ひと昔前までドイツ留学はドイツ語専攻者の専売特許でしたが、ドイツの大学・大学院も海外の優秀な人材を確保するために英語でのカリキュラムを多く用意するようになり、ドイツ語と縁のなかった日本人にも門戸が開かれ始めています。

今回の記事では、日本人留学者に人気の「ドイツの大学の社会学」を専攻した際に、勉強できる内容、およびその知識を活かしやすい職種や領域についてまとめていきたいと思います。

社会学部とは

社会学(Soziologie)とは広義には体系的に社会構造やプロセスを記述し、理解しようとする学問的な試みのことで、ドイツでは基本的に「文系学部」に分類されています(ただし社会経済学部などは理系に分類)。一つの事象に対して多角的な分析が必要となり、難民の発生などを例にとると、その原因と帰結、社会や経済にもたらす影響とそのための対策などが社会学の守備範囲になってくるため、社会学部の学生は政治学、経済学、経営学、心理学、統計学など広範な知識を身につける必要があります。

他にも「気候変動がドイツのビジネス構造にもたらす変化」「ソーシャルゲームに対する国ごとに異なる態度」「各国の男女賃金格差とその要因」など、国の政策に関わるようなマクロ的分析から、会社のマーケティング施策に関わるような市場分析まで網羅されているため、後述の通り卒業後の進路も研究職からマーケティング部など多種多様です。

このように他学部との線引きが必ずしも定まっていないため、大学によっては「Sozio -Ökonomik(社会経済学)」「Soziologie&Politik(社会学・政治学部)」といった形で呼ばれていることもあり、それぞれの大学や学部によって得意とする分野が若干異なります。ドイツ国内で社会学を学べる大学は約50校ほどあり、ケルン大学のように英語で入学できる学部も用意されています。

https://www.youtube.com/watch?v=cvv_Bax9jIc&t=18s

社会学の学部で身につくこと

社会学は言語化されていない社会現象を科学的に分析し、数値や言語でもって体系立てて説明することを目的としています。そのため、政治的な部分に焦点を当てるのか、男女格差なのか、はたまた国ごとの文化差なのか、実際にどのようなテーマに重点を置くのかによって勉強できる内容は異なってきます。

一方で、どのようなテーマに焦点を当てようとも「サンプリング」「インタビュー」「統計論」「定性分析」「定量分析」といった方法論的な筋道は変わらず、自身の重点課題とは別に、これらの勉強に多くの時間を費やすことになります。

  • 定量・定性分析
  • 行動パターン分析
  • 異文化コミュニケーション論
  • データ収集・市場分析
  • 統計学、等々
Aさん(ドイツの社会学卒)

社会の動向に対する広範な知識が身につきました。特に、データを駆使して政治や経済の流れを知るという点では、経済学や政治学部と似ている部分があるのではないでしょうか。その分、文系、理系の枠組みを超えた様々な科目への準備が必要で、試験では苦労しましたが・・

フェリ

ドイツ人はとにかく理論好き。「なんとなく」といった感覚ではなく、どのような物事でも理論付けが求められるわ。その点では、大学の論文も、企業での取り組みも、根本的には似ていると言えるわね

社会学に向いている人

上述の通り、実際にどのようなテーマに重点を置くのかによって学べる分野は異なってきますが、社会学の根本命題は様々な社会問題への科学的アプローチです。そのため、様々な現代の社会問題(ジェンダー、貧困、難民、移民、等々)に対する興味・関心、といった部分が社会学の勉強にあたって重要なモチベーションとなることでしょう。

研究途中では、ヒトへのインタビューやアンケートを通じて一次データを収集することが多々あります。企業は勿論、医療施設、難民キャンプ、介護施設など多種多様な場所を訪問し、場合によってはインタビューをおこない、世に知られていない問題にスポットを当てることも少なくありません。ジャーナリストとしての気質が社会学にとって重要と言われる所以も、こうした部分にあります。

ドイツでは社会学は文系学部に分類されますが、統計的手法を用いた分析過程では数学的な素養を要することも多々あります。大学に入るときにこれらの知識をすべて身につけておく必要はありませんが、少なくとも複雑な数式を見てアレルギーを起こさない程度の数学的な素養はあったほうが良いでしょう。

  • 多様な社会問題への興味・関心
  • ヒトとのコミュニケーションが得意
  • ジャーナリスト的な気質を持ち、社会問題を提起できる
  • 分析・統計アプローチに必要な数学の素養
Bさん(ドイツの社会学部卒)

単に社会の動きに興味を持つだけでなく、それを発信したり、実際にビジネスに結び付けてソリューションを提起できる人材が向いていると思います。単に家に籠って社会学を勉強するだけなら誰でもできますが、データや理論を元に国や企業の政策に携わっていく、ダイナミックさが社会学の本懐ではないでしょうか

フェリ

まさしく、その点が一見ビジネスとは遠いところにある社会学部卒業生が、企業でも求められている理由ね。ただ講義を聞いてインプットするだけではなく、それを活かせる人間が会社では求められているわ

社会学の学部を卒業後のキャリア

さて、このように広範な社会問題を取り扱う社会学部ですが、卒業後の進路にはどのような職業が適しているのでしょうか?ドイツは学生時代の専攻と卒業後の職業が似た分野であることが強く好まれるため、基本的には大学時代に勉強した「社会学の知識」を実践できる職場が適切だとされています。具体的には、以下のような職種です。

  • 人材開発・人事系
  • 広告・ジャーナル系
  • 政府機関や大学の研究室
  • マーケティング部

経営学部や法学部のように、大学で学んだ学問がそっくりそのまま現実のビジネス社会で活かせるというよりも、研究過程で学んだ方法論を応用する、という側面を持ちます。そのため、どのような職種に就くかは自身の研究テーマやアウトプットに左右されることでしょう。

最も、ドイツ(ヨーロッパ)の大学で社会学を専攻した学生は、ドイツの日系企業から好んで採用される傾向にあります。日独の文化差といった潜在的な問題を言語化し、組織の改善に努めたり、ドイツやヨーロッパ市場の分析に役立てるなど、社会学で身についた方法論はドイツの文化を欲する日系企業では最大限に活用することが可能でしょう。