ドイツに進出している日系企業にとって、採用プロセスは趣向を凝らさなくてはいけないケースが多々あります。日本人を日本で雇う場合と異なり、ビザ手続きの問題、ドイツの労働法や給与相場などの問題が出てきますし、候補者の性質・性格も日本とは大きく異なります。
実際に、どのような採用手順が最適かは、ケースバイケース、時間とコストを天秤にかけて行うもので、一概に「どの採用手順が最適か」という問いに答えることは容易ではありません。
リクルーター | 自社公募 | 外部への広告 | 人事系SNS | 人脈採用 | |
全体の割合 | 6~7割 | 2~3割 | 1割前後 | 5%前後 | 5%前後 |
迅速さ | ◎ | 会社知名度に比例 | × | 〇 | 案件による |
費用 | △ | 〇 | ◎ | △ | ◎ |
確実さ | 〇 | △ | △ | △ | 案件による |
人事コンサル | ◎ | 企業による | × | × | × |
今回の記事では、ドイツで日系企業が行う採用プロセスとして最もポピュラーなものを5つ、それぞれのメリット・デメリットとともに紹介していきます。
リクルーターの活用
ドイツで国籍問わず従業員を採用する際、全体の日系企業のうち6~7割程度がこの「リクルーター」を活用します。
ドイツに居を構えるリクルーターの存在意義・メリットに関してですが「応募者のスピーディなスクリーニングができる」という点が挙げられます。仮にLinkedInなどの人事系SNS、あるいは自社の採用サイトを通じた採用を行うと、場合によっては1,000人近い玉石混交の応募者が集まってしまい、この選定だけで膨大な時間が必要とされます。こうした手間と時間のかかる応募プロセスを、あらかじめ人材の膨大なデータベースを持つリクルーター会社に一任することで、スピーディな応募者の選定が行なえるようになります。
その他メリットとして「ドイツの人事機能に精通している点」が挙げられます。すなわち、企業内の「人事機能」を別個独立した形でドイツに居を構える当社のようなリクルーターが請け負い、応募者の紹介にとどまらないビザの相談や給与交渉など、総合的な人事コンサルティングを行なってもらえます。また、ドイツで初めて人材を採用する際にも一から丁寧なコンサルティングを施し、冒しがちなトラブル、ミスを未然に防ぎます(※こうしたコンサルティングを提供しないドイツリクルーターも存在します)。
この「ドイツの人事機能」に関しては、日本のリクルーターとは一線を画す部分と言われており、ドイツで20年以上日系リクルートの専門家としてビジネスをおこなってきた当社が得意とする分野でもあります。
同様に応募者との交渉事にも、リクルートの専門であることの強みが活かせます。業界平均、経験則、日独母国語話者による交渉、膨大な統計データなどにより、候補者確保の確率を高めます。このことから、企業が直接交渉にあたるよりも2~2.5倍ほど成功率の高い(当社調べ)交渉が可能となり、応募者のスピーディな確保に繋がります。交渉・面接時にどのような点に注意しなくてはいけないかは、以下の記事に詳細があります。
ドイツの優秀な人材にとって、その雇用主が自身のポテンシャルを最大限に引き出してくれるかというのは最も重要なポイントです。それゆえ採用面接においても、人事担当者は応募者のことをくまなく調べ、万全の状況で面接に臨みます。それはドイツ人応募者も期待しているところであり、ドイツ人応募者を見ると、例えばCVに前職の会社のリンクを貼り付けていたり、自身の表彰された論文のリンクを読めるようにしてあります。こうした部分は、全部でなくとも面接前に簡単に目を通しておいた方が良いでしょう。
引用元:なぜ日系企業は優秀なドイツ人人材を取り逃すのか?
一方で、デメリットとして「費用が掛かる」点が挙げられます。具体的な費用に関してはリクルーターにより異なりますが、一般的に、その他の採用プロセスと比較すると高めの費用となります。
メリット
- 表に出回っていない、リクルーターの持つ独自人材データベースを活用できる
- ブラックリストの人材を排除することができる
- スクリーニングの手間が省ける
- 適した人材に最もスピーディにアクセスできる
- 候補者との交渉における成功率が高い
- ビザ、給与交渉などのドイツに特化した人事コンサルティングを受けられる
デメリット
- 費用がかかる
- 会社内部で人事知識を集積しづらい
自社公募
続いてあげられるのが、リクルーターや外部の広告に頼らない、自社による候補者の募集です。全体の日系企業のおよそ2~3割程度がこの自社応募による候補者の選定を行なっており、最大の特徴としては自社でスクリーニング・面接・採用の一貫した人事が行える点が挙げられます。例えば、自社基準による選定を行ないたい場合(採用筆記試験や適性テスト等)、自社サイトを通じて運営する形式が少なくありません。
また、採用規模が大きくなればなるほど、自社公募を活用するケースが増えてくるため、人事部の設立、採用サイトの運営などと合わせ、コスト上のメリットが発生します。逆に、年の採用人数が限られているような場合、逆に自社で採用を一貫して行うメリットが少なく、リクルーターや広告の使用が有利に働きます。
メリット
- 自社で一貫して採用プロセスを担える
- 採用規模が大きければその分コストパフォーマンスが良い
- 会社内部で人事知識を集積できる
デメリット
- 自前での一貫した応募プロセス運営には時間と費用がかかる
- スクリーニングがしづらく、人事部の負担となる
- 採用規模が少ないと運営のメリットが少ない
- 求人から採用まで若干のタイムラグがある
外部への求人広告
第三のリクルートの手段として、自社サイトではない外部サイト(求人情報に特化したものや、生活情報などを提供するもの)を通じた採用広告の掲載が挙げられます。
費用の面で大きなメリットがある一方、このやり方の弱点としては「スクリーニングの手間がかかる」「本当に採用したい人材にアクセスできない」「時間がかかる」などが挙げられます。特に時間に関しては、広告を掲載してから半年~1年かかるようなこともあり、広告と並行してほかのリクルート手段を使用するケースが多く見受けられます。
メリット
- 費用面でメリットがある
デメリット
- スクリーニングができない
- 採用までかなりの時間を覚悟しなくてはならない
- 候補者との交渉、ビザ手続き等はすべて企業に委ねられる
人事系SNSを用いた採用
マジョリティではありませんが、直接人事系SNSやオンラインサービスを用いて候補者にアクセスするような方法も一定数見受けられます。
などが代表的なところです。この手法のメリットとしては、候補者の経歴を見つつ、人事や代表が直接候補者にアクセス可能という点です。デメリットとしては、無料では使用できるサービスが限られている点、ファーストコンタクトからビザの手続きまで採用担当者が一貫して行わなくてはいけない点、などが挙げられます。
メリット
- 目的の候補者に直接アクセスできる
デメリット
- 無料で利用できるサービスが限られている
- 最初から最後まで担当者の時間を割く必要がある
- 返信率の低さ(一般的には数パーセント程度)
人脈採用
最後に、ドイツ企業では全体の2~3割がこのプロセスで人事採用を行うという、人脈採用です。具体的には、既存社員に友人や親戚などを紹介してもらい、彼らへの紹介インセンティブを用意するやり方です。
長い時間がかかるのと、中々思った通りの人材にアクセスできないことから、穴のあいてしまったポジションをすぐに埋めたり、急ぎの求人であったりする場合は不向きです。
メリット
- コストが抑えられる
- 就活市場に出回っていない人材にアクセスできる
デメリット
- 時間と根気が必要