工業力に自信のあるドイツ、ITに力をいれるアイルランド、仕事環境で絶大的なアドバンテージを誇るオランダ・・。その賃金水準と移民への寛容さから、ヨーロッパの労働市場はアラブ、アジア、中南米の留学生や技術者の受け皿として人気を博しています。
そんな、いわば全世界の「移民希望者」の羨望の的であるヨーロッパですが、留学や就職の際には受け皿となる大学・企業も厳しく選考を行うため、一筋縄ではいきません。
今回は、ヨーロッパの採用担当者が、日本人の応募・面接の際に特に注力してチェックしている項目を5つ紹介いたします。
語学力は堪能であるか
ヨーロッパ就職を志す日本人応募者は、何らかの外国語の素養があるケースが少なくありません。「大学時代にドイツ語を専攻した」「昔イタリアに留学していた」「親の都合で小さい時にイギリスに住んでいた」等々。
こういった語学のスキルは、外国人応募者がヨーロッパ就職する上で採用担当者がまず真っ先にチェックするポイントの一つです。
一般的に言われているのが、現地語(例:ドイツであればドイツ語)、英語双方でC1レベルのスキルがあれば、ヨーロッパの採用側の求める語学の基準はクリアしているとみなされます。企業によっては、現地語のみC1(B2)、英語のみC1(B2)でもOKな会社がありますが、ヨーロッパの就活市場である程度広く選択肢を持って就活を進めたい場合、現地語、英語ともに堪能であることが求められます。
この語学力に関する要件は、特に現地のヨーロッパ企業ではシビアである一方で、在独の日系企業などでは英語+日本語、ドイツ語+日本語、などでも受け入れられることがあり、日本人応募者の受け皿として人気です。
例えば、下図はドイツの日系企業に就職した人のドイツ語レベルの内訳です。
ただし注意しなくてはいけないのが、第二言語、第三言語といった語学的素養は、日本ではアドバンテージになりますが、ヨーロッパではあくまでクリアしていて当たり前の「スタート地点」と見なされるという点です。
そのため「英語と現地語が話せる、なので現地の企業に入れる」というわけではなく、あくまで人事部の足切りをパスする水準に達した、くらいの感覚でいるとよいでしょう。
専門性があるか
上述のように、「語学に堪能である」というのはいわばスタート地点に立ったに過ぎず、実際に現地の応募者に混じって内定を獲得するためには、プラスアルファで専門性が求められてきます。
営業、エンジニアリング、IT、医療、貿易など、分野は何であれ、とかく語学力にプラスアルファで人事に伝えられる専門性があると、ドイツの人事部は高評価を下します。
重要なのは、「〇〇ができる」といった専門性よりも、「〇〇をした」という、その専門性を活かしてどのような実績を積んできたのかという点です。そのため、単に「大学で〇〇を専攻していました、理論的な知識はばっちりです」と語っても、人事には中々刺さりづらい部分があり、願わくば何らかの実績とセットでアピールすることをお勧めします。
- 大学での専攻は経済学部、専門性はバンキングです。銀行コンサルを行い、顧客の売り上げを1.5倍に増やしました
- 大学での専攻は商学部、専門性は貿易実務です。最終的には10人規模のチームを束ね、日欧貿易に関しては年間1000以上の取引をコントロールしてきました
こうした、実績に裏打ちされた専門性というものを、ヨーロッパの採用担当者は非常に好みます。
長期的にヨーロッパに滞在する意思があるか
上述の語学や専門性は「ハードスキル」と呼ばれるものですが、ヨーロッパ企業においてはソフトスキルも重要です。ジョブホッピングが浸透している欧米文化にあっても、やはり人事部は会社に長くいてくれる人材を求めがちです。
人事部にとって、新規採用はいわば投資と同じ意味を持ち、やはり時間とお金をかけて教育する必要がある以上、1年や2年でさっさと辞められては困るからです。
そのため、人事部は直接的質問によって(あるいは間接的に)、応募者が将来ヨーロッパにずっと住む意思があるのかを探ろうとします。
採用担当者から聞かれること | 採用担当者の真意 |
貴方に答える義務はないけど、もしよければ聞かせてくれる?ご家族は貴方がヨーロッパで就職することについてなんて言っているの?兄弟はいる? | 一人っ子だと両親が心配して、この応募者は早く国に帰るんじゃないかな? |
貴方に答える義務はないけど、貴方の恋人はどこの国の人なのかな?もちろん、答える義務はないよ | 恋人はヨーロッパ人だと、こいつは十分ヨーロッパで住んでいく理由があるな。 |
答える義務がないのは、こうしたプライベートに突っ込んだ質問(他には、「妊娠の予定はあるの?」といった類の質問)はドイツ等では基本的にNGとされているからで、人事部はそこに対して予防線を張ります。なので、人事部はあくまで世間話の延長線上として、「もしよかったら教えてくれるかな」程度のニュアンスを醸し出すのです。
別に嘘をつく必要はありませんが、一見世間話に見えるやり取りにも、このような人事部による水面下の意図が隠されていることを知っておきましょう。
海外に住んだ経験があるか
マストではありませんが、ヨーロッパ就職する上で、海外に住んだ(願わくば、海外で働いた)経験があるかどうかは、将来的に企業で上手くやっていけるかを占う一つの試金石となります。
というのも、例えば40歳を超えて初めて日本を離れドイツにやってくる場合と、20代でドイツに住んだことのある人との場合を比較すると、やはり後者のほうが異文化に対して柔軟と見なされやすく、文化的な軋轢や障壁が生まれにくいとされています。
転職は、日本国内で行うにしても一定レベルのストレスを伴います。人は、やはり慣れ親しんだやり方を離れるとストレスを感じやすい動物のため、ことさらそれに、「海外移住」という条件が加わると、転職とのダブルパンチで仕事どころではなく疲弊してしまうことが少なくありません。
海外駐在、海外転職を始めた人間の約3割が、年内に自分の予期しない形で契約を満了せず母国に帰国する、と言われています。こうしたお互いにとっての不幸を避けるために、やはり事前に海外に住んだ経験があるのかは、人事の知っておきたいポイントとなるわけです。
会社と馬が合うかどうか
企業による採用は、近年「人材争奪戦(Talent War)」と揶揄されています。マルチリンガル、高学歴人材、エンジニアや特殊分野の専門家は、母数が少ないにも関わらず多くの企業に求められ、そのためプロ野球のFA争奪戦のような様相を呈しています。
こうした年々激しさを増す専門人材への争奪戦争を避けるため、企業は他社と同じ土俵(給与、待遇面)ではなく、自社にしかない文化の強みを生かして採用を行うようになってきています。
人事マネジメントの分野で提唱されているPO (Person-Organization) Fit Theoryは、その企業とその内部に残る人間は、似たような傾向を擁する、という理論で、のちのTalent Management理論やGlobal Talent Management理論に活かされてきました。
例えば、Googleに入りマネージャーとなる人間と、トヨタに入りマネージャーとなる人間とでは、ソフト面で求められる性格が異なってきます。Googleが公言する、Googler(Googleに入社してほしい人間)の条件とは斬新なアイデアを生み出せる人間で、他社のそれとは一線を画しています。
こうした「社風」につられて集まる人間は、自然と会社にいる人間と近い性格を持つ場合が多くなり、まるで大学のサークルのように、「居心地の良い」社風が醸成されるようになるのです。
そのため、近年人事マネジメントを研究する人事採用部は、個人のハードスキル、ソフトスキルだけでなく、現在の社風に沿っているかというポイントもしっかりと見極めます。そのマッチングが悪ければ、いくらスキルが優れていても、短期間で辞めてしまう傾向があるからです。