2019-2020年に発生した世界的なパンデミックは、ドイツにおける就業習慣を様変わりさせました。かつては一部社員の例外的措置であった在宅ワークが、パンデミックを期に「社員の当然の権利」のように見なされるようになり、2024年現在ではドイツ社会全体の約半分のサラリーマンが、日常的に在宅ワークを活用して働いているとされています。
ドイツのリモートワークの現状
ドイツ社会におけるリモートワーク(在宅ワーク)は、既に仕事文化の一つとして定着したと言えます。
コンサルティング会社PWC Germanyの調査によると、パンデミック発生直後の在宅ワークでは企業や社員の「生産性の低さ」が目立ち、リモートワークの積極的な導入に難色を示す企業も少なくありませんでしたが、2023年の調査では「在宅ワークは生産的」と答える層が「非生産的」と答える層を上回りました。
これは、在宅ワーク黎明期に多く見られた「自宅で集中できない」「データへのアクセスやWi-Fi環境」「同僚との情報共有」といった部分が企業・個人の努力によって改善されていったことの表れであるとされています。
元々「家族との時間を大事にする」という性質を持つドイツ人にとって、リモートワークは願ったりかなったりの習慣だったのかもしれません。こうした国民的性質と、パンデミックによって必要性に迫られた企業・個人努力が少しずつ影響し、パンデミック後もリモートワークはドイツの仕事文化として定着したのです。

また、世相を示すように、39歳までのドイツの若者を対象とした「リモートワークを会社が認めているかどうかは就職先選びに影響を与えるか」、という同社の調査では、実に全体の「39%」が「決定的」と、「43%」が「決定的とまではいかないが重要」と回答しています。
そのため、ドイツの就職ポータルサイトも「リモートワーク」が可能か否かをフィルター要素の一つとして加えています。
ドイツのリモートワーク求人数
もっとも、実際にどの求人がリモートワークを認めているかどうかは、「企業のロケーション」や「職種」によって異なります。ドイツ社会がリモートワークに寛容とは言え、場合によってはリモートが推奨されていないものもあるので注意が必要です。
場所別のリモートワーク求人数
Stepstone社の公開求人(2024年4月現在)の内訳をみると、リモートワークを企業側が認めているかどうかの割合は、勤務地の立地に依存することが分かります。
勤務地別
求人数 | 部分的リモート | 完全リモート | |
全ドイツ | 160000 | 38000 | 800 |
ベルリン周辺 | 12300 | 4900 | 150 |
デュッセルドルフ周辺 | 11200 | 4200 | 100 |
ミュンヘン周辺 | 11200 | 5200 | 150 |
トリール周辺 | 700 | 50 | 0 |
通勤に時間のかかる都市部(ベルリン、デュッセルドルフ、ミュンヘン等)では特に求人数に対してリモートワークを認める率は高い傾向にありますが、地方や田舎部ではリモートワークを認める割合が極端に低い傾向となっています。
理由としては「都市部のドイツ企業よりも田舎部のドイツ企業のほうが保守的な傾向が多い」「都市部と比べ対面での作業を要する産業割合が多い」「そもそも通勤に時間がかからない地元企業に勤めている従業員が多く、必要が無い」などが挙げられます。
職種別のリモートワーク求人数
同様の切り口で、職種によってもリモートワークを認めているか否かの率に違いが出ることが分かります。
職種別
求人数 | 部分的リモート | 完全リモート | |
営業・営業アシスタント | 19300 | 4400 | 150 |
物流 | 13200 | 3000 | 50 |
IT | 12300 | 7550 | 300 |
マーケティング | 4000 | 2200 | 50 |
エンジニア | 16200 | 6750 | 200 |
ITやマーケティング等、パソコンでの作業割合の多い職種はリモートを認めている率が高い一方、顧客とのミーティングや実際の作業などが必要となる物流業務ではリモートを認めている求人率は低い傾向にあります。
ドイツのリモートワークの今後
上述の通り一度定着したドイツのリモートワークは、今後も仕事文化の一つとして広く受け入れられるとされています。私生活での恩恵に加え、効率を重視するドイツ人にとっては、やはり「通勤時間の短縮」や「遠隔地の顧客とのコミュニケーション」といった面での利益が大きいのでしょう。
ドイツに展開する日系企業もまた、こうしたドイツのリモートワーク文化の恩恵を受けていると言えるでしょう。日独の海を越えたコミュニケーションが、リモートワーク文化の発展によって円滑になり、出張や休暇、リロケーションの簡易化に繋がりました。
また、ドイツでの就職を目指す日本人も、このリモートワーク文化の恩恵にあずかっています。パンデミック以前のように「対面での面接」を経ることなく、オンラインでの就職面接が許容される文化となり、内定率にポジティブな影響を与えるようになりました。ドイツ企業や、ドイツに展開する日系企業の中にも、今までは距離的な制約で取り逃していた優秀な応募者のオンラインでの採用面接に力を注いでいる企業は増えつつあると言えるでしょう。