ドイツに来てから就職活動を始める場合、前回のコラムでも解説したように、現在の仕事や学業を中断するリスクが伴ううえ、ビザや書類手続きもすべて自前で行う必要があります。
特にゼロから渡航準備を始めるとき、どこから手を付けてよいのか分からないことも多く、また実際に就職に必要となる書類の情報も不足しています。
ドイツに渡ってから就職活動を始める場合、どのような事前準備が必要となるのか、今回のコラムでは就活に役立つビザの種類、渡航前の持ち物の準備などを中心に解説していきます。
就活を前提としたドイツ渡航準備に必要な3つのこと
就職活動を前提としてドイツに渡航する場合、最低限、渡航前に以下の3つを明確にしておく必要があります。
- ビザの選定
- 住居の確保
- 持ち物(必要書類等)
これら3つの項目は互いに関係しあっており、例えばドイツにアドレスがないとビザの申請がおこなえないため、住居の確保とビザ手続きは不可分です。
それぞれの準備においてどんな選択肢があるのか、どんな点に注意しなくてはいけないかについて、以下見ていきたいと思います。
ビザの選定
ドイツに3ヵ月以上滞在する場合、ビザの申請が必要になります。この、ドイツへの3ヵ月以上の滞在を目的としたビザのことを「長期滞在ビザ」と呼び、このビザはドイツ国内に滞在するための許可証です。
すなわち、ビザに定められた期間内、ドイツに滞在し、好きに就活をしてよい、という滞在許可を得るという意味になり、「労働を許可する」という意味ではないので注意しなくてはいけません(ワーキング・ホリデービザを除く)。正式に仕事・雇用主が決まったら、実際に「ドイツで労働してよい」という意味の「労働許可証」を再度申請する必要があります。
この長期滞在ビザにはいくつか種類があり、それぞれ以下のようなメリット・デメリットがあります。
以下、それぞれのビザの特徴を解説していきます。
ワーキングホリデー・ビザ
日本国籍を有する就職活動者にとって、ドイツに就活目的で滞在するもっともシンプルな方法が、ワーキングホリデー・ビザの取得です(ドイツ総領事館情報:ワーキングホリデービザ)。
ドイツ総領事館のWebサイトから閲覧可能なように、ワーキング・ホリデービザを申請する場合、以下の要件を満たす必要がありますが、定員などはないため要件さえ満たせば誰でも取得可能です。
- 日本国籍を有していること
- 18歳以上であり、申請時に31歳に達していないこと
- 親族(子供など)が同行することはできない
後述する学生ビザとの違いは、このビザを持っているとドイツでの労働が可能になる点で、数あるビザの中で就活者には最も適したものであると言えます。
ただ、欠点として、申請時に31歳に達していないことが条件になるため(31歳の誕生日を迎えるまで申請可能)、それ以上の年齢に達している場合、他のやり方でビザを申請する必要があります。
学生ビザ・語学研修ビザ
交換留学、ドイツの大学への正規留学、語学学校への留学などを目的にドイツに滞在する場合、語学研修ビザ・学生ビザなどが有効です。
前回の記事でも紹介したように、特にドイツでの就職を考える場合、ドイツ語・英語レベルでB2~C1を達成する必要があり、これに満たない場合は渡航後に語学学校などで下準備を行い、その間に就職活動を行うという手段もたびたび取られます。
この場合、ワーキングホリデービザと違って年齢制限はありませんが、滞在期限が大学・語学学校を卒業するまでの期間に限定されてしまう点と、あくまで滞在許可証であって労働許可証ではないため、正式に仕事をすることができない弱味があります(ドイツ領事館情報:学生ビザ)。
配偶者ビザ
ドイツ人(またはEU市民権を持つ)配偶者を持つ場合、配偶者ビザでのドイツ滞在が可能です。配偶者ビザでの滞在で、かつ配偶者がEUで仕事を持っている場合、基本的には配偶者にも仕事の許可を与えられます。
ただし、あくまで労働の可否はビザ申請時の外人局の判断に委ねられるため、実際にはその都度外人局に問い合わせる必要があります。
ドイツ領事館情報:配偶者ビザ)。
住居の確保
ドイツでのビザ申請と平行して(あるいはそれ以前に)、ドイツでの正式な住所を取得する必要があります。これはビザ書類や銀行口座と紐づくため、ドイツ居住に欠かせないうえ、就職活動に際しても必須です。
日本のように不動産会社が仲介する方法と違い、ドイツの場合インターネットや掲示板などで大家と直接交渉することが通例です。
その際、大家側は入居者を以下のようなポイントで判断し、家を貸すかどうかの判断を行います。同様に、フラットシェアの場合も同居人による審査があり、同様のポイントが勘案されます。
- 人となり(信頼できる人か)
- 社会的ステータス(家賃の滞納をしないかどうか)
- 語学力(コミュニケーションがとれるかどうか)
ドイツ歴が長くドイツで就労していて安定した収入があれば早く部屋が決まりますし、ドイツ歴が浅く就活生という身分の場合、自力での家探しは難渋する傾向にあります。
そのため、最初のうちは語学学校の紹介するホームステイなどを利用し、ドイツでの生活(ごみの分別、ドイツ語での会話)などに慣れてきてから、実際に一人暮らしする家を探す、という手段もたびたび講じられます。

持ち物の準備
以前掲載したドイツ就活で求められることの多い必要書類まとめの記事で紹介したように、ドイツでの就活に当たっては、日本では必要とされないような書類も時に必要になってきます。以下のような書類は、日本で揃えておいて渡航時にまとめて持っていくと、日本から再度取り寄せる手間が省けます。
- 大学の卒業証明書 (Abschlusszeugnisse)
- 大学の成績証明書
- 高校の成績・卒業証明書 (Schulzeugnisse)
- 過去の職場の在社証明書等 (Arbeitszeugnisse)
- インターンの証明書 (Praktikumszeugnisse)
- 語学の成績証明書 (Sprachzeugnisse)
- 運転免許証 (Führerschein)
またこうした書類は、基本的にドイツ語または英語での提出が求められます。そのため、原本が日本語のみの場合、公的文書の翻訳の資格を持った翻訳会社や弁護士などに依頼し、ドイツ語・英語に翻訳しなおしておく必要があります(ドイツ渡航後も翻訳可能)。
運転免許証に関しては、ドイツに長期滞在する場合、日本の運転免許証をドイツのものに書き換えることが可能です。
こうした書類以外にも、就活の場合スーツ、時計、革靴など、最低限日本の社会人にとっても必要とされてきたドレスコードをドイツ渡航時に持参することをお勧めします。特にドイツの場合、日本人と体格が異なるため、必ずしも自分にあったスーツ類が手に入るとは限りません(参照:ドイツ就活時に求められる服装)。
ドイツ渡航後によくあるトラブル
上述の3項目、「ビザ」「住居」「持ち物」の準備を万端にしてドイツに来ることは、渡独後の様々なトラブルを未然に防ぐことに役立ちます。
3項目のうち、特に住居探しはビザや保険と密接に関わってくるため、ここで躓くとその先の様々なステップに支障をきたすことがあり、注意が必要です。
日本からだとアパートを探すのが難しかったので、ドイツに来て最初は民泊住まいをしてからビザを取得しようと思ったけど、正式な住所でないのでビザの申し込みができず、ビザ取得期限3ヵ月ギリギリになってしまう、ということがありました(ドイツ就活者)
オンラインでフラットを申し込んだけれど、いざ入居してみると、雨漏りもして入居者の柄も悪く、まったく居住に適した環境じゃなく1ヵ月で退出し、ペナルティを支払うことになりました。前もっての住居の確認は、やはり必要だと思います(ドイツ就活者)
こうしたトラブルを回避するためには、できる限りドイツ人の友人や、ドイツ在住の日本人のつてなどを利用し、代理人による下見など現場の情報収集をすることが重要です。
こうした準備が整ったら、いよいよドイツ渡航です。次回のコラムでは、ドイツ渡航前・渡航後に役所などで行う事務手続きについてまとめていきます。




