外務省調べによると、イギリスに次いでヨーロッパ第二位の在留邦人数(約4万人)を誇るドイツは、日系企業にとっても経済の拠点として活用されており、1,500~2,000社という数の日系企業がドイツに法人を構えています。

こうした在独日系企業には日本から多くの駐在員が派遣されており、3~5年ほどの任期の間、日独をまたにかけたダイナミックな業務に携わることとなります。海外駐在員の中でもアメリカやイギリスと並んで花形とされ、仕事の責任とやりがいに満ち、金銭的にも本社のサポートを受けやすいドイツでの駐在員ですが、それゆえに駐在員への道のりも簡単なものではありません。

本記事では、将来ドイツでの駐在員を目指す方への一般的なアドバイス(職務内容や条件等)、その道筋を詳しく解説いたします。

海外駐在員の目的とシステムの解説

海外駐在員とはそもそもどのような制度で、派遣先でどのような職務に従事するのでしょうか?新卒で海外駐在員を目指す学生の方や、中途採用で海外勤務を望む方などに向けて、ゼロからその仕組みを説明します。

ドイツ駐在とはどのようなシステム?

海外駐在員とは、本国から会社の任務によって海外に派遣され中長期的に勤務する人々のことで、任期は3~5年であることが多いです。駐在中の雇用形態は個々のケースに応じ、大別すると「本社に籍を残したまま出向」「本社を退職し現地法人で新規雇用」という2つのパターンが用いられます。

日系企業で多く用いられる前者のパターン(在籍出向)の場合、ドイツの現地法人から給料を受け取りつつ、日本での社会保険などは継続することができ、日本帰国後にそのまま本社勤務に復帰しやすい形となります。

ドイツ駐在員の目的

日本の本社が海外に駐在員を派遣する目的は多種多様です。旧来の駐在パターンでは、現地法人や支店内のマネジメントに重きが置かれ、日本のメーカー内などでも管理職経験豊富な40~50代が海外に派遣されることが多かったですが、近年では徐々に現地法人を独り立ちさせるための技術伝達や、派遣された駐在員自身の教育などにも重きが置かれるようになってきました。

海外駐在員の目的派遣先での役割派遣年齢
組織の拡大・改善本社文化の伝達
本社理念の伝達
本社のシステムやスキームの伝達
現地法人のコーディネーション
中堅~ベテラン
ビジネス上の目的スキルやノウハウの伝達やトレーニング
イノベーションの伝達
社外ネットワークの拡大
若手~中堅
駐在員の成長派遣された社員が将来本社においてグローバル人材として活躍するための経験を積ませる若手
Hocking, J., Brown, M., and Harzing, A.W. (2004)を元に著者作成)

ドイツ現地採用との違い

さて、続いて「ドイツ駐在員(在籍出向)」と対照として引き合いに出されることの多い「ドイツ現地採用」の違いを確認しましょう。

大きな違いとして、海外駐在員は本社の都合によってドイツに赴任する、現地採用の場合は本人の都合でドイツで就職する、ということが挙げられます。

つまり、海外駐在員の場合はあくまで企業の意向であり、海外赴任にまつわる諸経費や費用を企業側が負担する義務があるということです。逆に、現地採用の場合ではあくまで海外就職の意思の主体は現地採用された側なので、企業側に駐在手当や住宅補助を支払う義務がありません。

 海外駐在員現地採用
日本本社での籍
日本での社会保険
ドイツ法人からの給与
駐在員手当
労働契約ドイツ(+日本)ドイツ
任期3~5年永住が前提
就労ビザのサポート原則企業側が対応原則応募者が対応

駐在員と現地採用と待遇に違いが生じているという声が上がりがちですが、あくまで「誰の意思」によって当人がドイツにいるのかによって雇用主の負担額も変わるわけです。

ドイツで駐在員になるためには?

金銭的にもキャリア的にも非常に恵まれた環境にある駐在員ですが、特にお目当ての国の駐在員になるためには長く険しい道が待っています。

駐在員になりやすい業界・会社

将来駐在員として活躍したいのであれば、海外駐在割合の多い業界を志望することが大前提と言えます。東洋経済社の発表している海外勤務者が多い会社トップ200ランキングを元にすると、大手メーカーや商社の海外駐在数は多いといえ、駐在割合に注意を払うと商社、電子部品メーカー、化学メーカー、海運業などの駐在割合が高いと言えます。

 社名業種海外駐在数従業員数駐在割合
1トヨタ自動車自動車2450752003.26%
2ソニー電機1400166008.43%
3デンソー自動車部品1330238005.59%
4三菱商事商社1280620020.65%
5三井物産商社1200590020.34%
6住友商事商社1100510021.57%
7三井住友銀行銀行1080292003.70%
8キャノン電機1000262003.82%
9三菱電機電機960316003.04%
10丸紅商社900440020.45%
11日立製作所電機800356002.25%
12豊田通商商社790360021.94%
13JETROその他サービス700170041.18%
14ミネベアミツミ電子部品650590011.02%
15伊藤忠商事商社640420015.24%
16矢崎総業自動車部品590179003.30%
17ヤマハ発動機輸送機器56065008.62%
18村田製作所電子部品56078007.18%
19YKK金属製品560380014.74%
20東レ化学550440012.50%
(東洋経済「海外勤務者が多い会社トップ200ランキング」を元に著者作成)

逆に、従業員数に対して海外駐在率が少ないのが生保、損保、証券、住宅メーカーなどで、その分社内で海外駐在員に選抜される難易度も高いと言えるでしょう。

また、駐在員の中でも特に「ドイツ」を希望するのであれば、会社概要の中から「ドイツ法人」がある企業に絞って応募する必要があります。中には、駐在員数自体は少なくても、駐在割合が高い企業も隠れているため、そういった会社に積極的に応募することは効果的です。

ドイツ駐在員になるための要件

企業自体にドイツへの駐在機会があるかどうかは勿論、自身にもドイツ駐在の資格があるのかどうかも重要な要素となります。一般的な企業の海外駐在であればTOEIC700点が一つの目安になるとされており、企業によってはスピーキング・ライティングテストの点数を科すところもあります。

もっとも、企業のプロパー社員が駐在員になるためには、英語要件もさることながら、実際に業務上優秀な成績を収めているか、現地のマネジメント能力があるか、といった点も考慮されます。この条件は企業によって異なり、総合商社や大手電子メーカーのように新卒3年目までに総合職の大半が海外勤務を経験、といったところから、30~40歳の中堅にならないと海外勤務のチャンスが回ってこないような業界もあります。

ドイツ語の有無を条件として課すかは企業によって異なりますが、企業にとっては技術やマネジメント文化の伝達が目的であることが多いため、ドイツ語スキルはアドバンテージになることはあるかもしれませんが、それ自体が要件に盛り込まれるような企業は少ないと言えるでしょう。

  • 英語要件(TOEIC700点程度)
  • ドイツ語スキルは求められないことが多い
  • 海外で活躍できるための業務上のスキルや経験を満たしているか

ドイツ駐在員のメリット・デメリット

数ある駐在先の中でも特に重要なマーケットとして捉えられているドイツですが、この国に駐在員として赴くことはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

メリット

ドイツ駐在に関するメリットに関しては、以下のような点が挙げられます。

  • 金銭的サポートの享受
  • 家族のサポートも手厚い
  • ドイツには日本語サービスが充実している
  • 将来のキャリアにとって大きなプラス
  • 経験値の向上

上述の通り会社の都合での赴任になることから、駐在手当や住居・社有車の無料支給が付帯することが多く、企業によってはドイツ駐在中に「家が一軒買える」ほどの貯金が貯まるとも言われています。

大手企業の駐在となると、帯同する家族のキャリア支援やメンタルサポートも見受けられ、本人だけでなく家族への保証も手厚く、またドイツであれば日本語で病院や幼稚園に通う環境が整っており、治安面でも申し分がないと言えるでしょう。

ヨーロッパの中で日本にとって最も重要な貿易パートナーのドイツでの駐在経験は、社内外を問わず大きなステータスとして捉えられることが多く、将来的な社内でのキャリアアップ、転職活動などに大きなアドバンテージとなることでしょう。

デメリット

一方で、ドイツ駐在にはデメリットも挙げられます。

  • タイミング・国が選べない
  • 文化的障壁
  • 家族の問題
  • 帰任問題
  • 時差などの影響と本社との折衝義務

まず大きなデメリットとして、将来本当にドイツに駐在になることができるかの保証が無い点です。企業側の派遣目的が若手社員育成などであれば優先的に来られる可能性も高まりますが、あくまで確率の問題であり、100%自分の意思での調整ができません。

ドイツと日本の文化的な障壁も大きな壁の一つです。国際的なデータによると、駐在員のおよそ3割~4割程度が文化差などによって想定通りのパフォーマンスが発揮できず、場合によってはメンタル上の問題などで早期帰国に踏み切ることもあります。

家族へのサポートを会社が請け負うこともありますが、やはり子供の学校、パートナーの退職など大きな人生の転機に繋がることが多く、単身赴任を選択せざるを得ず家族間の関係が変化することもあります。また帯同を選択した場合でも、慣れない環境下で家族内での不和を生じさせる例が多く報告されています。

また、駐在員はたびたび「本国と駐在先の板挟み」になることが多いと言われており、日本との時差7~8時間を埋めるたびに早朝に出社して会議に参加したり、度重なる出張による時差ボケで肉体的、精神的疲労に繋がることも多々あります。

ドイツ駐在員になれなかった場合は?

このように、金銭的、キャリア的にも大きなアドバンテージを持ち、業務内容も非常にダイナミックで海外志向の社員から人気の高いドイツ駐在員ですが、やはりその分社内の競争が激しく、必ずしも選抜されるとは限りません。

また、適性があっても場合によってはマネジメント職になるまで5年、10年の下積みを経験する必要があり、中々自身の望んだタイミングで駐在できないのが現実です。

そうした場合、選択肢として挙げられうのが「ドイツ現地採用」の活用です。日系企業の中には、短期間で帰任する駐在員ではなく、ドイツ社会に根を張って長期的に法人運営に携わる現地採用人材を多く採用し、人材の核としているところが少なくありません。そうした企業への応募は、日本本社ではなく現地法人でおこなわれることが多く、当社のようなドイツの転職エージェントを活用することをお勧めします。

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