日本の就活市場には、「就職難易度」「就職偏差値」といった言葉が存在します。

例えば四季報が公開している「入社が難しい企業ランキング」は、採用者の出身大学のデータを元に、その企業の採用難易度がどれくらいか学歴ベースで算出しています。インターネット掲示板などを中心に、就活生によって恣意的に定められた「就職偏差値」というものも存在し、どちらも就活生が応募する企業を見定める上での一つの指標となることで知られています。

では、日本の就活者にとって未知の部分が多いドイツ企業(在日ドイツ企業ではなく、ドイツ国内のドイツ系企業)をこのように難易度付けすると、いったいどのような形になるのでしょうか?

今回のコラムでは、ドイツで内定を取るために必要な時間と資格、スキルなどを元に、日本の就活者(新卒・中途)にとっての難易度を算出していきます。

ドイツで内定を貰うための難易度:どれくらい難しい?

勿論、会社規模、職種、給料ベースなどによって難易度は大きく上下しますが、例えば日本の東証一部上場企業と近しい、フランクフルト上場銘柄企業に絞ると、以下の2つの要件を応募者のためのハードスキルとして求める会社が非常に多いです。

  • ドイツ語および英語(C1レベル以上)
  • 学歴・専攻

また、ドイツには上場せずに有限会社方式を採用する大企業が少なくない(有名なところであれば、ボッシュなどがこれに該当し、非上場企業)ですが、こうした企業も基本的には上場銘柄と同じような選考スタンスです。加えて、Große Firmaと呼ばれる500~1,000人規模の会社や、Konzernと呼ばれる1,000人超の会社でも、やはり上述の2要件は必須となることが多く、一般的に「ドイツの一般企業への内定難易度」をはかるための指標として用いることができます。

以下、それぞれの項目の難易度をチェックしましょう。

語学難易度

日本人がドイツで就職しようとした際、高いハードルとなるのがこの語学要件です。もちろん中には、英語のみ可、ドイツ語日常会話レベル可といった会社や職種もありますが、ある程度の給与水準を優良企業で享受しようとした場合、英語、ドイツ語ともにC1レベルの実力があることが望ましいとされています。

これは、英語、ドイツ語ともにいわゆる「ビジネスレベル」、独検・英検1級~準1級レベルを指し、ゼロから学ぶ者にとって、資格習得までの学習時間は1,000時間~2,000時間と言われています。一般的に言われている資格難易度と照らし合わせて鑑みると、国家公務員(一般)、社労士等のいわゆる「難関資格」相当の難易度です。

この「難関資格」レベルの基準をドイツ語、英語ともに取得していることが、まずドイツ就活のスタート地点となり、応募の段階からすでに難易度は低くないことが見て取れます。

難易度ポイント1

  • 日本における「難関レベル」相当の資格を2つ

学歴・専攻

続いてドイツ企業の採用指標になることの多いのが、学歴・成績です。日本のようにあからさまな学歴フィルターは存在しませんが、ドイツで「Konzern」と呼ばれる従業員1,000人を超える大企業の採用者を見渡すと、世界大学ランキングで上位ベスト500にランクインしている大学出身者であることが一般的です。

THE 世界大学ランキング

ドイツ国内の大学であっても人事の目を引くのは一般的に「知られている」と見なされる大学で、この目安は大学ランキング500位以内程度で、人事担当者はこうしたランキングや海外のメディアを評価基準の一つとします。

ちなみにランキングの特性上、日本の大学で100位以内にランクインしているのが東大京大のみで、500位までにランクインしているのはその他旧帝大または医学部となります。これを上位1,000位まで広げても、日本の大学からランクインしているのは地方国公立大+早慶となります。

加えてドイツの採用担当者は、大学名だけでなく大学時代の評価を重要視します(場合によっては、大学名にはほとんど目をくれず、成績を最優先する会社もあり)。ドイツ語では「Notendurchschnitt(大学成績表)」と呼ばれるもので、日本のGPAに相当しますが、専攻分野でこの値が2.0以下だと足切りを行う企業が少なくありません(GPA換算で3以下)。

ベネッセ教育総合研究所のデータによると、GPA換算で3以上の成績を収めている日本の大学生の数はおおよそ全体の35%となり、おおよそ学力上位3割相当の学生のみが、ドイツ企業に応募するスタート地点に立てることを意味します。

逆に言うと、ドイツの人事採用担当者にとって、大学生活を通じて重要なのはこの「成績」だけで、他の部活やアルバイトの経験は一切問いません。加えて、論文の掲載歴や、大学生時代のインターンの経験など、あくまで自身の専門の延長線上にある成果がそのまま企業の評価に繋がります。

難易度ポイント2

  • 旧帝大+早慶相当の学歴で、上位3割の成績
  • 部活、バイトの経験による加点はゼロ

ドイツ就職難易度は日本で言うところの超難関企業レベル?

資格力と学力という2つの切り口を元に、ある程度ドイツ企業就職の難易度が見えてきました。資格ベースでは社労士レベルの難関レベルを2つ保有し、かつ学歴ベースで言えば旧帝大+早慶辺りの上位成績者であることが、応募者面談に進めるスタート地点となります。逆に、体育会部活等の実績は不要です。

これを四季報の発行する「入社が難しい企業」ランキングの計算方式に当てはめて考えると、ドイツの一般企業に内定する難しさは、日本の就活難易度ランキングで1位~20位くらいの立ち位置、日系企業で言えば三菱商事、日本郵船、テレビ朝日レベルの値になるのではと予測されます。

また給与水準が、この就職難易度の基準にある程度の裏打ちをもたらします。

以前のコラムで掲載したように、ドイツにおける全社会人の平均給与は日本円換算で約700万円程度です。これはあくまで1-50人規模の中小企業等も含む値であり、500-1,000人規模のいわゆる「大企業」に限ると平均は60,400EURで年収750万円相当、1,000人以上の「超大型企業」であれば68,400EURで年収850万円相当となり、この値は日本のトップ銘柄のCore30の平均年収水準に相当します。

[ドイツ給料事情] 日本からドイツに就職・転職した際の年収は?

このように、選考要件的にも年収の相場的にも、ドイツの大企業への就職は、日本の超大手就職同等かそれ以上の難易度があると言って過言ではないでしょう。

年収相場
1,000万円以上
日本超難関企業 ≒ ドイツ有名企業

800万円以上
日本Core30企業 ≒ ドイツ1,000人規模以上の企業

700万円以上
日本Core30企業~Large70企業 ≒ ドイツ500~1,000人規模企業

ドイツ就職は日本人にとって不可能ではない?

このように、ドイツの1,000人規模以上の企業への就職は、日本の超難関企業への就職と変わらないか、むしろそれ以上の難易度があることが示されました。

無論これは統計上の数字から読み取られた推測値のため、上述の通り状況や環境によって大きく変化することがありますが、日本人のドイツ内定難易度を占うための試金石にはなりそうです。

それでは、日本人にとってドイツ就職は難易度が高いため、リスクの高く避けるべき道なのでしょうか?

実際には、日本人のドイツ就職にはいくつものルートが存在しています。一つには、上記の難易度はあくまで何のつてもなくWEB上から企業に応募した時の話であり、実際にはドイツ企業は「ポジションごと」の応募をし、場合によっては人づてに日本人を積極的に採用することがあります。具体的には、LinkedInやXingのような就活系SNSがその方法です。

また、当社がドイツで積極的に採用の取り組みをしているのはドイツに拠点を持つ日系企業であることが多く、上記の学歴、語学の要件を必ずしも満たさなくとも、日系企業での就労経験や実績があれば、ポジションを優先的に見繕うことが可能です。このような日系企業で経験を積むことも、重要な一歩となり得るかもしれません。

一見して難易度の高く、夢物語のようなドイツ就職ですが、このように就職市場に対するきちんとした準備と理解さえあれば、ドイツで就職することが十分に可能になります。

Reference