主婦は、ドイツでは家にいて家事をする女性という意味で“ハウスフラウ(Hausfrau)”と呼ばれます。日本とドイツは世界のGDPランキングで3位と4位、経済規模も生活水準も似ているので、女性の社会進出や男女間の役割の変化についても多く共通点があります。

ドイツを含むヨーロッパの国々は日本より男女平等や多様性への理解が進んだイメージがありますが、実際どうなのでしょうか?今回は、「主婦」を切り口に、その立ち位置や現状、男女の役割の変化や「主夫」事情について紹介します。

ドイツにおける専業主婦観

ドイツでの専業主婦の立場は日本以上に微妙で、ともすると「なぜ働かないの?」といった視線で周りから見られることがあります。そこには、ドイツの職業観やキャリア観が影響しています。

条件の良い仕事に就くためにはアカデミックな専門性や数年にわたる職業訓練が求められるドイツでは、日本のようにキャリアの途中で職業を変えることは簡単でなく、多くの人が一度専門性を身に付けたらそこから大きく外れるジョブチェンジをしない傾向があります。小学校終了後から分けられる進路が将来の職業に直結するドイツの教育システムでは、中等教育から積み重ねた知識や専門性が仕事、つまりその人の職業(Beruf)につながっていくのです。

このような背景を知ると、主婦を職業と見なさないドイツ人が多いのも理解できる気がします。日常会話の中で「職業は何か」「専門は何か」という質問をよくされますが、たとえ現在専業主婦であったとしても、この質問に「主婦」と答える人はほぼいません。ドイツは「何を学んできて何ができるか」が重視される社会なので、主婦になる以前にしていた仕事を職業として答える人が多いのです。

女性の就業が進む国

ドイツ連邦統計局(Statistisches Bundesamt)の資料(2018年の統計 ※1)では、ドイツ国内の女性(20〜64歳)の76%が有職者と報告されています。逆に言えば残りの24%、4人に1人は仕事をしていないことになり、この中に専業主婦も含まれます(学生や失業者も含まれるのでイコール専業主婦の割合ではありません)。

就業率76%は、10年前の2008年と比較すると8%上昇しており、EU諸国の中ではスウェーデン(80%)、リトアニア(77%)に次いで3番目に高い数字です。以下のグラフに出ているEU10か国の平均(66%)と比較して10%も高く、ドイツ国内の同世代男性就業率(84%)との差も8%と小さいので、ドイツは女性の就業が進んだ国であると言えるでしょう。

Drei von vier Frauen in Deutschland sind erwerbstätig – dritthöchster Wert in der EU”(Destatis : Statistisches Bundesamt)を元に著者作成

参考までに日本と比較してみると、男女の生産年齢人口の就業率は男性84.3%・女性71.0%(2019年、15〜64歳が対象)。男女間の就業率の差は13.3%で、10年前のドイツの男女就業率の差(12%)と同等です。(※2)

ドイツで専業主婦が減った理由

ドイツで専業主婦が減った背景には、女性の権利獲得運動とともに高度な専門知識や仕事を持つ女性が増えたことがあります。20世紀後半まで、ドイツの女性は権利を著しく制限され、一方で男性は配偶者と子供に対して多大な権利を持っていました。既婚女性は配偶者の同意がないと銀行口座を開設できなかったり、女性が許可なく仕事をした場合は配偶者男性が給与を差し押さえることができたことから、女性の地位がとても低かったことが分かります。1977年に民法が改正され、女性が配偶者の許可を得ずに自由に仕事に就くことが認められて以降、女性の社会進出は大きく進みました。

【専業主婦が減った理由】
①女性が自由に仕事に就けるようになった(配偶者の許可が必要なくなった)
②アカデミックな専門性を身に付ける女性が増えた(1980年頃から女性の大学進学資格取得率が男性を上回り[※3]、過去10年間を見ても常に女性の資格取得率が高い)

Statistisches Bundesamt (Destatis)データバンク, “Ausbildungsverträge: Deutschland, Jahre, Geschlecht, Schulabschluss”をもとに作成

③金銭的理由や老後の生活不安(物価の上昇による実質賃金の低下、共働きでないと生活が成り立たない、年金問題)

Statistisches Bundesamt (Destatis) “Entwicklung der Reallöhne, der Nominallöhne und der Verbraucherpreise” をもとに作成

④家事にかける時間が減った(便利な家電や宅配サービスの充実)

男女間の役割分担とドイツの主夫事情

一方で、職業的立場や所得は男女間で同等と言える状況とはなっていないのが現実です。仕事を持つ女性の就業実態を調べてみると、パートタイム勤務が77.8%を占めていることが分かります(パートタイム=労働時間が週30時間以下)。

Teilhabe von Frauen am Erwerbsleben”(Destatis : Statistisches Bundesamt)を元に著者作成

10年前、20年前と比較するとフルタイム勤務の割合が増えてきてはいますがまだ少なく、管理職に至っては男性の半分以下(女性29.4%・男性70.6%、2019年のデータ、※4)。パートタイム勤務はフルタイム勤務に比べて給与水準も低いので、女性の平均収入は男性よりも18%少なくなっています(※5)。

Gender Pay Gap 2021: Frauen verdienten pro Stunde weiterhin 18 % weniger als Männer”(Destatis : Statistisches Bundesamt)を元に著者作成

また、小学生以下の子供がいる家庭の場合、どちらの親のキャリアを優先するかという問題も発生します。ドイツの小学校は正午前後に授業が終了し、学童などの施設に預けない限り子供はランチ前に帰宅してくるので、食事の用意や宿題の手伝いなどをどちらかの親が引き受けなければなりません。中等教育以上の年齢になればひとりで身の回りのことをしたり留守番もできますが、それまではどちらかの親がパートタイムで働かざるを得ない事情があります。

女性のパートタイム就業率を見る限り、まだ女性が家事や育児をカバーする傾向が根強いものの、徐々にジェンダーによる役割分担意識は薄くなってきています。育児休業中(Elternzeit取得中)に休業前の平均手取り賃金の67%を受け取れる両親手当(Elterngeld)の男性受給者は年々増加し、10年前と比べると男性比率が10%アップしています(2019年、男性30.6%・女性69.4%)。これは、育児休業を取得して子育てに専念する時間を作る男性が増えていることを示しています。

Statistisches Bundesamt (Destatis)データバンク, “Elterngeldempfänger nach Geburtszeiträumen: Deutschland, Jahre, Geschlecht”をもとに作成

若い世代ほど古い固定観念に縛られず、家事や子育ては「得意な方がやればいい」という意識が強くなっているように感じます。市場調査会社スタティスタ(Statista)によると、自分が「おもに家事を担っている主夫である」と認識していると答えた男性の数は1,202万人(2022年、※6)。ドイツの男性全人口から見る割合は29%にも上ります。

Anzahl der Männer in Deutschland, die sich selbst zu den Männern zählen, die den Haushalt machen (Hausmänner), von 2018 bis 2022”(Statista)を元に作成

ここには単身世帯も含まれており、29%の男性のすべてが家庭の家事を引き受けている訳ではありませんが、日本の国勢調査から見えてくる専業・兼業主夫の割合は全人口の1%にも満たないので、ドイツの男性がいかに積極的に家事に参加しているかが実感できる数字です。

ちなみに、ドイツ人と結婚して「主婦」としてドイツに居住する日本人女性の中にも、フリーランサーとして活動したり、アルバイトをおこなったり、はたまた英語やドイツのような語学力を活かして日系企業で働くようなケースが増加しています。特に、日本語が活かせること、時間的に融通が利くことなどから日系企業のセールスアシスタント職の人気は高く、ドイツに拠点を構える日系企業も毎年多くの日本人を雇用する傾向にあります。ドイツでの生活が安定し、今後ドイツで語学力を活かしたよりダイナミックな職種を経験したいと考えている場合、このような選択肢も頭に入れてみても良いかも知れません。

【参考資料・出典】
※1:ドイツ連邦統計局(Statistisches Bundesamt) “Drei von vier Frauen in Deutschland sind erwerbstätig – dritthöchster Wert in der EU
※2:内閣府男女共同参画局 「男女共同参画白書 令和3年版『OECD諸国の女性(15~64歳)の就業率(令和元[2019]年)』
※3:連邦政治教育センター(Bundeszentrale für politische Bildung)“Bildungsungleichheiten zwischen den Geschlechtern
※4:ドイツ連邦統計局(Statistisches Bundesamt) “Teilhabe von Frauen am Erwerbsleben
※5:ドイツ連邦統計局(Statistisches Bundesamt) “Gender Pay Gap 2021: Frauen verdienten pro Stunde weiterhin 18 % weniger als Männer
※6:Statista “Anzahl der Männer in Deutschland, die sich selbst zu den Männern