我々日本人は、順調にいけば、20代前半で大学を卒業、社会人になり、その後の長い社会人のレールを進んでいくことになります。もっとも、こうした判で押したような「新卒一括採用」ルールは日本特有のものだということはご存じでしょうか?ドイツでは、麻のごとく個々人が個々人の独自のキャリアを思い思いに描いていくことで知られています。

そんな、日本から見たら自由気ままに見えるドイツ人たちのキャリアパスですが、それでも注意深く観察してみると、やはり年齢における傾向のようなものが発見できます。今回の記事では、ドイツ社会で20代での転職活動がどのような意味合いで受け入れられるのかを詳しく解説していきましょう。

ドイツで20代ってどんな印象?

日本の一律の社会システムでは、18歳で高校を卒業、22歳で大学を卒業し、その後新社会人になって会社に就職、という循環が成り立っています。勿論、留年や浪人、休学や留学、そして大学院にいくなど個人によってこの年数は±2~3年前後するかも知れませんが、基本的にはレールに乗った教育の上を進むと言ってよいでしょう。

一方、ドイツでは進路を定める年齢は個人によって大きく異なります。大学進学者の約半分が大学院に進学するドイツにあっては、インターン、留学、ワーホリ、学部の転向、大学への入りなおし、など様々な要因も手伝って、大学卒業生の新卒年齢も20代前半から場合によっては20代後半と幅が持たされており、ドイツ人学生の平均新卒年齢は学部卒で24歳前後、大学院卒で26歳前後です。

ドイツ人のキャリアパス例

そのため、日本では大学卒業をする20代前半までがおおよそ新卒の年齢と見なされる一方、ドイツ社会では20代後半まで一応「新卒」と見なされる傾向にあります(厳密に言えば、ドイツの採用文化において年齢を聞かれることは滅多にありませんが、あくまで傾向として)。

ドイツでは仕事の習熟度を測るため、求人の段階でジュニア枠採用なのかシニア枠採用なのか、という判断基準が用いられており、これが20代の求められる仕事内容を見極めるための参考になるでしょう。ジュニア枠とは、業界経験年数5年以下のポジションのことで、業務を通じ様々な知識を吸収し、一般的に部下を持つようなことはありません。シニア枠は日本でいう係長クラスのことで、単なる一担当者の範疇を越え、部内をくまなく見渡し、場合によっては部下の管理もおこなうようなポジションのことです。

GULP社資料元に著者作成

年齢別のそれぞれのポジションの内訳をみると、20代ではジュニア、シニア、混合がうまい具合にミックスされているのに対し、30代になるとシニアの割合が8割を越えます。20代とは、ドイツ社会において「新卒でもまだ許される」年齢の区切りと呼んでもいいでしょう。

この辺りの、年齢とキャリアの関係性に関しては別途記事「ドイツは就職時に年齢で差別されない?年齢で知るドイツのキャリア」を参照してください。

ドイツで20代の転職時に採用担当者がチェックするポイント

すでに社会人経験豊富であることの多い30代と比較し、ドイツ社会において20代は「見習い」「半人前」と見なされることが少なくありません。いくら実力主義と呼ばれるドイツにあっても、やはり若手を評価する際には温情で「ポテンシャル」や「ソフトスキル」など、成果以外の部分を評価してくれるところがあると言えるでしょう。以下に、20代の転職活動時に採用担当者がチェックするとされる項目を記載してきます。

転職回数

ドイツは転職志向の国と呼ばれていますが、キャリアを通じて転職回数のマジョリティを占めている層は1回以上5回以下の層であり、20代後半で転職したことのある割合が50%を超える日本と比べ、極端に転職回数が多いとも言い切れません。

Stepstone社の調べでは、新卒採用者の3割が2年以内に転職していることから、何歳で仕事を開始したかにもよりますが、もっともな理由さえあれば、20代のうちで2~3回程度の転職回数までは許容範囲と言えるでしょう。逆に、転職回数が少なくても、面接官を納得させられるような理由が見つからなかったり、素行不良や犯罪行為などによる懲戒解雇などですと転職活動に深刻な影響をもたらします。

  • 仕事開始の年齢にもよるが、20代で2~3回程度の転職は許容範囲
  • 極端に多い転職回数は面接官に黄色信号が灯る
  • また、転職回数が少なくとも不自然な転職、懲戒解雇による退職は大きな減点ポイント

専門・学歴

20代でも前半か後半か、職歴があるのかないのかによって異なりますが、履歴書の職歴欄が白紙であったり、あるいは少ない場合、その分大学の専攻や成績が重視され、逆に職歴が豊富である場合人事選考における学歴の重要性は薄まっていく傾向にあります。もっとも、ドイツ社会全体がスペシャリストの育成に力を入れている以上、自身の専攻と職種に一貫性があったほうが、面接官を納得させやすいでしょう。

学歴に関して言うと、大学の名前よりも学士、修士、博士のどの学位を取得しているのかが大きなファクターになります。これは、ドイツの教育システム上、学部時代に広い知識を身に着け、大学院以降で特定の分野に深化した専門知識を磨くという構造になっているためで、下記の表のように年収に隔たりが示されます。

FOCUSを参考に著者作成
  • 職歴が少ないほど、学歴や成績の重要性が増す
  • 逆に職歴や実績が多くなれば、その分学歴の重要性は薄まっていく
  • 学生時代の専攻と職種には一貫性があることが好まれる
  • ドイツ社会が専門性を好む特性上、学位は専門性が高いほど給与に影響がある

語学力

ドイツ人の44%が、何らかの形で仕事で外国語を使用していると答えています。島国である日本と違い、陸続きで隣国に移動できるドイツにあっては、外国は我々日本人よりももっと身近な存在です。母国語であるドイツ語も当然重要な語学ですが、それ以上に英語の重要性は増しており、特に20代の若い世代にあってはその傾向が顕著であるといえるでしょう(参照:Statista)。

そのため、当然日本の企業以上に「外国語」に対する素養は重視され、それもTOEIC600点、700点といったレベルではなく、実践に即した英語力、IELTCやTOEFLでいうところのB2 レベル以上が求められる世界といえるでしょう。

さらに、我々日本人がドイツでの就職したいと考えた際、面接官も、外国人である日本人を採用するにあたり、海外との折衝の多い部署へ当てはめることが多く見受けられます。その場合、英語が求められる割合は極めて高く、もはや語学力は、採用担当者がチェックするべきマストの募集要項と言ってしまっても良いかも知れません。

  • 英語は若い世代ではマストと化している
  • 最低でもB2レベル、一線級で戦うにはC1レベルの英語力が求められる
  • ドイツ語は、ドイツ企業であればやはり必要とされることが多い
  • その他欧州諸語及び中国語は、職種によっては大きなアドバンテージ
  • 日本語は、ドイツの日系企業など一部のポジションで高い価値を持つ

ソフトスキル

専攻や語学力など、厳しい採用項目を書き連ねてきましたが、20代のうちはドイツにあってもやはり「見習い期間」であることの方が多く、実践的なスキルや実績よりも、最終的には熱意やチームワークと言った人間力が問われることとなります。クールに実績のみを評価するドイツ人のイメージからは、少し想像がつかないでしょうか?

勿論、応募要件をみたしていれば、という前提条件が付きますが、人事も人間である以上、やはり応募者のスキルが横一線で競っている場合、最後の評価基準となるのはソフトスキルの部分です。チームワーク、コミュニケーション、行動力と言った、日本の新卒でよく聞くキーワードは、人事部が高く評価するポイントとして挙げられています。

もっとも、ドイツ人の言うチームワークとは単に周囲に波風を立てぬようイエスマンと化すことを指しません。切磋琢磨し、時には激しく議論しつつも、共通の目標に向かって一緒に戦い抜いていく戦友としてのチーム力を指します。

ドイツの若手向け日系求人を探す

20代で転職後の待遇、仕事内容

続いて、20代で転職した際のドイツ社会における待遇や仕事内容を見てみましょう。上述の通り、20代ではまだまだインターン生やジュニア枠採用が多く、深い業務知識が求められるシニア枠や、部下の管理業務を求められる管理職といったポジションにつくことは稀と言えます。

給料

ドイツは日本と並び、世界でも屈指の「勤続年数による賃金アップが多い」国であると言えるでしょう。逆に言うと、新人のうちは知識を吸収する「見習い期間」と見なされ、実は期待するほど多くの給与を得られないことが実情です。

ドイツの企業からドイツの企業に転職する場合、前職の実績や経験はテレビゲームのセーブ記録のように引き継がれることが多く、基本的に給与の交渉テーブルでは前職での給与が前提となります。一方、仮に日本からドイツに転職する場合、多くのドイツ企業がドイツで仕事経験がないという理由から「新人枠」として採用をおこなうため、中途採用であっても得られる給与水準はやはり新卒基準並になることが多いと言えるでしょう。

データブック国際労働比較2019を元に著者作成

業界経験以外に、新卒の給与は、企業規模や立地(都市部か田舎か)、業界や専門スキルによって大きく異なりますので、日本の就職事情のように横並びの初任給を割り出すことは不可能に近いでしょう。傾向として「医者」「銀行」「エンジニア」などの初任給が高い傾向にあり、「教職」「マーケティング」「建築」「デザイン」の初任給は低い傾向にあります。

また、ドイツは所得税が高いことでも知られており、また日本の大手企業のような住宅補助などの福利厚生も見込めない傾向にあります。そのため、実際の新卒の可処分所得を日独で比較すると、実際のところイメージするほど大きな開きはないかも知れません。

業務の権限

20代、特にそのキャリアの最初の3年目までは、業務上の権限は非常に限られたものであると言って良いでしょう。部門全体、会社全体のことを考えた管理職的な役割を与えられるにはまだ早く、基本的には上司に言われた年次目標をクリアすることを念頭においた目標設定がされます。

もっとも、どこまでの職域を任せられるのかは企業の規模や業界によって左右され、企業規模が小規模であればあるほど、若手でも重要な権限が回ってきやすいと言えます。給料同様、ここでもドイツ国内での転職であれば業務権限は同等規模のものを引き継ぎやすいですが、国境をまたいでの転職となると新人と見なされ、ゼロからのやり直しになることも少なくありません。

ドイツの日系企業における20代の転職

さて、ここまでドイツ企業一般における20代の転職事情を書き綴っていきましたが、ドイツに拠点を持つ日系企業への転職の場合、この事情はどのように変わるのでしょうか?

今回の記事で書いた内容は、ほとんどの部分で日系企業においても当てはまるといって良いでしょう。ドイツで現地採用される20代日本人は、基本的には若手の世代として見られることが多く、管理職の目立つ現地拠点の中でも、フットワークの軽さを活かした現地営業や現地のエージェントとの交渉、あるいは多国籍チームに溶け込んでかじ取りをしていく、エネルギッシュな役割が求められます。

  • ドイツの日系企業にあっても、20代は基本的に若手世代と見なされがち
  • 多国籍チームや隣国への長期出張など、日本で働くと味わえないダイナミックな業務に携わることができる
  • 最低限、英語力が求められ、ドイツ語はマストではないことが多い
  • ドイツで就職したいという熱意や夢が大きなアドバンテージとなる

日本で働くとすると、海外駐在に選ばれるため、場合によっては30代や40代になるまで待たなくてはいけないことも少なくありません(参考記事「ドイツ就職で海外駐在員vs現地採用どちらを目指すべき?」)。こうした時間をスキップし、自ら海外就職の切符を勝ち取るために、現地採用という危うい道を選ぶ勇敢な20代の日本人は、ドイツ市場を重視する日系企業の人事部たちから、きわめて高く評価される傾向にあります。