どこまでも広がる草原、放牧された馬と羊、17時には仕事を終えて家に帰り、夜は家族と団欒を囲む・・こうした映画のようなドイツの牧歌的な田舎暮らしに憧れる日本人の数は増加の一途を辿っています。
前回の記事では「ドイツ田舎暮らし」のメリットとデメリットに関して書きましたが、現実問題として、日本人である我々がドイツの田舎で仕事を見つけるのは難しいものです。
今回は、日本人がドイツの田舎に住みながら仕事を得るための2つの方法、1)田舎のメーカーに就職、2)田舎に住みながら都会に通勤、の二つの仕事環境について解説していきたいと思います。
田舎に住んで仕事をする方法
まず、田舎に住みつつ田舎の企業に就職するようなパターンを考えましょう。この場合、田舎部に住みつつ田舎部で仕事する、まさに公私ともにスローライフの生活となります。こうした環境で就職をする場合、通勤は30分以内で渋滞もなく、都会のようなストレスから解放された仕事生活を送ることができます。

ドイツに来れば満員電車とは無縁の生活が送れると思ってたけど、ベルリンやフランクフルトの朝の混雑具合は東京とあまり変わらないかもしれない・・・

ドイツの中でも都市部と田舎とで、混雑具合には大きな差があるわね。特にドイツの電車はすぐに遅延、場合によってはキャンセルになるし、都市部の電車通勤はかなりストレスが溜まるもの
業種・職種
工場や倉庫を持つような大型の設備を持つメーカーは、大手であるかどうかに関わらず、どちらかというと都市部ではなく地価の安い田舎部に本社を持つ傾向にあります。メーカーが本社機能を持つようであれば、人事や経理、購買やマネジメント等中枢機能の職種はそのメーカーに付随しますが、客先との折衝が必要な営業部員は大都市に住み続けることもあります。
- メーカー勤務
- 工場・倉庫勤務
- ロジスティック
- その他第一次産業従事者
ドイツに拠点を持つ日系メーカーの中にも、倉庫・工場機能を持つものは地価の安さを活かしてこうした田舎部に拠点を据える会社が少なくありません。こうした在独の日系企業に就職すれば、ドイツの田舎に暮らしつつ都市部並みの給与水準を享受する生活が可能となります。
仕事上のメリット
仕事上のメリットとして、田舎部では日本人(場合によっては外国人一般)の人材が貴重なため、一度職を得たらクビになりづらい傾向にあります。企業は営利的というよりも家族経営的で、長期的な目線で社員とゆったりとした関係を築いていくことを好みます。
田舎の企業は時間的にも都市部の企業と比べゆったりとしている傾向が強く、ノルマノルマ、というより、良くも悪くもマイペースで自社の市場を守るような性格を持ちます。
- 家族経営的な側面を持つ
- 仲間意識が強く、社員をドライに切り離すことが少ない
- 離職率が低い

ドイツの人口3万人程度の小規模な町で働いています。よくも悪くも、従業員のドイツ人はおっとりしている人が多く、昼時になるとみんな家に帰って家族で食事をします。都市部のドイツ企業と比べるとストレスが少なく、スローライフを実現するにはもってこいかもしれません。ただ、あまり英語が話せる人がいないですが・・

日本でもそうだけど、田舎は時間がゆっくりと流れているもの。自然と、そこで仕事する人たちもカリカリすることが少なく、食事やワインをエンジョイする余裕がある人が多いわね
仕事上のデメリット
デメリットとしては、そもそも日本人の求人が田舎では出づらい点が挙げられます。ドイツ企業では、日本人人材を欲するのは日本市場との折衝を要するような場面で、田舎の企業だとこうしたグローバルな活動が制限され、おのずと日本人の求職の場面も限定的です。
性格的に、田舎部の企業・社員は保守的であることが多く、特に日本人のようにヨーロッパの外から来た人種とは対立するようなことも多々あります。
キャリア・賃金に関しても都市部に比べると上がりづらく、長期的に同じ企業にとどまり続けたいような世帯持ちにとっては魅力的である一方、チャレンジングな若手層には敬遠されがちな仕事環境ともいえます。
- 賃金水準が都市部よりも安い
- キャリアアップの方向性が限られてくる
- 日本人の求人の数がほぼゼロ
- 社員が性格的に保守的なことが多い
- 土地によっては訛や方言などがある
ただし、こうした事情はあくまで「ドイツ企業」に限ればの話で、ドイツに工場や倉庫機能を持つ日系企業においては事情が異なります。日本人への求人の機会が少ないドイツ企業とは対照的に、日本人人材を求める在独の日系企業(特にメーカー)にあっては、特に田舎部に住んでくれるような人材も多く求められています。
田舎から都市部に通勤する方法
さて、続いて「田舎に住んで、都市部に通勤する」というライフスタイルで、ドイツでは一般的に受け入れられています。田舎部ではなかなか求人の見つけづらい日本人にとっては、こうした「ちょっとした郊外から車で仕事の見つかりやすい都市部(デュッセルドルフ等)に通勤する」やり方のほうが難易度は格段に下がるのではないでしょうか。
DHZ紙の調べでは、ドイツ人の通勤にかける平均時間は40分弱。片道1時間以内の安い田舎部に住みつつ都市部に通勤する生活は、特に小さい子供を持つ家庭に広く好まれており、昨今ではリモート勤務の影響で毎日通勤する必要もなくなったため、キャリアとスローライフの両立を図る、こうした田舎(生活)-都会(仕事)のライフスタイルはますます多くの人に受け入れられるようになりました。
例えば、ドイツ屈指の日本人コミュニティを持つデュッセルドルフの近くには、Willich、Nettetal、Grevenbroichといった人口5万人前後の地方都市が散見しています。こうした田舎部から車で30分~1時間でデュッセルドルフに通うという選択をする現地採用者も少なくありません。
業種・職種
工場や倉庫など大規模な土地を必要とするメーカー業務に比べ、コンサルティングや金融など多くのBtoBビジネスを生業にするような業種の場合、田舎部にオフィスを持つようなことは少なく、基本的に都市部に本社機能が集中しています。
- 営業・接客を伴う仕事
- コンサルティング・金融など
- 設計・デザイン・建築事務所
- IT・Web関係
また、メーカーの中でも支店や出先機関など、倉庫機能や工場機能を必要としないような組織は同じく都市部に置かれる傾向にあります。

特に金融やコンサルの大手だと、その国の顔になるような大都市にオフィスを構えていることが多いね

BtoBビジネスがしやすいというメリットがあるのは勿論、宣伝的な目的、あとは応募者を魅了する目的などもあるわね。やはり都会に憧れる若者が多いのは、ドイツでも同じことよ
仕事上のメリット
憧れの「田舎暮らし」をしつつ都市部の会社に通うということは、上述の通りキャリアとスローライフを両立することとなり、仕事面でもプライベートでもメリットをもたらします。
以前の記事で記したように、田舎部のメリットである低い家賃、治安や空気の良い環境といったものを享受したうえで、自身のキャリアアップを損ねず賃金水準の高い都市部の会社に通い続けられます。
- キャリアとスローライフを両立できる
- 都市部の企業は国際化されていることが多く、軋轢が生じにくい
- 都市部の賃金水準を享受できる
仕事上のデメリット
デメリットとしては通勤時間の長さです。DHZ紙によると、40分を超える通勤を行っている人の75%以上がストレスを感じるとのことで、チューリヒ大学の研究では、通勤にかかる時間が一時間を超えると幸福度が極端に下がるようです。
- 通勤に時間がかかる
- 通勤時、電車の故障や渋滞などに大きく影響されてしまう
