我々日本人がヨーロッパの滞在許可証を得る場合(※配偶者ビザなどを除く)、通常は現地企業に就職し、就労ビザを取得する方法が考えられます。この場合は会社に属することが前提条件となりますが、中には「フリーランスビザ」といって、正社員として会社に籍を置かずとも就労ビザを取得できる方法があります。
特に2010年代以降の国境を越えたビジネス多様化に伴い、各国もこうしたノマド的な働き方を奨励する一方で、現実的にはハードルが高いと見做されているのも事実です。
本稿では、ヨーロッパでフリーランサーとして働くことのメリット・デメリット、そして難易度について解説していきます。
フリーランスビザの取得難易度
ヨーロッパでフリーランサーとして働くことの難易度は、国ごとに大きく異なります。ポルトガルやエストニアのように国策としてデジタルノマドを奨励している国もあれば、スイスやノルウェーのように審査が厳格で取得までのハードルが高い国もあります。
| 難易度 | 国 | コメント |
|---|---|---|
|
★☆☆☆☆ (デジタルノマド奨励) |
ポルトガル | 国外収入やリモートワークに柔軟。月収要件低い |
| スペイン | デジタルノマド奨励 | |
| エストニア | デジタルノマド、ITワーカー奨励。月収要件はやや高め | |
| ★★★☆☆ |
ドイツ | 事業計画書の論理的整合性が問われ、都市差が大きい(ベルリンはやや易) |
| フランス | 月収要件が高く、行政手続きが煩雑 | |
| フィンランド | 先進国の中では月収要件低め | |
|
★★★★★ (難しい) |
スイス | 非EU国籍には非常に厳格 |
| オーストリア | 学歴・職歴・収入の要求水準が高い | |
| ノルウェー | 年収要件が一般のサラリーマン並みに高い |
審査にあたってはそれぞれの国で設定する「月収要件」を満たす必要があり、中には厳格な事業計画書の提出を求めるケースもあります。月収要件は一般的に「その国の最低賃金」を元に計算されていることが多いため、北欧・西欧諸国であれば賃金水準が高く難易度が高くなっていきます。
東欧・南欧諸国では求められる賃金水準が低くなる傾向があるものの、税理士等が英語を話せない割合が高く、審査に半年以上かかることもあり別の意味で厄介と言えるでしょう。
| フリーランスビザ申請に必要な書類(※一般的なもの) | 重要度 |
|---|---|
| 事業計画書 | ★★★★★ |
| 収入見込み(年間・月次) | ★★★★★ |
| 企業との契約 / 意向書 | ★★★★☆ |
| 学歴・職歴証明 | ★★★★☆ |
| 健康保険(各国対応) | ★★★★★ |
| 住居登録 | ★★★★☆ |
各国ごとの条件を全て満たしているからフリーランスビザを取得できるとは限らず、あくまで各管轄にその裁量が委ねられる点に注意しなくてはいけません。傾向として、「デジタルノマドビザ」を推奨している国々は比較的ITやホームオフィス関連のビザの申請に理解を示していることから、フリーランスビザを取得しやすいとされています。
フリーランサーのメリット
1)時間に縛られない
フリーランサーとして働くことの大きなメリットは、正社員という時間の枠に縛られず自由に働けることでしょう。特に子育てしながら働きたい方々や、資格の勉強をしながら稼ぎたい学生など、仕事以外の目的のためにフリーランスとして活動することは理にかなっています。
欧州諸国でコロナ禍以降ホームオフィスという働き方が拡大し、準フリーランサーという肩書きが市民権を持ち始めたのは、自分の時間を自由に使いたい若者の需要が増えたことにも起因しています。
2)場所に縛られない
時間と同様、場所にも縛られないのがフリーランサーのメリットです。特に配偶者の都合で都市や国を転々とする場合や、ノマド的な人生を謳歌したい場合には、フリーランサーという働き方は非常に適していると言えるでしょう。
特にIT系を中心に、パソコンとWi-Fiさえあれば世界中どこでも働けるスタイルが浸透し、各国に似たような「デジタルノマド」コミュニティが展開しています。現地で友人も見つけやすいでしょう。
3)日本と仕事ができる
日本で既にフリーランサーとしての基盤がある場合、その収入を元にフリーランスビザの申請をすることが考えられます(※ただし、国によっては他国からの収入に対しビザを発給しない、あるいは発給しづらいケースもあるので注意)。
フリーランサーのデメリット
1)ローンやクレジットカードの審査に合格しづらい
家や車を購入したい、クレジットカードを持ちたいと考えた場合、銀行で審査を受けることになりますが、そこで重視されるのが「信用力」です。フリーランサーの場合、収入が不安定と見なされやすいため、事業が軌道に乗るまでの1〜2年間は、大きな買い物のためのローンやクレジットカードが認められないことがあります。
仮にローンを組めたとしても、会社員と比べて高い金利や多額の自己資金(頭金・準備金)を求められるケースが一般的です。そのため、将来的に家やフラットなどの高額な買い物を予定している場合は、あらかじめ十分な現金を用意しておく必要があります。
2)賃貸契約を結びづらい
上記のローンと同様、家やフラットを借りる際の審査でも「正社員」であることが多くの場面で求められます。特にドイツやオランダ、オーストリアなど保守的なフラット文化を持つ国では、貸主は借り手の与信力を重視するため、フリーランサーとしてキャリアをスタートする場合、住居探しに多くの時間を費やす覚悟が必要です。
3)正規雇用になりづらい
転職文化が根付いている欧米諸国ですが、意外にもキャリアのスタートを「フリーランサー」として切ってしまうと、正規雇用に移行しづらくなるケースがあります。過去に正社員としての実務経験があれば別ですが、最初からフリーランス活動している場合、組織内での立ち振る舞いや適応力が見えにくく、スキルがあっても採用現場で敬遠されることがあります。
4)健康保険料が自腹
一般的な会社員と異なりフリーランサーの場合、健康保険料は基本的に全額自己負担となります。たとえばドイツで月収2,000EURのフリーランサーとして働くケースを想定すると、会社員であれば会社と折半される社会保険料を、フリーランサーは100%自分で支払う必要があります。
一見すると合計負担額は同程度に見えますが、フリーランサーの場合は年金や失業保険が任意となるため、これらを自腹でカバーすると結果的に会社勤めの倍近い負担になることもあります。
| 月額 | 会社勤め | フリーランサー |
|---|---|---|
| 健康保険(介護保険含む) | 190〜200 EUR | 380〜400 EUR |
| 年金 | 約200 EUR | 任意 |
| 失業保険 | 約50 EUR | 任意 |
| 合計 | 約450 EUR | 380〜400 EUR |
※月収2,000EURをモデルにしたシミュレーション
ヨーロッパのフリーランサービザはおススメ?
上記のように、自由であるがゆえのメリット・デメリットを持つ「フリーランサー」としての働き方。新しい時代の労働形態として発展している一方、まだまだ非EU市民が申請するには制度的にも実務的にもハードルが高いのも事実です。
多くのEU諸国は一定の年数正規雇用を続けることで「永住権」を取得できるシステムを設けており(※例えばドイツでは一般的に5年)、この永住権を元にフリーランサーとしての活動を始める人も少なくありません。
最初からフリーランサーとしてキャリアをスタートしてしまうと、住居の賃貸や銀行ローン、健康保険や年金など様々な場面で信用力のなさを痛感することとなりますが、まず正規雇用から始めて現地の生活に慣れていけば、そのような問題も解消することができます。
フリーランサーとしての独り立ちや月収要件に不安を抱えている場合、まずは正規雇用を検討するのも手かも知れません!
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