ドイツにおいて採用面接時などで年齢を理由に不採用にすることは禁じられており、ドイツ社会は強く実力主義的な側面を持つことから、一般論で言うと「年齢による差別」はおこりにくいと言われます。個人の年齢よりも、ドイツでは「特定の仕事に従事した年数」すなわち業界経験が転職活動や給与水準に大きな影響を及ぼしやすいため、若くてもその業界の知識が豊富であれば重宝されますし、年次を経ていても未経験ですと訓練生からのスタートとなります。日本とは逆の、年の劫より亀の甲、といったところでしょうか。
こうした「年功序列」ならぬ「実績序列」的なドイツ社会ですが、かといって年齢が全くキャリアパスに影響しないのかと言われるとまたそうでもなく、どちらかというと〇〇歳までに管理職になろう!といった具合に個人の目標やマイルストーンとして機能することが多いでしょう。以下に、ドイツにおいて大体何歳くらいで大学を卒業し、何歳くらいで昇進、退職に至るのかの解説をおこなっていきます。
大学卒業
専門学校に入るのか、大学に入るのか、はたまた職人としての職業訓練をおこなうのかで進路パスは異なりますが、ここではギナジウムを卒業し、一般的な大卒進路を歩むドイツ人の道を追っていきます。
23.8歳: 学士の平均卒業年齢
18歳~20歳でギナジウムのAbiと呼ばれる共通試験を終えた学生は、その後大学または専門大学などに進学することとなります。日本と異なり、学士課程にあたる大学が四年制大学と呼ばれないのにはわけがあり、ドイツでは年数ではなくセメスターで区切る傾向が多く、一般的に大学(学士課程)卒業にかかる年数は6セメスターと言われています。
1セメスターは半年のカリキュラムなので、何事もなく学業を終えるのであれば3年で卒業できることになりますが、実際には大学の途中で留学や休学、インターンシップなどを挟み、実際には4年程度での卒業が一般的になります。 また、一度他の学部に入ってから退学し、新しい学部に入りなおすようなケースや、一度社会人になってから改めて大学生をやり直すようなケースも含まれるため、学士の平均卒業年齢は日本よりも少し遅く、23.8歳という結果となっています。
26.4歳: 修士の平均卒業年齢
学士取得者の半分近くが修士課程に進学するドイツでは、その分社会人としてのキャリアをスタートも遅くなる傾向にあります。修士課程でかかる一般的な卒業までのセメスターは4セメスターですが、ここでも留学やインターンを加えると+1~2セメスターほど卒業が伸びる傾向にあり、修士卒業の平均年齢は日本と比べて遅めの26.4歳という統計データが示されています。
もっとも、ここでも一度社会人になってから大学院に入りなおすものであったり、海外からの留学生など、年齢差はまちまちで、場合によっては30歳を超えた卒業も特殊ではありません。日本のように22歳で学士を卒業、24歳で修士を卒業、新卒採用の同期との年齢差は少なく仲間意識を持つ、という社会構造と抜本から異なる様子が見て取れるのではないでしょうか。
キャリアと年齢
さて、大学を卒業し、企業に就職したドイツ人はどのような年齢でどのようなキャリアパスを描くのでしょうか。企業ごとにポジションの呼称やキャリアパスは異なるので、ここではあくまでドイツ企業の一般的な例に則って解説をおこないます。
訓練生・インターン生
年齢区分:10代~20代
その道の経験がない者はトレイニーやインターンといった呼ばれ方をし、新卒ほやほやであったり、場合によっては大学や大学院に通いながらこうした職業訓練、インターン経験を積むこととなります。在学中にインターン経験を積むことで、大学卒業時にはすでに「仕事経験あり」と履歴書に書くことができ、これによってドイツではかろうじて職歴が有ると見なしてもらえるわけです。ポジション柄、学生と並行しておこなうことが多いため、年齢別でみると10代~20代の若者が多いですが、仮に30代であっても未経験で仕事を始める場合、こうした「訓練生」と見なされることがあっても不思議ではありません。
この新卒時期の業務内容は極めて限られたものになり、場合によってはいくつかの業務へのアクセス権限なども得ることができません。もっぱら、ビジネスの根幹にかかわる重要な決定に携わることはなく、自身の知識を身に着け、かつ自分の職域の範囲内で上司に言われた目的を達成する職能に終始します。
仕事の責任が少ない分、給与水準も当然低いものとなります。一方で、労働契約は雇用者有利で締結されることが多く、一部の業種では、正規雇用を勝ち取るために訓練生がサビ残をおこなう現状も見受けられます。
ジュニア・マネージャー
年齢区分:20代
訓練生よりは知識と業務責任が増すものの、まだ管理職には程遠く、基本的には自身の個人目標達成に注力することが求められる若手の職能には、ジュニア・マネージャーなどの呼び名が使われます。年齢的には社会人になったばかりの20代のジュニアマネージャーが多いですが、業界未経験であれば30代のジュニア・マネージャーがいても不思議ではありません。
仮にインターン先と同じ企業で働くのであれば、一般的には2年程度で長期労働契約の締結となり、雇用の不安定な時期を脱し、仕事上でのプレゼンスも高まり、一プレイヤーとしては最も活気にみちた、楽しい時期なのではないでしょうか。
パフォーマンスを残せず会社を解雇なったりするケースを除けば、基本的に5~6年前後経験を積むことで、ジュニア→シニアへステップアップすることとなります。仮に大学院まで出ていれば、ちょうど30代の前半程度です。 ちなみに、ドイツの平均初婚年齢は男性で34.9歳、女性で32.4歳で、ドイツにあってはこの30代前半が、仕事においてもプライベートにおいても円熟し、「一人前」とみなされる時期と言われています。日本からドイツに転職し、第二の人生をスタートする人々も、この30代前半までを目途に渡航するケースが多いと言えるでしょう。
シニア・マネージャー
年齢区分:20代後半以上
日本の旧来の昇進システムが「年功序列」であれば、ドイツの昇進システムは「経験序列」と言えます。年齢よりも、その道何年のプロであるか、というまさに専門分野における技能年齢がものをいう社会で、その意味では、社会に出るのが早ければ20代でシニアマネージャーになることも十分に考えられます。
具体的に、ジュニア、シニアを分ける明確な定義はありませんが、一般的には業界経験を5年前後積んだその道の人材はシニア人材と見なされ、給与の面でも優遇される傾向にあります。リーダーシップがあるかはともかく、基本的にその業界に知見があり、専門家と言ってよい知識量と業務経験があれば、シニアマネージャーと名乗れることが多いでしょう。
もっとも、ここから先管理職に進むにあたっては、単なる業務経験量だけではなく、裏打ちされた実績や、チームを引っ張っていくためのリーダーシップなどが求められることとなります。そのため、1プレイヤーとしては一人前だが、リーダーシップや戦略眼と言った点で同僚に比肩するものがない場合、管理職への道は閉ざされ、定年退職まで1プレイヤーとして業務を遂行することとなります。
管理職部門
年齢区分:40歳以上
ドイツで「管理職」と呼ばれる人間の年齢区分を見てみましょう。40歳~49歳のレンジが最も多く、次いで50歳~59歳のレンジで、それ以下の年齢で管理職につける人間は20%に満ちません。
管理職の中にも多く種類があり、数人規模のチームを率いるチームリーダーから、その一つ上のカテゴリに位置する地区部長、さらには部門全体の統括であったりと、率いる人数が多くなればなるほど権限が高まり、給与もアップしていきます。
上述の通り、1プレイヤーからこの管理職リーダーへの飛躍には、単なる業務知識だけでなく、リーダーシップや会社や業界全体を見通す戦略眼、部門を越えたシナジーを生める力などが求められるようになり、誰もがなれるわけではないことに注意しなくてはいけません。
このように、ドイツでは年齢というよりも特定の業界や業務への習熟度で昇進がおこなわれ、一定のポジションに達すると業務知識に加えリーダーシップを発揮できる人間しか上に上がれない仕組みとなっています。
退職
ドイツ政府は2029年までに段階的に年金の受給開始年齢を65歳から67歳まで引き上げる方向に動いています。このため、具体的に何歳で定年し、何歳から受給資格を得るのかは、西暦何年生まれかによって異なる過渡期と呼べるでしょう。
もっとも、保険期間によってや、受給額を減らすことなどによって早期に年金を受け取れる措置などが設けられており、実情では法定受給開始期間である65歳よりも少し早い、64.1歳がドイツ人の平均受給開始年齢となっています。
この辺の事情は、保険期間、会社制度、年金の受給額などに異なりますが、一般的には日本と同様に65歳前後で定年退職を迎えると考えてよいでしょう。ちなみに、外国人であってもドイツでの年金支払い期間が5年を越えれば(一般的には)ドイツで受給資格を得ることが可能です。
※2022年9月現在の情報に基づいています
参考資料:
Statista (wie alt ist der Chef?)
Statista (Heiratsalter lediger Maenner)
Statista (Heiratsalter lediger Frauen)