ドイツ連邦統計局の公表しているドイツのフルタイム労働者の平均額面月収は€4.323(2023年度)で、日本円に換算すると約70万円という水準になります。日本の平均月収が35-40万円程度と言われていることから、額面ベースでは約2倍の開きがあることになります。
もっとも、この数値を引き合いに出して「ドイツの収入は日本よりも高い」「ドイツに行けばこれくらい稼げる」と結論付けてしまうのは早計です。ドイツの労働局が公開しているデータの多くはドイツ人を前提としており、ドイツに移住したばかりの日本人がドイツの平均月収と同等水準を得ることは難しいからです。
今回の記事では、ドイツで働く日本人の現実的な給与水準を紹介していきます。
(※€1=160円で計算 2024年8月現在)
・ドイツでの就職を考えている日本人
・ドイツの平均月収と自身の給与との乖離の理由を知りたい方
ドイツの平均給与は中央値ではない
まず注意しなくてはいけないのが、4.323€は平均値であって中央値ではないという点です。統計局の調査によると、「€4.323」という収入を得ている人はドイツ人ですら全体の3分の1に過ぎず、月収のボリュームゾーンは「€2.900-3.100」のレンジだということです。
また、給与水準はさまざまな要因によって計算されている点にも注意が必要です。特に、以下のファクターは給与水準に大きな影響を与えるものとして知られており、同じような業態であっても会社規模によって給料が2倍程度違うことはよく見受けられます。
例えば、学士卒と修士卒とでは初任給が10-20%程度違うことが見受けられます。従業員規模も、50人以下の中小企業と5000人以上の大企業とでは50-60%の給与の開きがあるとされ、そもそも平均給与をベンチマークにすることは給与交渉時に衝突や誤解を招く原因となるので注意が必要です。
給与に影響を与えるファクター
学歴 | 勤務形態 |
業種 | 企業規模 |
職種 | 職歴 |
州・ロケーション |
さらに、日本人が日本から国境を越えて就職する際に考慮しなくてはいけないのが、職種・業界によっては「日本での職歴」がドイツでは職歴としてカウントされづらいという点です。
例えば、日本で10年営業の仕事をしていました、という職歴をドイツに持ち込んでも、ドイツ人相手またはドイツ・ヨーロッパ市場に対して同じ成果を出せる保証はなく、場合によっては「新卒者」と同じ給与テーブルから始められてしまうことがあります。
移民と賃金格差
ドイツの大手求人ポータルサイトであるStepstoneは、これらの要因に加えて「移民の背景」が給与水準に影響を与えている可能性を示唆しています。移民の背景のある就労者全体の給与水準は、ドイツ人就労者全体と比較して約25%近く低いというデータが示されており、ここには年齢、学歴、言語レベルなどさまざまな要因が絡み合っていると言われています。
ドイツにおいて、国籍や肌の色による差別は違法と見なされていますが、実際のところ面接や書類選考など多くの場面で、多かれ少なかれフィルタリングされる一因になっていると言われています。また、現地のドイツ人と全く同じレベルでドイツ語を話せる日本人はほんの一握りのため、こうした理由を引き合いに出して、同じ業務内容でも給与水準が異なる状況が見受けられます。
(※最も興味深いことに、「フルタイムで働く外国人」でフィルターをかけた際には、一部の外国籍(インド人やブラジル人など)はドイツ人よりも多く稼いでいるというデータもあります。)
ドイツで就職したい日本人の給料はいくら程度を期待できるのか?
職種、業界、企業規模、経験年数など種々の条件によって給与は異なりますが、「ドイツ語がネイティブ並みに話せない外国人」ということを考慮すると、その業界におけるドイツ人の平均給与から±20%くらいのレンジに納まることが一般的でしょう。
例えばドイツ連邦統計局は以下のような「給与計算ツール」を参考までに開示しており、自身の業界や年齢、ロケーションや契約書の種類などを入力することで「おおよその」適正給与を算出してくれます。ドイツでの学位や、ドイツでの職歴が過去にあればこの水準に近い給与が期待できますし、逆にドイツでの仕事が全くゼロからの場合は多少下にぶれる可能性があります。
また、一般的に「日本での職歴」(特に文系職)を経験値としてカウントすることの少ないドイツの就職市場ですが、ドイツに進出している在独日系企業などはむしろその逆で、日本での過去の職歴などをポジティブに評価する傾向にあります。
自身の日本での職歴や実績に自信があり、かつそれを正当に給与に算定してもらいたい場合など、在独日系企業への転職活動がおススメと言えるでしょう。
