海外就職を目指す日本人にとって長年の議論のテーマに「海外で働きたいなら、駐在と現地採用のどちらを選ぶべきか?」というものが挙げられます。

ひと昔前まで「不安定なポジション」と敬遠されがちであった現地採用のポジションですが、海外法人が単なる出先機関からスピーディな意思決定拠点としての意味合いを持つにつれ、現地採用者は人事戦略上の重要な役割を担うようになってきました。特に多くの日系企業が欧州本社を構えるドイツでは、そのプレゼンスは駐在に劣らず飛躍的な向上を見せています。

今回の記事では、ドイツ就職を志す学生や若手の人材には「駐在」と「現地採用」のどちらがおススメか、それぞれの特徴と長所・短所を踏まえたうえでニュートラルな視点から解説をおこなっていきたいと思います。

本記事の読者層:

  • 20代~30代でドイツへの就職を目指している若手候補者
  • 駐在と現地採用の違いが知りたい人
  • 駐在と現地採用のそれぞれのメリット・デメリットが知りたい人

海外駐在員

海外駐在員制度は、本社が当該国のマーケットの拡大、製造拠点の立ち上げなどの理由で本国から他国に従業員を送り込む人事上の方法のことで、日系企業では高度経済成長期以降本格的に実施されるようになりました。日本を離れ異国で拠点設立、マネジメントや輸出入の管理といったビジネスの根幹業務に携わることから、語学の素養だけでなく、社員としての実績や忠誠心、年齢などが勘案されます。

就職四季報は毎年「海外勤務者が多い会社ランキング」を公開しており、同順位を参考にすると、総合商社や大手メーカー、海運などの業界は社員の中の海外駐在率が10%~20%といった毎年高い割合を示すことが分かります。

メリット

上述の通り、会社の根幹となるビジネスに従事することから、一般的には企業にとって重要な、あるいは将来重要なポジションを担うであろう人材が海外駐在員として選ばれる傾向にあります。それが「海外駐在員は出世コース」とうたわれる理由でもあり、特に金融・経済の中心である西欧や北米への駐在は高い人気を誇ります。こうした海外駐在中の異国でのマネジメント経験は、自身のキャリアにとっても大きなプラスになることでしょう。

加えて、金銭的なメリットを享受できます。具体的には、海外駐在中の「海外駐在手当」「住宅手当」などで、家族がいる場合「家族帯同手当」や「教育手当」なども支給されます。一見して金銭的に有利すぎるようにも見えますが、会社の都合で海外に赴任する以上、基本的には日本に住むのと同じ環境を享受できる必要がある、というのが海外手当の基本的な考えで、日本だけでなく他国でも駐在員は厚遇される傾向にあります。

もっとも、こうした手当としての恩恵は、裏を返せば会社の財政を圧迫することにも繋がります。そのため、後述の通り海外進出企業の中には日本人駐在員の数を減らし、現地採用の数を増やす、という手法をとるところも現れ始めています。

ドイツ駐在のメリット:

  • 出世コースであることが多い
  • 自身のキャリアアップの手助けとなる
  • 金銭的なメリットを享受できる

デメリット

きらびやかなイメージのある海外駐在員ですが、当然デメリットも多く挙げられます。会社によっては海外駐在員に選ばれるまでに長いプロセスを経ることがあり、それまでに熾烈な海外駐在の座を得るための競争に勝ち抜く必要があるのです。英語力は勿論、会社の根幹を担う人材になることから、会社に残ってくれる人材が選ばれやすく、また年次としても海外法人のマネジメントを任せられる30代以降が選ばれやすい業界も多くみられます。

また、海外駐在の際に駐在される国を自ら選べないことも多々あります。日系企業にとって主戦場は中国やベトナムなどアジア諸国や北米で、ドイツ駐在となると選考は狭き門と言われます。

また、折角ドイツ駐在が叶っても、一般的に数年の任期で日本への帰国、あるいは他国への転勤が命じられることが通例で、居心地の良いドイツに居続けることはできません。 労働スタイルに目を向けると、基本的には残業や仕事後の付き合いなど、日本的な労働スタイルを踏襲しており、日本の本社とのやり取りのため、早朝や夜遅くに会議をおこなうことも日常茶飯事と言われます。

ドイツ駐在のデメリット:

  • 会社によっては海外駐在の倍率が高い
  • 会社によっては若手は海外駐在の対象外
  • 赴任先は自分の希望が叶わないことが多い
  • 任期は長くて5年程度
  • 現地法人では日本の労働スタイルを踏襲することを期待される

現地採用

現地採用は、文字通り日本ではなくドイツ(現地)で採用されるパターンのことです。そのため、雇い主も「日本の本社」ではなく「ドイツの法人」となることが通例で、労働契約はドイツ法人と取り結ぶこととなります。

メリット

現地採用としてのメリットとして、海外駐在員のように会社の都合やタイミングを気にせず、自身の人生設計・キャリア設計に基づいて海外での就職をおこなえる点が挙げられます。例えば、海外駐在員制度のデメリットとして会社によっては20代で海外駐在に選ばれにくい、といったこともありますが、現地採用制度であればすべて自分の都合でスケジュールを調整でき、20代からの海外就職も十分可能です。他にも、配偶者やパートナーの都合でドイツに行きたい、といった理由でドイツで現地就職するパターンも多く見受けられます。

加えて、一般的に現地で採用された場合、勤務先は採用された国に紐づくことが多いため、駐在員のように数年ごとに別の国に異動する、ということがあまり起き得ません。そのため、将来ドイツに根を下ろして生活したいような場合にはうってつけの就職方法と言われています。

また、長くドイツで働くこと(一般的には5年)で、ドイツの永住ビザも獲得することが可能です。転職や失業時には失業手当や求職支援の対象になることが多く、ドイツ国内での再就職がしやすい立場と言えるでしょう。

ドイツ現地採用のメリット:

  • 自身のスケジュールに基づいた就職が可能
  • 会社の決定で異動するリスクが少ない
  • ドイツに根を下ろすことができ、永住ビザや失業手当の対象となりやすい

デメリット

現地採用のデメリットには、「駐在員との待遇の差」が挙げられます。一般的には、海外駐在手当のつく駐在員と現地採用者とでは毎月の給料や福利厚生に差が出てしまい、これを不満に感じる、という声も少なからず聞かれます。

また、労働ビザがネックになるケースも少なくありません。ドイツに長らく住んでいる場合はともかく、ドイツに来たばかりであれば、労働ビザの支給への切り替えのために待機を余儀なくされたり、なにかと不自由することがあるかも知れません。特に、日本人の労働ビザの支給に慣れていない、地方や田舎の都市での就職には要注意です。逆に、日系企業が多く軒を構えるデュッセルドルフ、ミュンヘン、ハンブルグなど大都市は比較的安全と言えます。

ドイツ現地採用のデメリット:

  • 海外駐在員との格差を感じることがある
  • 都市によっては就労ビザで苦労する可能性がある

海外駐在vs現地採用 どちらを目指すべきか?

さて、以下の表をもとに、これまでのまとめをおこないたいと思います。ちなみに、広義には現地就職には「現地に進出している日系企業への就職」と「現地のドイツ企業への就職」の双方を含みますが、「日本人にとってドイツ就職活動が難しい5つの理由」の記事で説明した通り、現地の労働ビザを持たない日本人にとってドイツ企業への直接の就職はかなり難易度が高いと言わざるを得ないでしょう。

駐在と現地採用の比較

表のとおり、どちらの手法にもメリット・デメリットが挙げられます。金銭的には海外駐在に分が挙がりますが、赴任場所とタイミングを自分で選べないという大きなデメリットが存在することから、昨今では英語を身に着けた応募者が20代や30代の早い段階でドイツに移住し、現地採用という働き方を選ぶケースが増えてきています。

また、時代の潮流としても、かつてのように多くの駐在員を海外に派遣し、コントロールするという海外法人経営の手法が徐々に廃れ始めているのも事実です。目まぐるしく移り変わる世界情勢についていくには、現地の商習慣や市場を知る現地人材を雇用することが重要であると、多くの経営者や教授によって示されており、コストのかかる海外駐在員を削減し、現地採用者の育成に注力する企業が増え始めました。

国境を股にかけた転職活動、という生き方が自然なものになりつつある現在、現地採用の持つメリットとポテンシャルは20世紀と比較し飛躍的に高まっています。高い志を持つ若い日本人にとって、現地採用は海外就職の夢をかなえる最短経路なのではないでしょうか。