日本ではビジネス関連の学部というと、商学部、経営学部、経済学部あたりが頭に思い浮かぶのではないでしょうか?ドイツにも似たような分野を網羅した学部が設置されており、上述のカリキュラムをひっくるめたような専攻内容となっています。
今回は、ドイツで最も人気の高い学部の一つ「BWL学部」の特徴と、BWLを卒業した後の進路などに関して詳しく説明していきたいと思います。
BWLってなんかの頭文字かな。あまり日本では聞きなれないけど、どうやって発音するんだろう。
確かに初見だと発音が難しいわね。カタカナだと「ベーヴェーエル」みたいな発音になるわ。
BWL学部とは
ドイツ語でよく耳にするBWLとはBetriebswirtschaftslehreの略語で、日本語に直訳すると実践経済学、英語ではBusiness Administrationと訳されるため、日本の大学でいう商学部や経営学部に近いニュアンスの学問です。大学によって「Bachelor of Arts(文系)」「Bachelor of Science(理系)」に分かれ、また学部名や専攻内容もコースによって異なりを見せます。
男女問わずドイツ人の学生から最も人気の高い学部で、同じく人気の高い法学部や心理学部を抑えここ数年人気学部一位の座を死守しています。大学の知識がそのままビジネス世界で活かしやすい事から就職、昇給のチャンスにも恵まれることが大きな理由ですが、他にも、幅広い領域の学問を包括するため卒業後のキャリアが幅広く、将来のプランが定まっていないような学生の受け皿となることもあります。
平均中退率30%の中でBWL学部の中退率は20%前後と(参照:DZHW Brief)、卒業の難しいドイツの大学の中では「比較的」卒業が容易な部類にカテゴライズされますが(ちなみに、最も卒業が難しいとされる数学科の中退率は50%で推移)、上述のように入学の人気が高く、半数以上が高校(大学院であれば学部の時代)の成績によって足切りされています。
人気学部の一つなんだね、僕も応募しようかな。
日本でいうところの経営学部や商学部みたいなニュアンスだからね、やはりつぶしがききやすいというのが人気の理由の一つよ。ただし、日本の商学部同様計算や数字を扱うことが多いので、この辺が苦手な学生は注意が必要ね。
BWL学部で身に着くこと
上述の通り、大学やコースによってその履修内容は異なりますが、一般的なBWL学生(ドイツではBWLerと呼ばれる)は以下のような内容を在学中に修めることとなります。
- 会計学
- ファイナンス・バンキング
- 経営学
- サプライチェーンマネジメント
- 統計学
- 経済学(ミクロ・マクロ)
- 商法
- 貿易論
- 国際ビジネス
- 文化論
学部生のうちは、上記のような広く浅いビジネス知識を身に着け、大学院に進むとこれらのテーマからさらに深く知識を身に着けたいテーマに絞って研究をおこなう形です。ドイツの大学・大学院で学ぶ場合、基本的にドイツ内やEU内の商法や商慣習、税法に基づいた勉強になりますが、中には国際ビジネス、突き詰めると特定の地域や国に絞った(アメリカや中国等)ビジネスコースも存在しています。
仮にドイツの大学院でBWLを日本人が学ぶとしたら、日本の大学で商学部、経営学部、政治経済学部などビジネス一般に準じる学部を卒業していることが要件となることが多いでしょう。
え、そんな広範な分野を網羅するの?全部覚えきれないよ
学部にもよるけど、全ての分野を深く突き詰める必要はないわ。基本的にはビジネス一般に関する学問を押さえたら、あとは自分が深化させたい専攻を選んで、そこに勉強リソースを集中する感じね。
BWL学に向いている人
BWLは上述の通り、大学によっては理系に分類されます。文系にカテゴライズされている場合でも、統計学、会計、需要供給分析、といった複雑な計算式を要した理系寄りのカリキュラムが多いため、数学的な素養があるに越したことはないでしょう。
志向として、BWLを習熟する学生には将来ビジネス領域で成功を収めたいと考える人間が少なくありません。2022年、1500人のドイツの起業家を対象に行われたアンケートでは、起業家の約4割が「BWL(VWL含む)」の卒業生であるというデータが出されました(出典:e-fellows.net)。起業でなくても、中小、大手を問わず、企業の管理職やマネジメント職にはやはりBWL学部出身者が好まれやすい傾向にあります。
このように、ビジネスの世界と密接に関係することが多い学部のため、やはり起業家や企業を相手に折衝する機会も多くなり、必然的にコミュニケーション能力も要されてきます。ここでいうコミュニケーション能力には、英語やドイツ語でヨーロッパ人相手に折衝できるといった意味で、高い語学力も指し示すでしょう。
- 数学的思考能力
- ビジネスライクの考え方
- コミュニケーション能力
- 高い語学能力
BWL学で有名な大学
ドイツには日本の大学群のように偏差値といった概念がないため、大学の評価は各格付け機関(QS大学ランキング、CHEランキング、等)に基づいた結果となります。また、学力だけでなく、論文の引用件数や卒業後の進路などが勘案されるため、必ずしも有名な大学=難関大学、というわけではなく、様々な要因によって有名大学の定義は異なります。
一般的に、ドイツのBWL学部で有名とされるのはQS大学ランキングの経営学部部門で順位の高い「マンハイム大学」「ミュンヘン工科大学」「オットー・バイスハイム大学院」「国立ミュンヘン大学」「ベルリン自由大学」「アーヘン工科大学」「ミュンスター大学」あたりがランキング上位の常連でしょう。
もっとも、ドイツ社会では大学の知名度よりも大学時代の総合成績やインターンシップ、論文の出来など実績に目を向ける比重が高いため、一概に大学名をもって判断はできません。
BWL学の学部を卒業後のキャリア
上述の通りビジネス全般に精通する学問領域となるため、卒業後の進路も幅広いのがBWLの特徴です。卒業後の具体的なキャリアとしては、以下のような職種が挙げられます。
- コンサルタント
- 営業・営業推進
- 物流・サプライチェーン部門
- 市場分析
- マーケティング
- 人事・人材開発
- 経理・ファイナンス
- ビジネスデベロップメント
ドイツに進出している日系企業の中には、ドイツのBWL知識を要した人材の採用に力を注いでいる会社が少なくありません。新規進出・市場拡大の時期を問わず、日本の会社にとってドイツの市場や商法に精通した人材はいつの時代も売り手市場となりやすいでしょう。