フリーランサー(Freiberuflich/Selbständig)としてすでにドイツで活動している方で、 次のステップとして企業への再就職を考えるというケースは、実は少なくありません。フリーランサーとして働かれている以上、すでにフリーランスビザはお持ちのはずですが、実際に企業に就職していわゆるサラリーマン(Angestellte)になる場合は、『就労ビザ』の取得がマストとなります。
ドイツ生活が慣れた人でも、ビザの取得や初めての手続きは一筋縄ではいかないものです。
また、就職先が日系企業の場合ビザ取得に協力してくれる可能性もゼロではないですが、現地採用として就職する日本人は、基本的に自分の力で労働ビザを取得すると考えておいた方がよいでしょう。
そこで今回の記事では、『フリーランサービザ(Aufenthaltserlaubnis für eine Arbeit als Selbständiger)』から就労ビザへ変更する際の手続きと留意点の一部始終を解説していきます。
加入済みの各保険組合への連絡の必要性
フリーランスの立場から就職し、ビザの種類が変わるにあたり、すでに加入している各保険機関へ個人的に連絡する必要はありません。企業に就職するということは、各保険の支払いを被用者側と雇用主側の双方で負担することになり、各変更手続きは雇用主側の仕事となります。ここで言う各保険とは、ドイツの社会保障制度によって定められている以下の4つです。
- 健康保険(Krankenversicherung)
- 年金保険(Rentenversicherung)
- 介護保険(Pflegeversicherung)
- 失業保険(Arbeitslosenversicherung)
フリーランスで働いている方は、ご自身、もしくは税理士に委託して確定申告(Steuererklärung)を毎年行われているケースがほとんどですが、いずれにせよ健康保険・年金保険・介護保険・失業保険は自身で支払ってるため、基本的に全て自分が主体となり手続き関係を済ませる必要があります。そういった面倒な作業は、就職すれば基本的に企業側がこなしてくれるため、個人の負担は大幅に軽減されます。
ただし、例外もありますので、次の項目で詳しく解説します。
例外1:芸術家社会保険に解約告知を必要とする場合
音楽家や芸術家など『アーティスト(Künstler)』として活躍されている方は、芸術家社会保険組合(Künstler Sozialkasse)に属しているケースが多くなります。
この保険制度は、芸術家および通訳・翻訳を対象とした保険サポート制度です。各社会保険をフリーランサーが個人で負担すると非常に高額になり、多くの場合ハードルが高すぎます。そこで同組合に所属することで、半額を組合が負担してくれるという仕組みです。こちらに所属されているアーティストの方が再就職する場合は、芸術家社会保険組合に解約を告知する必要があります。
例外2:税理士(Steuerberater)に相談を必要とする場合
フリーランスであれば毎年行わなければならない確定申告ですが、税理士に委託している人も多いはずです。
そういった場合は、就職する旨を必ず担当の税理士に報告する必要がでてきます。例えば就職に際し引っ越しをしなければならない場合、新しい住所に確定申告の書類が送付されなければプロセスが遅延してしまいます。また、管轄の税務署が変わる可能性もありますので、税理士が署にコンタクトする際にスムーズに処理が進みません。引っ越しの日程と引っ越し先住所を正確に伝えましょう。
例外3:税務署に住居変更の告知を必要とする場合
転職に伴い新天地への引っ越しが強いられる場合、今まで通っていた税務署ではなく新しく住民登録した住所が該当する管轄に移動されます。つまり、確定申告を行い税金を納める場所も変わってくるのです。
例)フリーランサーとしての活動が2020年3月31日までで、入社日が2020年4月1日からだが、勤務先が別の都市であるため、2月中に引っ越し、3月中は引っ越し先からホームオフィスで仕事をした。
通常フリーランサーは、Elsterというソフトで毎月、売上税事前オンライン申告(Umsatzsteuer-Voranmeldung)を行い、予め売上税を支払う義務があります。この場合は、3月末まで従来通り引っ越し前の税務署へ申告及び支払いを行います。そして翌年の確定申告は引っ越し先の税務署とやり取りします。ただし、支払いが重複しないためにも、両方の税務署へきちんと報告する必要があるのです。
参考までに、フリーランサーが確定申告で提出している申告は以下の3つです。
- 利益申告(Gewinnermittlung)
- 収入税申告(Einkommensteuererklärung)
- 売上税申告(Umsatzsteuererklärung)
税理士に委託している場合は、細かな書類作成と申告は代理してくれるため、自身でしなければならないのは、各申告が正しいということの確認とサインだけです。
切り替えの時期によって異なる留意点
企業に就職すると納税や申告といった作業が自分の手から離れ、非常に楽になります。一方で、毎月必ずこなしていたはずの作業の記憶も素早く薄れ、やり方を忘れてしまったり、翌年の申告時に、書類を引き出しの中に溜まった紙の山から何時間もかけて探し出し、最終的には見つからないなんてことも十分ありえます。
特に上記の例のように年始に自身の状況が変化した場合、申告は翌年の3月です。ですので、仕事で発生した出費、インボイス、ビザ関係の書類などは必ず整理して分かりやすく保管しておきましょう。できればスキャンして、PDFとしてパソコンに保存しておけば安心です。フリーで活動されていた方ならば当たり前と思われてしまうかもしれませんが、非常に大切なことです。
就労ビザの取得方法
就労ビザ前に皆さんがお持ちの滞在許可証の種類は多様ですが、どの種類のビザからでも就労ビザ取得の道は一本だけです。
ビザなし、学生ビザ、ワーキングホリデービザ、フリーランスビザの方も、用意する書類は基本的には同じです。詳しくはこちらの記事「ドイツの大学を卒業後、学生ビザを労働ビザに更改するためのプロセス」をご覧ください。
一つ注意しなければならないのは、就労ビザを取得する際に、フリーランスビザには「無効(Ungültig)」のスタンプが押されるため、その瞬間からフリーランサーとしての活動はできなくなります。