海外で就職するとなると、言葉の違いは勿論、商慣習や現地の労働法にも注意しなくてはいけません。ドイツの就職システムの特徴として「試用期間」が挙げられます。この試用期間、後述のとおりドイツで正規雇用されるには避けて通れない道となっており、その分上司や同僚も厳しく新入社員を判定してきます。
今回は、ドイツでの就職を語るうえで避けては通れない「試用期間」の概要と、日本人が長期契約を勝ち取るために注意しなくてはいけないことなどについて解説をおこないます。
Probezeit(試用期間)とは?
Probezeitはドイツ語圏の会社で通念化している労働文化の一つで、日本語では「試用期間」の名前で知られる、長期雇用契約を締結する前に従業員の態度や素質を見極めるために設けられた期間のことです。
試用期間の設定は(一部の職業訓練などを除き)労働法によって必ずしも義務付けられている訳ではありません。そのため、極端なことをいえば「試用期間無し」といった雇用形態も双方の合意によっては可能ではありますが、ドイツ社会の暗黙の了解として、通例、雇用者、および従業員は通常3~6ヶ月程度の試用期間を受け入れる流れとなっています。もっとも、民法622条によって「試用期間は最長6ヶ月」と明記されていることから、試用期間を設定する場合は6ヶ月を越えることはできません。
このように、本格的な長期雇用契約前のテストという性質を持つ期間のため、後述の通り「雇用者側が従業員側を解雇しやすい」状況にあり、長期契約書で守られた従業員と比較すると雇用が不安定な状況と言わざるを得ないでしょう。そのため、従業員側はトラブルを起こさないことは勿論のこと、会社にとって「有用な人材」と認められるためのパフォーマンスを一定期間内に残す必要があり、精神的負荷を感じるケースが多く見受けられます。
こうやって聞くと、自分にはこの試用期間乗り切れる気がしないな・・
企業側もわざわざ落とすために採用はしないので、そんなに怯える必要はないわね。ただ、普通の社員であれば大目に見てもらえるようなミスも致命的になることがあるので、普通の雇用形態の時よりも慎重になることをお勧めするわ
試用期間中の給料
試用期間中の給料と試用期間終了後の給料に差をつけるかどうかは、個々の労働契約書によって異なりますが、一般的にに変化がつくことは多くありません。すなわち、試用期間と言えども労働契約に則って通常の業務をおこなう以上、給料の多寡に影響を及ぼすことは基本的にはないという状況です。
もっとも、試用期間中の給料をあらかじめ低く設定しておいて試用期間後に給料を一般水準に戻したり、試用期間後に改めて給与交渉を行って給与の値上げに応じるか(一般的ではないが)は、個々の雇用者と従業員の取り決めに従うべき部分であり、ケースバイケースと解釈すべきでしょう。
試用期間中の休暇
ドイツの休暇法第4条には「入社後半年を経過して初めて全休暇を取得することが可能である」と書かれています。この一文は、度々誤解を招きますが、「入社して半年は有給休暇を一切取得できない」わけではなく、「全休暇分を取得することができない」という意味合いで、その労働月までの有給日数までしか消化できない、と解釈できます。
最も、現実問題として使用期間中は自身のパフォーマンスを上職に厳しく判断される時期でもあることから、あまり入社したてのこの時期にまとめて有給休暇を使用する社員が少ない、というのが実際の状況です。ワークライフバランスに優れたドイツ社会と言え、限られた期間内に成果を残さなくてはクビを切られる可能性のあるインターンシップ期間や試用期間に大胆に休暇取得をする、というのはドイツ人でもやはり躊躇するようです。
ドイツ人って契約書に書いてある権利はなんでも行使するのかと思ったけど、割としおらしくするんだね
インターンのときと、試用期間のとき、どうしても労働者の立場の弱いこれらの時期にはドイツ人従業員は特に真面目に働くわね。もっとも、ヒトによりけりだけれども
試用期間と解雇の関係
試用期間中は、上述の通り従業員に対する労働法の縛りが緩い時期であり(妊婦など特定条件を除く)、労働者の権利が厳格に守られる長期契約締結後と違い、雇用主側は比較的容易に解雇通知を行うことが可能です。そのため、試用期間中の雇用関係の解消割合は高く、全体の約2割に該当する雇用がこの試用期間中に解消されていると言われています。
通常解雇のケース
試用期間中は、長期契約中には必要となる雇用者による「解雇理由」が不要となり、解雇のハードルが下がることが特徴です。そのため極端な例では、従業員は自身が解雇された理由さえ知らずに解雇されることも起こりえますが、一般的に企業側も「試用期間後の長期契約」を前提に試用期間を設けているため、パフォーマンスや素行に問題がある場合には可能な限り事前に注意喚起をおこないます。
以下は、「2週間前の解雇通知」のルールが適用される、試用期間内におこりうる通常解雇理由の一例です。
個人的理由
- 病気やケガによる長期療養
- ビザやパスポートの失効、労働許可の未取得など
素行的理由
- 未許可の副業行為
- 度重なる遅刻や無断欠勤
- 仕事のボイコット
- 同僚へのイジメや嫌がらせ
- 業務中の居眠り
業務上の理由
- 部門や工場の閉鎖
- 受注量やマーケットの縮小
- リストラや生産の合理化
上記のような一般的な理由による解雇は長期雇用中にも発生し得ますが、試用期間中には特別に「従業員のパフォーマンス不足」による解雇が多々挙げられます。つまり、採用前に期待した通りのパフォーマンスが見込めなかったり、言語能力が乏しく意思疎通が難しかったりと、本人のスキルや資質による理由による解雇です。こうした事由による解雇は長期契約締結後には難しくなりますが、試用期間中には比較的容易におこなうことができます。
臨時解雇のケース
上述のような一般的な解雇理由とは別に、事前解雇通告無しに即座に解雇することのできる「臨時解雇」のケースも中には存在します。当該従業員が会社にいることで重要な問題が生じるなど、一刻の予断も許さないような以下の場合に適用されます。
- 窃盗や暴力など犯罪行為
- 度を越えた侮辱やセクハラ行為
- 産業スパイ行為
- データの改竄等
もっとも、これらの解雇は試用期間であろうと長期契約中であろうと起こりうることであり、上述の一般理由と異なり、自ら不正をおこなわないように慎んでいれば発生しえない事態です。
パフォーマンス上の解雇ではなく、素行上の問題は自助努力でいくらでも対処できるね
その通り。人事担当者も鬼ではないので、基本的には採用した人材を活かしたいのよ。なので、無意味にたてついたり、トラブルを起こさないことがお互いのためにとって一番ね。解雇のテーマについて詳しく知りたかったら「ドイツでは簡単にクビにできない?日本人がクビになる理由とは」の記事も参照してみてね
日本人が試用期間を生き延びるためには?
さて、最後にドイツの会社に就職した日本人にとって最大の難関であるこの「試用期間」をどう乗り切るのかについてです。
当たり前ですが、上述の通り社内での故意のトラブルや犯罪行為は情状酌量の余地なく解雇となります。加えて、遅刻や長いランチ時間など、長期契約社員であれば大目に見てもらえるような減点行為も試用期間内では致命的になることがあるので、品行方正に努めるべきでしょう。
これら素行面の問題に加え、試用期間における解雇は、事前の情報と実際のパフォーマンスが乖離することによって度々引き起こされるため、やはり事前の業務内容の確認、面接時に正直に自身の経験やスキルについて話すなど、真摯な情報共有は重要なウエイトを占めるところです。
また、業務内容や社内プロセスに日本と大きな差のあるドイツ企業より、ドイツに進出している日系企業のほうが、日本人にとって馴染みやすく、経歴にキズのつく「試用期間中の解雇」といった事態は避けやすい傾向にあります。こういった現地日系企業は、ドイツで活躍する優秀な日本人の採用受け皿として広く浸透しており、当社のような現地リクルーターを介しての就職が可能です。