経済のボーダーレス化、ビジネスの多様化に伴い、多国籍企業は自国のみならず、世界各国の優秀な人材を獲得するため、国際的な人事戦略に磨きをかけています。
日系企業が多数進出するここドイツでも、現地のドイツ人人材の需要は高まっており、日系企業のみならず、韓国系、中国系、及び現地のドイツ系企業の間で人材獲得競争がおこなわれています。
今回の記事では、多国籍間での人材獲得競争を勝ち抜き、優秀なグローバル人材を採用するために、人事担当者が知っておくべき「日本のイメージ」と「応募者の性格」の持つ面白い関係性について解説していきます。
そもそも優秀な人材とは何なのか?企業ごとに違う目指すべき採用人材
有名なGoogleの人事戦略スローガンがあります。Googleが採用を目指す人材とは、Googler、すなわち「創造性を持ち」「チャレンジングで」「イノベーションが可能」な人材だということです。
一方で、トヨタの目指すグローバル人材像とは「チームの信頼を築ける人材」です。
このように、企業ごとに「優秀な人材」の定義は異なり、それぞれの社風、文化に適した人材の採用を心がけています。
なぜこのような「企業ごと」の人事戦略の方向性が必要になってくるのでしょうか?
人事心理学の分野でたびたび引き合いに出される「PO Fit 理論」によると、個人的性格と企業の社風の近さは、パフォーマンスや離職率の軽減などにポジティブな影響を与えます。
逆に、どんなに優秀な人間であっても、社風とそりが合わないと、思ったようなパフォーマンスが残せなかったり、チームに馴染めない傾向が強く、企業は個人のスキルだけではなく、こうした性格的な部分も勘案する必要があるのです。
また、企業ごとに採用者の特色を色濃く定義することによって、他企業との差別化にもつながります。
このように、人事戦略においてまず重要なのは 、「どのような人材」が自社の社風に適しているのか、自社の分析をおこなうとだと言われています。
日系企業は魅力的?外国人人材の持つカントリーイメージ
もっとも、全ての企業が「社風」を人事戦略の前面に出しているわけではありません。特にドイツ人にとっては、ドイツに進出する日系企業のような場合、個社個社の社風よりも「日本という国」が持つイメージそのものがたびたび重要なファクターになってきます。
この「企業(国)のイメージが与える人材採用への影響」は、しばしばブランド品のマーケティングに喩えられることがあります。
高級ブランド品の販売戦略で引き合いに出される「Instrumental Symbolic Theory」は、ブランド品の購入者にとって大切なのは、機能的な部分(形、質、使い心地等)のみならず、そのブランドのもつ象徴的な価値だと説明しています。
穿った言い方をしてしまうと、消費者にとってはその商品の持つ質よりも、どこのメーカー名、ブランド名、どこの原産地か、といった「イメージ」のほうが、購買の決定に際して重要であることがある、ということです。
似たように、多国籍企業への応募者にとっても、給与水準、労働条件、勤務地や業務内容など(機能的な部分)も重要ですが、一方で、その「国」や「企業」に対するイメージという象徴的な部分も、応募者が就職先を決めるにあたって重要な役割を担ってきます。
ドイツのハンブルグ大学が2016年に行った研究によると、ドイツ人応募者にとって、国の持つイメージは企業イメージと魅力に大きく影響を及ぼします(Held et al, 2018)。ロシアと中国の企業はドイツ人にとって、国そのものが「生活水準が低い」などネガティブにとらわれているため、アメリカ企業に比べてロシアや中国から来た企業も「就職先として魅力に劣る」というデータが発表されています。
さてそれでは、日系企業がドイツ人応募者に与えるイメージはどのようなものでしょうか?
日本という国自体は、高度に発展した、生活水準の高い、という評価をドイツ人から与えられている一方で、「働きすぎ」「過労死」「ヒエラルキー」といったネガティブなイメージも与えられています。
これは、ワークライフバランスを重視するドイツ人にとって、あまり好ましくない印象であることは否めません。
ただし、このデータをもとに「日系企業は、ドイツ人応募者にとってアメリカ企業よりも魅力が少ない」と決めつけることはできません。実際に応募者にとっての魅力は、結婚相手の選別同様、自身の嗜好や興味が色濃く反映されているからです。
応募者の性格とターゲットを分析する
企業の魅力度を図るにあたって重要なのは、すなわち、受け手がどのようにその国の文化や性格を捉えるかです。
冒頭でふれたように、Googleに惹かれる人材はすなわち、Googleの社風に共感を覚えた人材です。そうした人たちは、チャレンジを恐れず、改革的で、IT分野への知見があるような特徴が挙げられます。
同様に、日系企業に惹かれる人材の性格的特徴、というものもある程度分析することが可能です。
以下、ドイツ人候補者の性格的なマッチを図るうえで重要な、2つの理論的方法を紹介します。
Contact Theory
Contact Theoryによると、人は、メディア等の媒体がもたらす特定の情報に触れ続けた場合、その触れ続けた時間に伴ってその対象を魅力的に感じます。
同様の理論を応用し、ドイツのゲッチンゲン大学は、日本の媒体(アニメなど)に小さいころから触れ続けた東南アジアの学生が、特に日系企業に就職先としての魅力を感じることを研究しています(Froese et al, 2013)。
- 日本という国に滞在した経験
- アニメや漫画など、日本文化への興味
- 日本語や日本学(Japanology)の専攻
- 日本人の親族、友人など
こうした、日本という文化に自身が長らく晒されてきた場合、無意識のうちに、日本企業や日本的な仕事文化を魅力的と感じるケースが少なくありません。
PO Fit Theory
一方で、日本に滞在した、日本語を勉強していたドイツ人の母数というものは多くなく、実際に日系企業の中で日本学(Japanology)を専攻していた生徒の争奪戦が行われています。
上述のContact理論以外に候補者の性格を占ううえでさらに重要なのが、個々の生まれ持つ性格です。
例えば、上述のゲッチンゲン大学がベトナムでおこなった研究によると、「集団主義的な思考」「仕事中心的な思考」を持つベトナム人は、一般的に日系企業に魅了されやすい、という研究結果がでています(Kim et al,2012)。
これは、自身の性格と社風の持つイメージが近いものに惹かれる、という理論を応用したもので、同様に、以下のような性格的特徴を持つドイツ人が、一般的に日系企業に惹かれやすいことが考えられています。
- 長期的目線で考える
- 結果よりも過程を重視する
- 集団主義的な思考(個人主義ではなく)
- 仕事優先的な思考
もちろん、実際には性格以外にも語学力、経験、実務上のスキルなど、勘案されるべき要素は多数あり、一概に性格の一致が正しい人事戦略とは言えません。
一方で、職場環境や社風とのミスマッチを解消し、長期的に自社の礎となっていく現地人材を育成するという目線から考えると、やはり面接の際に「自社と一致した」性格、というものも勘案していく必要があるでしょう。
Reference
- Froese, Fabian Jintae, Anne Vo, and Tony C. Garrett. “Organizational attractiveness of foreign‐based companies,2010
- Froese, Fabian J., and Yasuyuki Kishi.Organizational attractiveness of foreign firms in Asia: Soft power matters, 2013
- Held, Katrin, and Benjamin Bader. The influence of images on organizational attractiveness: comparing Chinese, Russian and US companies in Germany, 2018
- Kim, Soyeon, Fabian Jintae Froese, and Anne Cox. Applicant attraction to foreign companies: the case of Japanese companies in Vietnam, 2012
- Lievens, Filip, and Scott Highhouse. The relation of instrumental and symbolic attributes to a company’s attractiveness as an employer, 2003