ドイツを含む欧州の国々は子供や子育て世帯に対する支援が手厚く、「子育てしやすい国」というイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか?今回は、そのイメージはどこから来ているのか、ドイツが実際に行なっている子育て支援策や育休取得の現状について解説します。

「子育てしやすい国」というイメージの正体

ドイツが子供を持ちやすい・子育てしやすい国というイメージを持たれるのは、出産・育児にお金がかからないことが最大の要因だと考えられます。まず、日本で子供を持つともっとも負担となる教育費、これがドイツでは幼稚園から大学まで無料です(公立の場合、給食費などの経費負担のみ)。日本に比べて社会保険料は高いものの、出産に関わる諸費用も特別な対応を除きすべて健康保険でカバーされるため、子供を産み育てるハードルが低いと言えます。

①出産にお金がかからない(妊婦検診、入院・出産費用は全額保険でカバー)
②育児にお金がかからない(助産婦によるサポート制度、公立幼稚園が無料)
③教育にお金がかからない(公立小学校から大学まで無料、教科書が無料)

また、保育施設や遊び場で子供が発する声や音は騒音ではないということが法律(2011年に改正された連邦イミシオン防止法)によって規定されており、子供がうるさかったり騒がしいことへの一定の寛容さが社会に求められていることも、子育てがしやすい国というイメージに一役買っていると思われます。

日本と同じく少子高齢化の課題を抱えるドイツで、子育て環境の整備を重視してこのような決定がなされたことは、政府が問題意識を持ってこの課題に取り組んでいることを国民に明確に示すものとして大きな意義を持ちます。

ドイツの子育て支援制度

次に、ドイツ政府や保険機関が行なっている子育て支援について具体的に見ていきましょう。大きく分けて、出産支援、休業支援、経済的支援の3つの柱があります(2023年7月現在)。

出産支援

・出産手当(Mutterschaftsgeld)
産前産後の母体と出産時の安全を守ることを目的とし、加入している保険会社(Krankenkasse)から支払われる補助金。就業中の女性/雇用主が妊娠中に雇用関係を終了した女性/産前産後休業期間内に雇用開始・保険加入した女性のいずれかであることが受給条件。

・母親手当(Mutterschutzlohn)
産前産後休業期間(Mutterschutzfrist:出産予定日の6週間前〜出産後8週間)中、自身の最低平均給与を受給できる制度。

休業支援

・両親時間(Elternzeit)
いわゆる育児休業制度。最長3年(36ヶ月)間の休業が認められており、その間は職場のポジションが保証される。

経済的支援

・両親手当(Elterngeld)
出産後、育児を行うために休業・時短勤務する両親の収入減を補うための補助金。3つの補助金を併せて利用すると両親ひとりあたり最長18ヶ月(合わせて36ヶ月)支援を受けることができる。

①両親手当ベーシック(Basiselterngeld)
両親時間取得中、子供が生まれる前の平均手取り賃金の67%(最大1800ユーロ、出産前無収入の場合は最低額の300ユーロ)を受け取れる制度。利用できる期間は両親合わせて14ヶ月(ひとりあたり最短2ヶ月〜最長12ヶ月)で、どちらが何か月申請するかは自由に振り分けることができる。ひとり親の場合は一人で14ヶ月受給可能。

②両親手当プラス(ElterngeldPlus)
両親手当を受けつつパートタイム勤務を行いたい両親、あるいは細く長く支援を受けたい親に対する支援。両親同時に受給が可能で、利用できる期間は両親合わせて最長28ヶ月。

①パートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)
出産後、週24〜32時間のパートタイム勤務を行う既婚両親・未婚両親・ひとり親に対する支援。期間は最短2ヶ月〜最長4ヶ月。

・児童手当(Kindergeld)
ドイツ在住で、納税義務のある両親であれば外国人でも受けられる補助金。支給額(月額)は子供1人目・2人目が219ユーロ、3人目が225ユーロ、4人目以降は250ユーロで、原則子供が18歳になるまで支給される(子供が高等教育Studiumや職業訓練Ausbildungを行なっている場合は25歳まで、子供が失業中の場合は21歳まで)。

・兄弟(姉妹)ボーナス(Geschwisterbonus)
受給資格は、同居の3歳以下の子供が1人以上いる場合/同居の6歳未満の子供が2人以上いる場合/障害のある14歳以下の子供が1人以上いる場合のいずれか。両親手当の10%が上乗せで支給される。

・ひとり親支援(Unterhaltsvorschuss)
ドイツ在住のひとり親世帯(子供の国籍はドイツでなくてもよい)の養育費不足を補うために支給される補助金で、収入による制限はなし。支給額(月額)は5歳まで177ユーロ、6〜11歳236ユーロ、12〜17歳314ユーロ。

ドイツの育休と育児に対する考え方

ドイツには日本のように、女性が産前産後実家に帰ったり、産後母親が手伝いに来るという慣例はなく、子供は両親が協力して育てるものという考え方が浸透しています。手軽に購入できるお惣菜やデリバリーもさほど充実していないので、産後の女性の身体の回復と家事や新生児の世話には、パートナーのサポートが不可欠になります。

ドイツの育休取得状況と男性の育児参加

ドイツ連邦情報局が6歳以下の子供を持つ20〜49歳の父親・母親を対象に行った調査によると、母親の方が突出して両親時間(≒育児休業)を取得していることが明らかになっています。2019年、6歳以下の子供を持つ両親の両親時間取得率は、母親で24.5%、父親で1.6%。3歳以下の子供を持つ両親の場合は、母親で42.2%、父親で2.6%です。

父親が育児参加に積極的なドイツでも未だ大きな差が見られるのは、男女の収入格差に起因しています。ドイツ連邦情報局の2021年のデータによると、男女間の平均収入格差は時間あたり7.08ユーロで、フルタイムで月に160時間働いた場合1132ユーロもの差が生まれることになります。育休中は両親手当を受け取ることができるとはいえ、男性が働いて女性が育児に専念する方が家計のマイナスが少なくなる傾向が強いため、女性が両親時間を取得するパターンになりやすいのでしょう。

両親手当の受給数でも男女間には倍以上の開きがあり、どちらが休業しメインで育児を担っているかがよく分かる結果になっています。とはいえ、2007年に両親手当の制度が導入(育児手当=Erziehungsgeldからの制度変更)されて以降の10年間で男性の受給率は2倍以上に増えており、育児参加への男女格差が少しずつ是正されていることは事実です。

ドイツ連邦情報局“ Statistik zum Elterngeld – Elterngeldempfänger nach Geburtszeiträumen: Deutschland, Jahre, Geschlecht”をもとに作成
ドイツ連邦情報局“ Statistik zum Elterngeld – Väterbeteiligung: Deutschland, Jahre”をもとに作成

育児期間中の男性と女性の役割分担は、両親手当の受給期間からもうかがい知ることができます。休業中(あるいは時短勤務中)の親が申請できる両親手当の受給期間の平均は、2021年のデータで男性3.7ヶ月、女性14.6ヶ月と明確な差が見られます。

ドイツ連邦情報局“ Statistik zum Elterngeld – Durchschnittliche voraussichtliche Elterngeld-Bezugsdauer:Deutschland, Jahre, Geschlecht, Art der Inanspruchnahme”をもとに作成

両親手当を受給する男性のおよそ4人に3人は最低受給期間である2ヶ月以内の受給に止まっており、これを超えた期間受給する人は約28%。1年以上の育休を取得する人に至ってはわずか3%に過ぎない状況ですが、それでも5年前の2015年と比較すると2倍に増えています。

出典:ドイツ連邦情報局 “Zwei Monate Elterngeld: Drei von vier Vätern planten 2020 mit der Mindestdauer

まとめ

ドイツの出生率は30年前と同程度まで回復し、2人目・3人目を持つ割合も増加傾向にあることから、政府の子育て支援策は一定の効果をあげていると言えます。また前述のような、法律面からの子育て環境整備や貧富の差なく教育が受けられる制度も、若い世代が「子供を持ちたい」と思える基盤となっていることでしょう。

ドイツも日本同様核家族化が進んでいて乳幼児を育てる両親の負担は大きいものの、男女ともに残業はせず就業時間きっちりで仕事を終える人が多いので、働いて家計を支える側(おもに父親)も育児に参加しやすいこともプラス要因となっています。実際、平日の昼間にベビーカーを押して散歩したり、幼稚園や小学校に子供を送迎する男性を当たり前のように見かけるのがドイツの日常。奇しくもコロナ禍でホームオフィス勤務が増えたことも、両親が協力して育児しやすい状況づくりに貢献していると考えられます。

また、ドイツでお子様を育てながらお仕事されている日本人の数も少なくありません。特に文化的に日本本社の特徴を継承する在独の日系企業では、ドイツの子育て支援制度を活用しつつ慣れ親しんだ日本文化で仕事できる土壌が備わっていると言えるでしょう。

【参考資料】
・ドイツ連邦司法省(Bundesministerium der Justiz)”Gesetz zum Schutz vor schädlichen Umwelteinwirkungen durch Luftverunreinigungen, Geräusche, Erschütterungen und ähnliche Vorgänge (Bundes-Immissionsschutzgesetz – BImSchG) § 22 Pflichten der Betreiber nicht genehmigungsbedürftiger Anlagen
・ドイツ連邦家庭・高齢者・女性・青少年省(Bundesministerium für Familie, Senioren, Frauen und Jugend):“Familienleistungen
・ドイツ連邦家庭・高齢者・女性・青少年省 ファミリーポータル(familienportal): “Familienleistungen
・ドイツ連邦家庭・高齢者・女性・青少年省 ファミリーポータル: “Geschwisterbonus: Wie viel Elterngeld bekomme ich, wenn ich weitere Kinder habe?
・ドイツ連邦情報局(Statistisches Bundesamt): “Personen in Elternzeit
・ドイツ連邦情報局: “Gender Pay Gap 2021: Frauen verdienten pro Stunde weiterhin 18 % weniger als Männer
・ドイツ連邦情報局: “Zwei Monate Elterngeld: Drei von vier Vätern planten 2020 mit der Mindestdauer
・ドイツ連邦情報局: “Geburten