)
応募要件
ドイツで営業職に就きたいと思ったら、どのような応募要件を満たす必要があるのでしょうか?性格的に対人交渉が好き、グローバルな仕事が得意、といった部分も重要になってくる一方、エキスパート主義のドイツ社会においては営業になるにあたっても様々な素養が求められてきます。
職務経験/業界知識
実績を重視するドイツの営業職市場にあっては、営業としての実績があるのかどうかは面接の合否を分ける大きなファクターになります。全体の8割近くの営業職種が、応募時に「営業としての職務経験」を求めており、中でも特に「その業界」の営業経験を求めるところも少なくありません。よって、ドイツで営業職につきたければ、最低でも3年以上の営業経験を積んでから応募することをお勧めします。
この点は、ドイツの就職事情の特殊な点と言っても良いのですが、とにかくその業界のキャリアを始めようという人間が最も高いハードルを乗り越える必要があります。最も、誰もが最初は「未経験」のため、学生のうちにインターンや訓練生制度を使ってどうにか経験を積むような社会構成となっています。
語学能力/コミュニケーション
上述の通り、ドイツの営業職は対外折衝、社内折衝双方を担う役割を持ちます。そのため、その双方に対して円滑にコミュニケーションできる語学力とコミュニケーション能力が必要とされるでしょう。
単にドイツ市場担当の営業であれば、基本的に求められる能力はドイツ語ですが、海外担当となると話は複雑です。具体的には、DACHマーケット担当であればスイス人やオーストリア人の話すドイツ語を理解する能力が求められますし、南米マーケットの担当であればスペイン語やポルトガル語が求められます。他にも、ドイツにとって重要な貿易パートナーであるフランス語や中国語を話せる営業職の需要は高いと言えます。
最も、机上の語学スコアだけではなく、実際のビジネスで円滑なコミュニケーションがとれるかどうかも重要なポイントです。国によってはメールのやり取りだけでなく、食事に行ったり、家族のパーティに呼ばれたりと、プライベートの付き合いを必要とする国もあり、そうした文化的背景を理解している人間が望まれます。
学位
4~5割程度の営業求人が、営業、経営、マーケティングなどに携わる学位を望んでいます。マストではないものの、やはり物流、金融、会計、マーケティングといったテーマにくまなく知悉している人間のほうが会社としては扱いやすく、それが応募条件になることが少なくない背景と呼べるでしょう。
最も、中には学位は不要、実績重視、あるいは職業訓練可、など会社によってこのあたりの条件はまちまちであると言えます。いずれにせよ、ドイツにおけるビジネス一般の最低限の知識は身に着けておいた方が面接での印象が良いと言えます。
給与体系
ドイツ人の給与体系は、その人の持つ業界経験と知識の深さによって大きく変動します(その他、外的要因としては業界、企業の大きさなどによっても異なります)。一般的な職種であれば、ドイツ人のキャリアパスは以下のような段階を描いて成長していくと言えるでしょう。

はじめのうちは、学業と並行、あるいは新卒ほやほやの時期は訓練生、あるいはインターン生の肩書を持って仕事に1年程度従事することになります。ここでは、高給を望むことは難しく、あくまで知識を身に着ける修行の場として割り切らざるを得ないでしょう。
その後、正式に正規雇用契約が結ばれてからの5年程度は「ジュニア・マネージャー」と呼ばれ、担当する職域が増える一方で、まだまだドイツの社会人の中では見習いポジションである感が拭えません。 仕事知識を身に着け、職能に責任が伴うようになると、シニア・マネージャーとして見なされるようになり、この時期にはドイツの平均給与を越えた「高給取り」の仲間入りを果たすことができます。さらに管理職ポジションに昇進し、チームや部門をまとめるようになればここから更に給与が上がりますが、ヒトによってはキャリアを終えるまでシニア・マネージャーとして従事するケースも少なくありません。
また、営業職では他部門よりも「成功実績」に比例した昇進や昇給が一般的で、いくら長く業界経験が有っても、実績が残せないと給与が上がらない、といった例も多々見受けられることでしょう。
日本人がドイツで営業職として働く方法
デスクワークメインではなく、語学力を活かしてドイツや他のヨーロッパ諸国の企業と折衝をおこなうダイナミックな業務で、得られる平均給与も基本的には高い部類に属します。そのため、ドイツ人の中でも特に就職人気の高い「Vertrieb(営業)」のポジションですが、日本人がこの職を得ようと思ったらどのような会社に申し込むのが良いでしょうか?
ドイツ企業の営業職
ドイツ企業の中でも、顧客群がドイツ市場、ヨーロッパ市場である企業で営業として採用してもらえる期待は薄いと言わざるを得ないでしょう。
対外折衝に関して言うと、国内のB to Bビジネスでは、交渉の機微を理解するため、ほぼ例外なくネイティブの話者が求められます。また、他の欧州諸語との折衝要員としても、ドイツには様々な国からその国の言語を母国語とする外国人労働者が出稼ぎに来ており、わざわざ日本人を営業として採用するメリットはありません。
ドイツの就職市場で求められる言語を紐解くと、英語に次いで必要性が高いのはフランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、ポーランド語、アラビア語、中国語、トルコ語の順になっており、日本語は残念ながら上位に姿を現しません(Indeed参照)。
加えて、ドイツの営業は多くの時間を社内とのコミュニケーションにあてます。そのため、可能であればコミュニケーションの取りやすいドイツ人が好まれ、ここでも日本人を採用するメリットが生まれないわけです。
もっとも、中には日本人、あるいは日本語話者の営業職がドイツ企業の中で必要とされるケースもあります。日本市場をターゲットとした企業、あるいは欧州に点在する日系企業を顧客に持つ電子部品や自動車部品関連の企業です。こうした企業であれば、日本企業との折衝用に、日本の文化を理解し日本語を話す、日本人営業職の需要が見いだせることとなります。ただ、その求人数はかなり少ないと言ってしまって良いでしょう。(ドイツ日系企業での就職に関しては「ドイツの日系企業に日本人が現地採用されるための条件とメリットは?」のコラムを参照ください。)
ドイツの日本企業における営業職
ドイツやヨーロッパの企業を相手に、自身のドイツ語、英語を武器に活躍するというポジションを頭に描いているのであれば、ドイツに拠点を持ちヨーロッパの販路拡大に勤しむ日系企業が就職先として最も適していると言えるでしょう。
純粋なドイツ企業でドイツ相手の営業職ポジションを得ることは現実的ではありませんが、日系企業であれば話は別です。日本本社や製造拠点とは日本語で、ヨーロッパ市場とは英語やドイツ語でやり取りのできる日本人人材が重宝される傾向が強く、実際にドイツで営業として活躍する日本人の多くが日系企業に在籍しています。
ドイツの日系企業での営業職は、ドイツにおけるVertrieb、つまり「総合的な営業職」としての色合いを強く持ちます。すなわち、単なる販売員ではなく、日独の経済、貿易システムを十分に理解し、商学的、異文化コミュニケーション的なスキルを動員して活躍するダイナミックなポジションです。こうした日系企業の営業ポジションは、就職市場では秘匿されることが少なくなく、弊社のようなリクルート会社を経て応募することが一般的です。