日本の高度経済成長を支えたモノづくり産業。令和の現在においても日本の主たる産業はモノづくりであり、海外に拠点を持つ日系企業ポジションの約6割以上をメーカー業務が占めており、海外におけるそのプレゼンスは健在です。
実際にドイツの日系メーカーに就職するとなると、営業や営業アシスタントなど、日本とドイツ市場(欧州市場)を繋ぐ種類の仕事が多くなります。その中で特に重要なのが「貿易実務」の知識で、実際に貿易を手掛ける立場になくても、リードタイムや支払いの概念を理解しておく必要があります。
なぜドイツ就職と貿易実務が相性が良いのか?
当社調べでは、ドイツに就職する日本人のうち実に7割以上が「営業」または「営業アシスタント」のポジションで、上述のような背景からその業務内容は貿易実務的な要素が多く含まれることとなります。
日本の大手メーカーで勤務する場合、購買部と営業部が分かれており、営業部は営業活動に専念できるわけですが、ことドイツにおける日系メーカーでの業務となると、生産拠点(日本など)と営業拠点(ドイツなど)の距離が離れていることが多く、単純に営業=営業の身をしていればよい、というわけではありません。
国をまたいだ納期や支払いタームの判断に際しては、貿易的な知識が欠かせません。例えば、スウェーデンの顧客と大型納入の納期の話をする際、ドイツの倉庫からではなく日本の工場からの輸入となるわけで、生産~港への到着、検品作業に至るまでの日数を考える能力が求められます。同様に、どの工程で費用が発生し、どこを削れば費用が削れるのか、その費用を削った場合のリスクやメリットはどこにあるのか、といった思考方法は、海外営業として活躍する上で欠かせない素養と呼べるでしょう。
貿易実務で知っておくべき概念5選
実際には、ドイツのメーカーに勤務する営業や営業アシスタントの全員が日本で貿易的な知識や経験を得ているわけではなく、むしろ少数派と言えるでしょう。実際には、ドイツでの業務を通じて身に着けていくこととなります。
とはいえ、当然企業側としては貿易の知識があれば重宝するわけで、面接などに全く分からない状況で臨むよりも、少しは大まかな流れを理解していったほうが内定の確度は上がることとなります
以下、ドイツでの貿易実務で欠かせない5つの概念を紹介します。自身の応募先のポジションなどと照らし合わせ、イメージがつくようであれば内定に大きな前進となることでしょう。
支払い条件の知識
国をまたいで営業活動をおこなったことのある人が必ず問題視するのがこの製品購入時の「支払い条件」です。国際貿易の世界には数多くの支払い方法が存在していますが、どの支払い方法が最適か、という一元的な答えは存在しません。
製品を輸出(販売)する側からしたら製品の代金は早く受け取りたいわけで、逆に輸入(購入)する側から見たら代金を支払うタイミングは遅らせたい、という綱引きのような関係にあります。
代金の多寡、信頼関係、パワーバランス、契約内容、など様々な条件を加味した上で、輸出側・輸入側の間でバランスの取れた方法が選ばれるわけです。あまりに自社に有利な条件であれば売買が成り立ちませんし、逆に他社に有利過ぎると自社の売掛リスクなどが生じます。支払い方法、保険、カントリーリスクなど広範な知識を持ち、顧客や国に応じて柔軟に対応できる交渉能力が、まずは不可欠と言えるでしょう。
参考となるページ
- Zahlungsbedingungen – 支払い方法一覧
- Cash Against Documents (CAD) – キャッシュアゲインストドキュメント
- Vorkasse – 前払い
- Zahlung gegen einfache Rechnung
輸送方法
すでに現地に在庫が存在する場合はともかく、大型発注や予期せぬ製品の仕入れ、受注生産品など、国際貿易ビジネスには生産地から消費地へ製品を輸送しなくてはいけないシーンが多々見受けられます。その時営業社員の力量が試されるのが「どのように」「誰が」輸送を行うかで、この判断が納期や費用、ひいてはプロジェクト全体に影響を及ぼすこととなります。
航空便は圧倒的な速度を誇る一方でたくさんの荷物を運ぶことには不向きです。重量や体積が増えれば増えるほどその運搬費用が肥大化するため、輸送する製品次第では選択肢から外れることとなります。逆に、船便での運搬は速度こそ遅いですが大きな容量を一度に運搬することができ、航空便に比べて安価というメリットを持ちます。
船便の中にもさらに選択肢が用意されています。20Feetコンテナなのか、40Feetコンテナなのか、フルコンテナを貸切るのか、LCLで相乗りするのか、等々。どのコンテナを使用するかは、今度は積み荷の体積の問題になってくるので、販売戦略と絡め、単価辺りの運送料が最適化されるような計算を行う必要があります。
参考となるページ
- Transportarten – 輸送方法
- FCLとLCLの違いについて
- Container – コンテナ
納期
国境をまたぐ商取引では納期の概念がよりシビアになります。上述の輸送方法や支払い方法とも密接に関連がありますが、単にモノを動かして終わり、ではなく、仮に海運であればフォワーダーに依頼し、海上保険をつけ、税関手続きをクリアし、港から顧客先までの陸運の手配をおこない、初めて顧客の元に製品が届きます。加えて、OEMや受注生産品など特殊な製造工程の場合、単に倉庫のものを出荷することもできないので、そこに製造期間が組み合わさるわけです。
参考となるページ
- 貿易実務における受発注の流れ
契約書
貿易実務の世界では、国内における売買契約よりもさらに複雑化された契約手続きを行わなくてはいけないことが一般的です。特に、商習慣や法規制のことなる国同士、お互いに拠り所となるのは「契約書」や「合意書」であり、一度サインがなされてしまったら覆すことが難しい、大きなリスクが伴うことともなります。
契約書でガチガチに縛ってしまうと、契約書の作成に膨大な時間がかかるうえ、将来的にお互いのクビを絞める事ともなり、全体的に柔軟さを欠いてしまうこととなります。一方で、緩すぎる契約書では今度は売買取引不履行時の担保がなされず、やはり危険です。相手との信頼関係、製品カテゴリ、などを見極めた上、リスクと柔軟性の絶妙なバランスを取り持った契約書や売買取引合意書を取り交わせるかが、貿易に携わる営業社員の冥利と言えるでしょう。
参考となるページ
- Auftragsbestätigung/AB – 注文確認(書)
- PO – 発注書
認証
日独間でモノの輸出入をおこなうとき、製品カテゴリにもよりますが、認証やスペックの表し方が大きな差異となって担当者を苦しめることがあります。例えば、ドイツの一般的な製品であればCE認証マークは勿論、Blue AngelやTüvといった認証が物をいうことが多い一方、日本からの製品の一つ一つにヨーロッパ式の認証を附帯するのは技術的にも予算的にも難しいことがあります。
すでに欧州に進出して長い日系企業であればともかく、年月の浅い場合、日本で展開している製品のすべてがドイツで手に入るとは限りません。予算や市場の特性に応じて認証やデータシート記載の情報は精査していく必要があります。