ドイツ語を勉強するにあたって誰もが考えたことがある疑問・・それが
「ドイツ語って勉強する意味あるの?」
確かに多くのドイツ人が流暢な英語を話し、英語の映画を字幕無しで理解できるレベルに達しています。
また、昨今ではAIや翻訳ツールなど、その国の言語を勉強しなくてもコミュニケーションを取れる時代になってきました。
このような時代でもなお、多くの時間を費やしてまでドイツ語を勉強する必要性はあるのでしょうか?
麗澤大学外国語学部のドイツ語授業で教鞭を取られ、NHKの「しあわせ気分のドイツ語」にご出演されている草本晶教授にインタビューさせていただきました。
そもそもドイツ語を勉強する理由は?
インタビュアー「そもそも他の諸外国語に比べ、ドイツ語を勉強するメリットはあるのでしょうか?特に学生が将来の就職や就職活動を念頭に置いたとき、どのような有利な点が?」
草本教授「はい。3つありますので、一つずつ紹介しますね」
草本教授「まずは、ドイツ語を学ぶということは、単に語学を学ぶだけではなく、ドイツを含めたヨーロッパ大陸の文化を学ぶことになります。英語圏ではなく、ヨーロッパ大陸、これが重要です」
インタビュアー「というと?」
草本教授「アジアでも国ごとに文化が異なるのと同様、ヨーロッパでも国ごとに文化は違います。やはりイギリス(英語文化)とヨーロッパ大陸の文化は違う。表面的に理解できたようでも、英語では理解できないドイツならではの文化や習慣は少なくありません」
草本教授「例えばドイツ人はときどき「遠くへ旅に出たくなる衝動」にかられますが、このFernwehという語を英語にするのは難しい。ほかにもドイツ文化の文脈で、そこで暮らす人々の価値観を知ることによって理解できる言葉やニュアンスは多く存在します」
草本教授「ヨーロッパ大陸の人間の習慣や価値観を理解するうえで、私はドイツ語やフランス語のような大陸の言語を学ぶことが早道だと思います」
草本教授「こうしたヨーロッパ大陸の人々と通じあえる文化的素養を身に着けた日本人は、やはりビジネスでもアカデミックの分野でも強く、就活市場でも価値が高いと思います。これに関しては後ほど詳しく紹介しますね」
草本教授「2つ目のメリットですが、ドイツ語をツールにしてさまざまな国や業界のドイツ語話者とスムーズなコミュニケーションが可能になります」
インタビュアー「スイスやオーストリアのような?」
草本教授「ドイツ語を母語としている人だけでなく、ドイツ語を勉強している世界中の人間が含まれます。東アジア、南米、東南アジア、東欧、中東・・共通の趣味を持つ人間同士が友達になりやすいように、同じ言葉を話す人間同士はやはり親近感が湧きやすいのです」
インタビュアー「確かに、語学学校などでも他の国からドイツ語を学びに来ている学生と友達になりやすいと言いますね」
草本教授「特に一部の分野、金融、芸術、音楽、建築、デザインなどの領域では特にドイツは人気があるので、ドイツ語を話す人、勉強している人の数も多いです。こうした業界に興味のある人は、ある意味同僚や仕事仲間とドイツ語が「共通言語」になりやすいかもしれません」
インタビュアー「アート・建築関連のドイツファンは多い印象ですね!」
草本教授「3つめのメリット・・これは学生などにとって一番魅力的かもしれません。ドイツ語を話せると、海外で働けるチャンスが広がります」
草本教授「御社もご存じの通り、ヨーロッパで最大の日系企業数を数えるのはドイツですよね?」
インタビュアー「はい。イギリスのEU脱退に伴って、ヨーロッパに拠点を置く日系企業の中でドイツのプレゼンスが更に向上しています。」
草本教授「ドイツに関心を持つ業界人、経営者の方は意外と多いです。にもかかわらず、英語が話せる日本人はたくさんいますが、ドイツ語を話せる、ドイツの価値観や考え方を深く知っている日本人はそれほど多くありません。ですので、社内でドイツに関わるプロジェクトが持ち上がると、社内のドイツ語が話せてドイツを少しでも知っている人間が出張に連れていかれて、そのまま現地とのパイプ役に据えられる、という話はよくあります」
インタビュアー「確かに弊社の経験でも、若くしてドイツで就職する人材はドイツ語と英語の両方を話せるケースが多いですね」
草本教授「ドイツ語を知り、ドイツ人と対等に話ができる日本人人材はやはり貴重です」
草本教授「若くして海外、ヨーロッパで働きたいという人がいたらドイツの日系企業への駐在や現地採用が一番の近道なのではないでしょうか」
ドイツ語って本当に必要?
インタビュアー「それでは、少し意地悪な質問をさせてください。昨今AIや翻訳ツールが発達してきましたが、今の若い人々は本当に外国語を勉強する必要があるのでしょうか?出張も駐在も、今に翻訳デバイス片手に行う時代が来てしまうのでは?」
草本教授「ハハハ。そうなると良いですが、恐らく難しいと思います。例えば旅先での病気やトラブルなど、咄嗟の対応には便利だと思いますが」
草本教授「先ほどもちょっと触れましたが、ドイツ語を学ぶということは言語だけでなく、文化や価値観を学ぶことにほかなりません。言語上のコミュニケーションだけなら確かにツールが役立ちますが、その水面下の文化や不問律までは今の技術では翻訳しづらいでしょう」
草本教授「文化を氷山に例えることがありますが、言語はあくまで表層的な部分をなぞるに過ぎません。ビジネスの文脈で本当に理解すべきなのはむしろその下の部分であり、ここは長い時間をかけ、経験を通して知識を培う必要があるのです。麗澤大学のドイツ語授業でも、単なる言語だけではなくこうした文化の翻訳者・仲介者を育てるための授業をおこなっています」

インタビュアー「なるほど・・では冒頭の質問、英語でのコミュニケーションよりもドイツ語でのコミュニケーションが推奨されるのも同じ理由ですか?」
草本教授「その通りです。言語をフィルターに例えるなら、自分と相手の両方にとって外国語となる英語でやりとりするよりは、どちらかの母語を使用した方が、そのフィルターの数は少なくなり、誤解も生じにくくなります。」
草本教授「加えて、英語よりもドイツ語ができたほうが現地でのストレスが圧倒的に少なくて済みます」
草本教授「スーパー、レストラン、病院、お役所・・英語が話せる人が多いと言っても、やはりドイツ社会はドイツ語を中心に回っていますから、各所でドイツ語でのコミュニケーションがとれるかどうかは、現地に馴染むための大きなカギですね。日常生活のストレスの有無は、仕事や研究のパフォーマンスにも影響を与えます」
実例
インタビュアー「最後に、草本先生の学生さんなどで実際にドイツ語を身に着けてドイツでのキャリアをスタートさせた方などはいますか?」
草本教授「たくさんいますよ!やはり、ドイツ語を身に着けて現地の日系企業に就職するようなケースが多いですね」
インタビュアー「駐在としてドイツに派遣され、そのまま現地に残るというケースもありました。他には、ドイツで資格を取得して独立したり起業したり、といった例も聞きますね」
インタビュアー「確かに、なんだかんだ日常生活でドイツ語が話せるのと話せないのとで、できることの数が格段に変わってきますね・・」
草本教授「先ほども話した通り、言語だけではなく、文化の翻訳というのが肝になってきます。単なる言語翻訳ならアプリを通じて行えますが、文化の翻訳・仲介ができてこそ、日独のパイプ役になることが可能になると思います。私の講義を通じて学生に学んでもらいたいのは正にその部分です」
インタビュアー「弊社で斡旋するポジションでも、まさにそういった人材を求めている企業さんが多いですね・・。貴重なお話をありがとうございました!」

