外資系企業で働くには「ビジネスレベル」の英語力が必要だという話をよく耳にすると思いますが、このへんの事情はドイツ語でも同様、一般的にドイツ語をビジネスシーンで活用するのであれば、「ビジネスレベル」と言われるレベルに達する必要があります。

さて、この「ビジネスレベル」という定義ですが、果たしてどこからがこのレベルに達していると見なされるのでしょうか?ドイツに留学したらOK?それともドイツ語検定に合格すればOK?我々の日常ではなんとなくぼかされているイメージのあるこの「ビジネスレベル」の定義ですが、ドイツには明確な基準が設けられており、これを元に就職や大学受験の資格の有無が定められます。

今回は、ドイツで働くにあたって必要なドイツ語レベルと、その認証の種類について解説していきたいと思います。

ドイツ語のレベルに関して

一般的に、ドイツ語圏においてドイツ語の習熟レベルはCEFR(Common European Framework of Reference for Languages/ヨーロッパ言語共通参照枠)によって参照されます。CEFRとは、言語能力をA1 からC2 までの6段階に分類した(細かく参照する場合、B2+やAboveC2なども含み11段階となることもある)基準のことで、ヨーロッパにおける国境を越えた就学や就労の際の参照指標として活躍しています。

CEFR基準レベル申し込みなど
C2
  • 読み書きがほぼ完ぺきにおこなえる
  • 様々な話し言葉や書き言葉から得た情報を要約し、論旨や説明を組み立て、首尾一貫したプレゼンテーションができる
  • 複雑な状況でも、より細かい意味を判別して、流暢かつ正確に、そして自発的に自己表現ができる
ドイツ語教員資格(Goethe C2)
C1
  • 幅広い内容の長文を理解することができる
  • 流暢かつ自然な自己表現ができる
  • 社会的、学問的、ビジネスの目的などのために、言語を柔軟かつ効果的に使用することができる
  • 複雑なテーマについて、構成パターンや接続詞などをうまく使いながら、明確で構成のしっかりした詳細なテキストを作成することができる
ドイツ大学・大学院への申し込み(telc C1 Hochschule / TestDaF 4 x 4/DSH2)

※多くの企業での受け入れが可能なライン

B2
  • 専門分野の技術的な内容を含む、具体的および抽象的なトピックに関する複雑なテキストの主旨を理解することができる
  • ネイティブスピーカーと、流暢さと自発性を持って自然に交流することができる
  • 幅広いテーマについて、明確で詳細な文章を作成することができる
  • 話題性のある問題について、様々な選択肢の利点と欠点を挙げながら、自分の見解を述べることができる
※一部企業での受け入れ可能ライン
B1
  • 仕事、学校、レジャーなど日常的に遭遇する身近な事柄について、明確に要点を理解することができる
  • ドイツ語圏を旅行しているときに起こりそうなほとんどの状況に対処することができる
  • 身近な話題や個人的に関心のある話題について、簡単なテキストを作成することができる
  • 経験や出来事、夢、希望、野心について説明し、意見や計画について簡単に理由や説明をすることができる
ドイツ永住ビザ申し込み(Deutsch-Test für Zuwanderer A2-B1/telc B2

一部大学(音楽、芸術等)への申し込み許可

A2
  • 最も身近な分野(例:ごく基本的な個人・家族情報、買い物、地元の地理、雇用など)に関する文章やよく使われる表現を理解することができる
  • 身近で日常的な事柄について、簡単で直接的な情報交換ができる
  • 簡単な仕事でのコミュニケーションができる
  • 自分の背景や身近な環境、緊急に必要な事柄について、簡単な言葉で説明することができる
 
A1
  • 身近な日常表現や具体的な欲求を満たすためのごく基本的なフレーズを理解し、使用することができる
  • 自己紹介や他者紹介ができ、住んでいる場所や知っている人、持っているものなど、個人的な事柄について質問したり答えたりすることができる
  • 相手がゆっくり、はっきりと話し、手助けをする用意があれば、簡単なやりとりができる
 

Council of Europeを元に作成)

これらの指標(A1~C2)のうち、自身がどのレベルに達しているのかを手っ取り早く図る方法が、各種ドイツ語での試験によるものとなります。後述する通り、ゲーテ試験、telc試験、大学入学ではDSH試験やTestDaF試験などに合格する、または一定の成績を得るなどで自身のドイツ語能力を証明できることとなるわけです。

特に、大学入学や一部資格の取得に関しては、自身がドイツ語で問題なくコミュニケーション取れるかどうかを証明する必要があります。ドイツの大学(音楽や芸術関連の学部を除く)の入学要件であるC1以上のドイツ語力をもって、ドイツ社会で滞りなく生活できるボーダーラインと見なしても良いのではないでしょうか。

ドイツ語証明の種類

CEFRの提唱する語学能力を証明するには、各認定基準と「同レベル」と見なされる各種資格を取得する方法が一般的です。

※どの検定を認定するかは、企業や大学に異なるため、あくまで目安表であることに注意

実際にどの資格を取得するべきなのかを調べるには、まず自身が何のためにドイツ語試験を受験するのかを明確にすべきでしょう。例えば、ドイツの大学受験などではTestDafやDSHの試験が応募要件として見なされることが多いと言えるため、そのほかのドイツ語試験の証明書では応募を認めてもらえないケースもあります。例えば、上記の表でTestDaf4x4はB2~C1と見なされる通り、多くの大学ではC1と認定されている一方で、場合によってはTestDaf5x5が受験に必要なケースなども存在します。

この辺の事情は、自身の応募したい企業や大学、資格などの要件によって異なってくるため、先にドイツ語学習の目的を明確にしたうえで、受験したい資格や、そのための試験対策を行うべきでしょう。

  • ドイツの大学への応募→TestDaf, DSHが一般的
  • ドイツの企業への応募→特に試験の特定はされていないことが多い

また、上述の資格認定のうち「ドイツ語技能検定」は日本語話者向けのドイツ語検定として、他の試験とは毛並みが異なることに注意が必要です。

仕事で必要なドイツ語レベル

さて、厳格な要件の課される大学留学や資格と異なり、一般的に企業で就労する際に特定のドイツ語の資格の提出を義務付けられることは少ないですが、ここでもやはりCEFR基準でのC1 やB2といったドイツ語要件が募集要項に明示されているケースがほとんどです。

例えば、募集要項をチェックすると、ドイツ語に関する以下のような文言が記載されていることに気が付きます。一部の企業は海外の優秀な人材を獲得するためにドイツ語不問での採用活動をおこなうこともありますが、多くのドイツ企業にとってやはりドイツ市場がメインターゲットである以上、ドイツ語が話せる人材の優先度が高いと言えるでしょう。

ドイツ企業でのドイツ語要件に関する言い回しの一部

  • Sehr gute Deutsch Kenntnisse (C1)
  • Dein Deutsch ist sehr gut – in Wort und Schrift (C1)
  • Fließende Deutschkenntnisse (C1)
  • Gute Deutsch Kenntnisse (B2)
  • Du hast gute Kenntnisse der deutschen Sprache in Wort und Schrift (mind. B1 Niveau)

特に、ドイツの企業や顧客を相手にするセールスアシスタントや営業職では、このドイツ語重視の傾向は大きいといえます。一方で、技術や芸術、など代替不能な専門職要素が強くなればその分企業の求めるドイツ語要件は緩和される傾向にもあります。

ドイツ語レベル職業学業
C2翻訳、教職等ドイツ語を専門とする職種一部教職関連のコース
C1ドイツ企業(一般職種)大学・大学院入学要件(一般的な学部)
B2一部専門資格(看護師等)

在独日系企業(一部職種)

 
B1 大学・大学院入学要件(一部芸術系学部)
ドイツ語要件不問ドイツ企業(ごく一部の専門職種等)

在独日系企業(一部職種)

英語のみの大学・大学院等

(※規定は州や企業によって異なります。あくまで目安として参照してください。)

また、在独の日系企業のように、企業形態ゆえに企業内の公用語がドイツ語ではなく英語を使用されている場合、ドイツ語は「マストスキル」ではなく「習得していればアドバンテージ」と見なされることもあります。このように、ドイツ語がC1レベルに達していなくても応募可能な職種や、そもそもドイツ語を必要としない求人案件もあるため、ドイツ語レベルに自信が無い場合、そういった分野に的を絞って就職活動をおこなってみるのも良いでしょう。