「ドイツで雇用を得る」ことを目指してドイツに移住する人も少なくありませんが、ドイツの雇用形態は複雑で、様々な制度が入り乱れていることに注意が必要です。数ある雇用形態の中から、就労ビザや就業年数に応じて自身に最適な方法を見つけるにはどうしたら良いでしょうか?本稿では、ドイツの雇用形態の種類についての解説をおこないます。

※本記事の記載は2024年5月現在のものです。将来的に情報に変更がある場合がありますのでご留意ください。

Vollzeit(フルタイム)

「常勤」の正社員であり、ドイツでもっともオーソドックスな就業形態の一つです。一般的には、一日8時間労働(週に40時間、月160時間)の形態をとる場合が多いですが、必ずしも週40時間にしなくてはいけないという決まりはなく、企業によっては金曜日は勤務時間を少し短縮して週38.5時間、などをフルタイムの定義としています。週35~40時間が一般的な企業の「フルタイム」の雇用形態と言えるでしょう。

ドイツ労働統計局の調べによると、ドイツのフルタイムの平均月収は「4,323€」となっており、日本のフルタイムの平均月収である「31万8000円(2,000€弱)」(参照:厚生労働省2023年)を大きく上回ります。

賃金水準もさることながら、社会保障や昇進の機会といった面でもフルタイムは他のどの雇用形態よりも優遇されています。一方で、その勤務時間は全て会社に費やすこととなり、プライベートやその他の目標(資格取得など)を持つ若者の間ではパートタイムを選ぶ割合も一定数見受けられます。

フルタイムで働く労働者側のメリット・デメリット

メリットデメリット
高い賃金水準会社に多くの時間を費やす
安定した労働契約 

Befristet(有期雇用契約)

有期雇用契約には二つの種類があり、いずれも有期雇用契約として見なされます。要するに、期限、あるいは特定の目的によって雇用契約の上限が定められており、それを越えたら企業側は契約を延長しないことで事実上の雇用関係を解消することができます。

befristeter Arbeitsvertrag

期限式有期雇用契約・・特定の日時までの有期契約(例:1年契約、等)

zweckbefristeter Arbeitsvertrag

目的式有期雇用契約・・特定の目的を達成するまでの有期契約(例:プロジェクトのゴールまで、等)

この「有期雇用契約」と対をなす概念は「無期雇用契約」であり、この場合企業側は労働者の解雇を言い渡しずらくなります。そのため、一般的に企業側にとってみたら「有期雇用契約」が有利であり、企業側はよほどの理由が無い限り「有期雇用契約」を労働法の枠内で活用したい意向を持ちます。

もっとも、企業側でもこの「有期雇用契約」を無限に乱用できるわけではなく、Teilzeitarbeit und befristete Arbeitsverträge(パートタイム及び有期雇用法)の14条に定義される通り、有期雇用契約が使えるのは(※客観的な理由が無い場合)新規採用時から最長2年、3回までであり、その期間を超える場合は無期雇用契約に移行する必要があります。

有期雇用契約で働く労働者側のメリット・デメリット

メリットデメリット
なし(雇用側のみメリット)満了時の契約解消のリスク

Teilzeit(パートタイム)

ドイツのフルタイム社員数は2400万人なのに対し、パートタイム就業者は1530万人と、約38%という高い割合で存在しています(出典:Statista)。ドイツにおけるパートタイム雇用とは、Teilzeitarbeit und befristete Arbeitsverträge(パートタイム及び有期雇用法)の2条に定義される通り、「フルタイムよりも短い労働時間の労働者」のことを指し示します。

一般的にパートタイムの従業員はフルタイム従業員の半分の労働時間である週20時間を平均値として働いていますが、場合によっては週25時間、あるいは週30時間を超えるような「vollzeitnahe Teilzeit(ほぼフルタイムのようなパートタイム)」といった形態も含むこととなります。

6ヶ月以上の就業、従業員数が15人、などの条件を満たす場合、従業員はフルタイムからパートタイムへの変更を要求する権利を持ちますが、その場合「書面での事前合意」や「労働形態の合意」などがなされる必要があります。また、フルタイムからパートタイムへの移行は条件さえ満たされれば可能ですが、一度パートになってしまうとフルタイムに戻すことは難しいとされているため、パート移行の決定の前に考慮したほうが良いでしょう。

パートタイムでの就業を選ぶ人

  • 子育てや介護などをおこなう場合
  • 病気の理由
  • その他資格などの勉強に時間を費やすため
  • 学生

パートタイムで働く労働者のメリット・デメリット

メリットデメリット
プライベートと仕事の両立給与が少なくなる
労働外時間の増加昇進の機会が少なくなる

Praktikum(インターンシップ)

ドイツ社会におけるインターンシップは、学生が社会に出る前に「職歴」を身に着ける助走期間のことで、自身の学業上の専門分野を活かし数週間~半年程度の職業体験をおこないます。条件次第では給与が支払われないインターン(短期型等)もありますが、ドイツ社会におけるインターン生の月収相場は1000~1300€であり、一般的には既卒同等の仕事をしながら給与を得る場所として知られています。

ドイツの20~35歳人口の実に9割が就業前にインターンシップを経験しており、多くが2回、または3回のインターンシップを経験しています(出典:Statista)。インターン終了後、成績が良ければそのまま企業で採用されるケースも少なくないため学生はパフォーマンス向上のため多くの時間を費やしますが、中には正規雇用を匂わせて学生を働かせるだけ働かせる企業も存在するので注意が必要です。

インターンシップで働く労働者のメリット・デメリット

メリットデメリット
未経験からでも応募可能低い給料
正規採用への登竜門不安定な雇用形態

Minijob(アルバイト)

ドイツの定義では、月収が538€以下の労働者を「Minijob(アルバイト)」と、月収538.01€~2000€の間の労働者を「Midijob(フリーター)」と呼びます。カフェ、居酒屋、レストラン、コンビニ、などのアルバイトが一般的です(注:値は2024年5月現在のもの)。

両者の明確な違いはその社会保障と税金テーブルに反映されており、以下のような違いがあります。

 MinijobMidijob
賃金(月額)538€以下538.01€~2000€
社会保障支払い不要
(自発的に支払うことはできる)
月額給与の11~20%
税金無税(2%)所得税

月の賃金が2000€を越えると、社会保障における全額を負担する必要が出てくるため、この「Minijob」か「Midijob」か、あるいはそれ以上かの差は非常に大きいと言えるでしょう。

アルバイトでの就業を選ぶ人々

  • 収入制限のある場合
  • 学生、主婦など
(C)Flicker_Trondheim Havn

どの就業形態がおススメか

日本人がドイツでの就業を目指す場合、ワーキングホリデービザのような就労許可証付の滞在許可証を持つ場合は別として、基本的には就労ビザが必須となります。ブルーカードや熟練労働者のためのビザのように所得制限のある就労ビザもある通り、基本的には就労ビザの申請には「フルタイムの正規雇用」であることが望ましいでしょう(※ただし、最初からは有期雇用からの申請になるケースもあり)。

その場合、日本人であることの優位性を活かしやすい「日系ドイツ企業」への就職は一つの重要な選択肢です。ドイツ企業の中には日本人の就労ビザ申請に不慣れな会社も少なくありませんが、当社のような人材紹介会社を通じての日系企業への就職であれば、経験値が高くサポートやアドバイスを得られる可能性が高いでしょう。