日本で働いたことのあるドイツ人、あるいは日系企業で働いたことのあるドイツ人は、基本的に日本文化を理解し、それらに対し寛容である者がマジョリティです。にも拘わらず、こと「日本の仕事文化」というテーマにスポットライトを当てると、どんなに日本びいきな外国人でも多かれ少なかれ不満を口にします。
これは一概に、ドイツの企業文化が優れていて日本のそれが劣っている、というわけではなく、あくまで両国間の文化的差異に根差した問題であることは理解しなくてはいけません。そのため以下のコラムでは、あくまで「ドイツ人の目から見た日本企業の悪いところ」について、解説していきたいと思います。
外国人と日本人を区別する
日系企業で働いた経験のある外国人の挙げる不満の筆頭に挙げられるのが、この「日本人と外国人の区別」というポイントです。この「区別」を場合によっては「差別」と捉える外国籍の従業員も少なくなく、外国籍従業員の抱える日系企業への不満の原因の一つとなっています。
- 外国人であるため、キャリア形成の門戸が限られる
- 労働契約期間が日本人に比べて短い
- セミナーや研修プログラムの枠が限られる
一方で、こうした「外国人と日本人」の区別を日本企業側からしてみたら納得せざるを得ない事情がいくつかあります。一つには、日本人と比べて外国籍の従業員の場合離職率が高く、せっかく資金と労力をかけて教育してもすぐにやめられてしまうのではないか、という懸念があります。
また会社の受け入れ態勢の問題もあり、例えば社内の研修プログラムなどは基本的に他の日本人社員の教養・習熟レベルに合わせて日本語で行われるため、日本語の堪能でない外国人籍の従業員を受け入れるキャパシティが会社側に整っていない、ということも多々あります。
仕事が効率的でない
外国籍、特にドイツ国籍の従業員から見て、日系企業はしばしば「仕事が非効率的である」と映ります。西欧諸国の中でも特に「straightforward(直截的)」な仕事文化で知られるドイツ人にとって、管理職が何度となくミーティングを行い細かい部分を論じる様は、非常に非効率的に捉えられがちです。
- 社内の会議が多く、意思決定まで時間がかかる
- 枝葉末節にこだわり、大局を論じない
- 残業を美徳とする
国の行く末を決するような重大な局面にあってもなお、他部署とのハーモニーや些末な問題事に拘泥し大局観を逃すお役所気質な体質は、特に今回コロナ禍でも改めて浮き彫りになりました。
ドイツの仕事気質は「まず目的を決め」「その達成のために必要なアクションをリストアップし」「実行する」と、非常に単純明快です。とりあえず探り探り一手を打ってみて、物事の反応を見てから弥縫策を模索する日本のやり方とは対照的であるが故、不満の元となりやすいのではないでしょうか。
自分の専門外の仕事をやらされる
以前のコラムでも記したように、ドイツ人にとって仕事上重要なのは、自身のスキルを発揮できる環境に身を置き、不断のスキルアップを行なえるかどうかです。
中国の故事に「知己(士は己を知るものの為に死す)」という言葉がありますが、特にドイツ人にあっては、この言葉が適切に当てはまるのではないでしょうか。給与は、いわんや自身を「いくらで値踏みしてくれるか」の数値的な評価ですし、いかに給与が高くても、自身の評価が不当であったり、驥服塩車、自身のスキルを大きく下回る仕事に従事されると、ドイツ人はモチベーションを失います。
引用元:なぜ日系企業は優秀なドイツ人人材を取り逃すのか?
それゆえ、自分の専門外の仕事に従事させられることは彼らにとっての本懐ではなく、髀肉の嘆を洩らすこととなります。
- 契約書には記載されていないような仕事内容までやらされる
- お茶くみや接客など、アシスタント業務まで行う
- 業務の異なる他部署への異動を示唆された
こうしたドイツ人の抱える不満は、日本の仕事文化に慣れ親しんだ人の目線から見たらやや的外れのようにも捉えられます。日本の会社が構造的に求めている人材は、何か一つの物事を専門的にこなす人材ではなく、自分の専門の軸を一つ持ちつつ広く浅く他部署の業務にも知悉してハーモニーを奏でるように仕事を行えるジェネラリストとしての人材です。
こうした仕事文化に基づいて、日系企業では新卒社員はさながらアシスタントのような業務から他部署への移動(ジョブローテーション)等、自分の専門領域にとらわれないキャリア形成を行うのですが、それらの文化はドイツ人の目から見ると奇特に映ります。
納得したふりをする
我々日本人の慣れ親しんだ文仕事化の一つに「その場でNoと言わない」というものがあります。例え顧客や同僚の要望が到底受け入れがたいものであっても、礼儀をわきまえた回答として「持ち帰って検討します」という文言で受け答えることが多いのではないでしょうか。
- Yes、Noを明示しない
- 頷いているので納得したと思ったが、後日全く異なる返事が来た
- 自分の言っている内容を理解していないのにその場の雰囲気で頷いているように思える
対してドイツ人の仕事文化は、上述の通り「straightforward」で、YesであろうとNoであろうと即断即決が常です。
社外との交渉事だけでなく、社内でのミーティングでも同様で、会社に対する要望、改善点などがあれば、ドイツ人は臆面もなく指摘しますが、これを日本人は「部下の言うことを全く無視するのもかわいそうなので、とりあえず聞いてあげよう」という態度で頷きます。ドイツ人にとって上司が聞いているかどうか(結果はともあれ過程が重要)はどうでもよく、要するにどんな手段であろうと物事が自分の示唆した方向に改善されればよいのです(過程はともあれ結果が全て)。
ドイツ人にとって「頷く」というのはYes, I agree with youの所信表明であり、日本人にとって「頷く」はYes, I am listening to youの婉曲表現であることから生じた、日独間の仕事文化上の軋轢と言えるでしょう。
公私混同する
ドイツ人にとって、仕事とは日銭を稼ぐための場所で、友達付き合いをするような場面ではありません。対する日本人にとって、会社とは自身の人生の一部になっているケースが多く、社員はさながら家族のように振舞います。
こうした「会社」に対する認識の本質的な違いは、往々にしてドイツ人社員の反発を招く原因となりえます。
- 仕事外での付き合い(ディナーなど)が必要になってくる
- 仕事外の人間関係が仕事に影響してくる
- 昇進では、仕事のパフォーマンスではなく上司との人間関係が重要となる
17時には完全に仕事をOFFモードに切り替え、徹頭徹尾公私の切り分けを行いたいドイツ人にとって、仕事の後に飲み会を強要したり土日に懇親会を催したりする日本の仕事文化は、さながら家族との時間を犠牲にした仕事の奴隷のように映ります。
一方で、日本の仕事文化を慮るに、こうした「会社=家族」というコンセプトは切っても切り離せないものであるため、表面的には解決しづらい日独間のトラブルの種になりがちです。