ドイツ人の人材を採用・マネジメントする上で、現地の風習や文化を知っておくことは大きな利点となります。日本の人事制度と現地のドイツ人応募者とで衝突がある場合、こうしたドイツ型の就職・教育システムについての理解が乏しいケースが多いからです。(この記事では、ドイツで教育を受けた人や経験の長い人を、便宜上ドイツ人と称しています。)

ドイツの教育・学歴システム

ドイツの失業率は2019年9月で3.1%(注:COVID-19以前)と、欧州周辺国家のみならず世界中を見渡しても極めて低い水準で安定しています。この背景には、将来の就職を前提とした、ドイツの「プロフェッショナル育成型」の教育システムが位置しています。

ドイツの子供たちの進路は、若いころ、つまり6歳~10歳の段階である程度定まってしまいます。この年齢までに勉強のできると認められた子は、大学進学を前提をした「ギナジウム」に、それ以外の子供たちは手に職をつけるために「職業訓練学校」などに通うこととなります。

大学に進学してからも、この「プロフェッショナル型」の方針は揺るぎません。つまり、大学で「会計」を専攻した者はそのまま大学院に行っても、就職しても会計畑から動きませんし、法律を専攻した者は法務系、ITを専攻した者はIT系と、大学の専攻→インターン時代の専門→就職後の業種に、一貫性が保たれているのが特徴です。

これは、日本の文系のように「大学で経済を専攻して、会社では人事部」「大学で会計を専攻して、会社では営業」といった、畑違いの人事ローテーションとは大きく異なったシステムです。

またドイツ社会で特筆すべき点が、文系における大学院進学率の高さです。ドイツの大学では一般的な理論を学び、大学院ではより専門性を身に着けるための知識を身に着けることが一般的とされ、大学院進学したドイツ人は、給与にその分が上乗せされていることを強く望みます。

日系企業が注意すべきポイント

  • ドイツの教育システムはプロフェッショナル育成型
  • 大学の専攻から、職種がある程度定まっている
  • 大学院進学は、給与水準を決めるために重要なファクターとなる

ドイツの就職システム

ドイツの就職システムは、日本の新卒一括採用システムと異なり、空いたポジションに人員を確保していくシステムです。そのため、若さや伸びしろよりも、経験、知識などが求められる世界です。

とはいえ大学を卒業したばかりの大学生には、経験は無いに等しく、実際に就職戦線でよいポジションを確保していくのは、既にドイツ社会で長い経験を積んできた30歳~40歳程度のベテランたちです。

こうした経験不足の問題を解決するために、ドイツ人学生の間で主流なのが「在学中にインターンシップ」をおこない、正規社員とほぼ同じような業務を通じて経験を身につける、という方法です。

日本ではまだ長期インターンシップの文化は浸透しておらず、あくまで企業説明会の延長としてみなされがちですが、ドイツ人にとってはインターンシップも立派な職歴の一つであり、特に若いドイツ人応募者にとってはそれが職歴と見なされるかどうか重要なポイントです。

日系企業が注意すべきポイント

  • ドイツ社会ではインターンシップが一般的で、正当な職歴と見なされることが多い
  • 新卒採用はほとんど無く、ポジションごとの応募が主流

ドイツのキャリアシステム

さて、こうした「プロフェッショナル育成型」の環境に慣れ親しんできたドイツ人にとっては、就職後のキャリアもいわば自己習練のための場としてみなされがちです。

ドイツではジョブホッピング(転職)は一般的のため、就職時に給与や職場環境ももちろんのこと、「いかにこの職場で自己研鑽ができて次のステップに活かせるか」が重要視されがちです。

このドイツ人の考え方は、日本のようにジョブローテーションを前提にし、様々な部署を経験してもらう「総合職型」の人事とは度々衝突します。ドイツ人にとって、興味があるのは自分の専門を深化させることで、あちこち他の分野に異動になることはキャリアの障害と捉えられがちです。

そのため、日系企業がドイツ人を採用する場合、重要なのは「役割」「ポジション」「専門性」を明確化し、今後のキャリアプランを親身に話し合うことです。

日系企業が注意すべきポイント

  • ドイツ人はキャリア志向が強い
  • 就職時に、自分の専門を活かせる職かどうかがキーポイントとなる
  • ジョブローテーションなどのように専門を活かせない人事制度は忌避される傾向にある