ドイツへの移住を志す者の目標とはなんでしょうか?住居の確保?内定?

住居の確保や内定のその先に、ドイツにおける「就労ビザ」獲得という難易度の高い試練が控えており、それをもって我々は初めてドイツでの定住及び仕事が許可されることとなるのです。

今回の記事では、在独リクルート会社として20年の実績を持つ当社の経験を元に、ドイツという国における就活システムのカラクリを理解し、知識ゼロから就労ビザを取得するためのポイントを時系列方式で、ドイツ定住を志す日本人の皆様にお教えいたします。

この記事のターゲット:

  • ドイツで就職したいが、何から手をつけたらよいか分からない方
  • ドイツで就労ビザを取得したい方
  • ドイツ就労ビザ取得の難易度の高さを知りたい方

就労ビザの種類

ドイツにおける「就労ビザ」とはそもそも何なのでしょうか?

外国人である日本人がドイツで仕事をする場合、必ず「就労許可」が必要になります。就労許可は観光ビザや滞在ビザとはことなり、単なる滞在資格ではなく、その国で労働する権利を有することを証明するための手立てであり、これがないといくら能力的に優れていてもドイツで働くことはできません。この許可証のことを「就労ビザ」と呼びます。

ドイツの大学を卒業した、ドイツで生まれた、ドイツで結婚し配偶者ビザを持っている、といったイレギュラーなケースを除き、日本で生まれた日本人がドイツ就職を目的として就労ビザを取得する一般的な手段としては「ドイツで雇用主」を見つけることが挙げられます。自身を採用したいドイツの雇用主が見つかれば、そこから将来の労働契約書を発行してもらい、ビザの申請、取得、といった流れに繋げることができます。

ドイツにおける就労ビザにはいくつか種類がありますが、雇用主に紐づく「有期就労ビザ」、雇用主には紐づかないが更新が必要となるタイプ、そして雇用主に紐づかず転職が自由におこなえる「無期限就労ビザ」などのタイプに分けられます。

有期就労ビザ
(企業名に紐づく)
有期就労ビザ
(企業名に紐づかない)
無期限就労ビザ
ビザの期間労働契約書の期間
※パスポートの期限を上限
労働契約書の期間
※パスポートの期限を上限
無期限
※パスポートの期限を上限
一般発行条件ドイツにおいて雇用主がいることドイツで24ヶ月就労
(個人年金を払う)
ドイツで60ヶ月就労
(個人年金を払う)
※ドイツにおける学位保持者など、緩和規定アリ
企業への紐づき特定の企業名に紐づく特定の企業名に紐づかない特定の企業名に紐づかない
転職の際の立ち位置新たに申請し直す必要がある新たに申請し直す必要が無い新たに申請し直す必要が無い
申請のための書類新しい労働契約書不要不要
(※本テーブルの情報はあくまで一般見解です。細かい規定や例外条件など、最終的には応募者管轄の外人局指示に委ねられることがあるのでご注意ください)

基本的にはテーブルの一番左の「有期就労ビザ」から開始することが多く、まずはドイツの企業に採用通知を出してもらい、その書類を持ってドイツの就労ビザを申請する、という方法がとられます。

ドイツ就労ビザ申請のための条件

就労ビザの申請は「ドイツの居住区の担当の外人局」でおこないます。代理人申請などの例外を除けば、基本的に①ドイツに住所があること、及び②ドイツで雇用者が定まっていること、が条件で就労ビザの取得手続きがおこなわれることとなります。

これらの証明は、基本的に以下のような書類でおこなわれることとなるため、ドイツにおける就労ビザを取得するためにはまず「ドイツで雇用主を探し、外人局に提出できる労働契約書を用意する」ことが大前提となるわけです。

必要書類 取得方法 難易度
申請書 各外人局の申請ページよりダウンロード
労働契約書(署名済) 雇用主より得る ★★★★★
パスポートの写し パスポートをコピーする
申請用写真 所定のフォーマットにあわせて撮影
賃貸契約書 ドイツで住まいを借りる際に発行 ★★★
法定の健康保険 住所確定後保険会社に問い合わせ ★★★
ミュンヘン市役所を元に作者作成

見ての通り、この中で取得難易度の高いのは「労働契約書」及び「賃貸契約書」です。

上述の通り、労働契約書は内定獲得後にようやく得られるため、そもそもドイツの採用試験をパスする必要があります。賃貸契約書の難易度は、ドイツで家を借りることの難しさに直結しており特に職がない状況では借りられるアパートなどが限られている点に注意が必要です。

「ドイツにおける就労ビザ取得」はそのまま「ドイツで採用面接をパスする」ことの難易度と言い換えても良いかも知れません。

逆に、これら必要書類を外人局に提出できれば、2~3ヶ月のうちに就労ビザの準備が完了した旨が伝えられることとなり、晴れて就労ビザを受け取ることができます。もっとも、最近の傾向(2024年1月現在)として、ドイツの外人局への予約が非常に取りづらい状況となっており、仕事の開始に支障をきたすケースが増えています。

①ドイツで就職するための応募要件

さて、ドイツにおける就労ビザの取得にはドイツで雇用主を見つけることが必要だと分かりました。

ここから先では、ドイツにおける内定獲得(労働契約書取得)のための一連のステップを紹介していきます。まずは、ドイツで内定を得るにあたって必要な条件をざっとおさらいしましょう。

語学のレベル

EU内の人・モノ・サービスの動きが活発化し、既にドイツ企業の半分以上が国外との取引実績を持つと言われています。そのような状況の中、ドイツ企業内の使用言語もドイツ語からドイツ語・英語併用型に切り替わりつつあり、実際に大きな企業、スタートアップ企業などではドイツ語ではなく「英語」による採用が頻繁に行われています。

もっとも、この英語に対する態度は企業ごとに温度差があり、地方の企業や規模の小さいドイツ企業であれば、社内言語はまだまだドイツ語オンリーというところも見受けられます。

企業規模別求められる語学力:

ドイツ語レベル 英語レベル
ドイツ大企業 ビジネスレベル ビジネスレベル
ドイツ中小企業 ビジネスレベル 中級以上
在独日系企業 初級以上 中級以上

ドイツ就職を目指す日本人の中には、ビジネス英語が可能であってもドイツ語が不得意、というケースが多々見受けられます。そうした場合、EU各国から国際色豊かな人材を雇用する、ドイツに進出している日系企業などが就職候補に挙げやすいでしょう。

逆に、ドイツ語は堪能だが英語が苦手、という場合は地場のドイツ中小企業などが受け皿になることがあります。

ドイツ語も英語もビジネスレベルに到達していない、という場合では、応募できる職種は限られてきます。芸術系、スポーツ系、職人系のように得能を活かした専門職を目指すか、ドイツ渡航前に今一度語学レベルを鍛え直して見ても良いかも知れません。

  • ドイツ語も英語もできる場合、就職の幅が全企業に広がる
  • ドイツ語だけできる場合、ドイツの中小企業や地場企業など
  • 英語ができる場合、ドイツに拠点を持つ日系企業などが人気の応募先となる
  • ドイツ語も英語もできない場合、一般企業への就職は難しい

職歴

スキル重視、職歴重視のドイツ社会にあっては、過去に職歴があるのかどうか、どのようなスキルを持ち、それを用いてどのような実績を残したことがあるのか、等が就職の成否に大きな影響を及ぼします。ドイツの就職文化においては、空いたポジションに人を当てはめていく形式のため、日本の新卒文化のようにまず人を取ってから育てるのではなく、戦力がある程度計算でき、ポジションを無難に回せる中途採用が重宝されます。

語学力同様、求められる職歴レベルもどのようなポジション、企業形態かによって異なりますが、一般的には「ドイツ企業は過去にドイツで職歴のある人材を好む」というルールが存在します。それは、一度ドイツで働いたことがあれば、良くも悪くもそのパフォーマンスや実績の評価が行いやすいからです。いくら職歴があっても、それが日本であったりドイツから遠い国であると、人事による見積もりが難しく、正当な評価に繋がらない恐れがあります。

勿論、中には過去の職歴ゼロの状態から就職に成功するケースもありますが、傾向としてやはり職歴が重視されやすいと言えるでしょう。また、過去の職歴がゼロの場合でも、大学の研究内容、論文の掲載実績、教授のアルバイト職、などが評価に繋がることもあります。

ドイツでの職歴 日本での職歴
ドイツ大企業 重要 重要ではない
ドイツ中小企業 重要 重要ではない
在独日系企業 やや重要 重要

ただし、ドイツに拠点を持つ日系企業であれば、日本での職歴も文字通り「キャリアの一環」として見なしてくれがちです。それゆえ、日本では実績と経験が有るが、海外企業での経験に乏しい、という場合、自身の力量を高く値踏みしてくれるのは、ドイツの日系企業であるケースが多いため、日系企業に絞って応募すると採用通知を貰える確率が高まります。

  • ドイツおよび日本で職歴がある場合、どのような企業でも就職しやすい
  • ドイツ企業で職歴がある場合、やはりドイツ企業・日系企業に就職しやすい
  • 日本でのみ職歴がある場合、日系企業に就職しやすい
  • ドイツでも日本でも職歴が無い場合、就職活動は難しいことが多い

②応募にあたって

応募言語は英語?ドイツ語

応募にあたっては履歴書、カバーレターの準備が始まりますが、その前に「ドイツの企業に応募するにはプロセスはドイツ語?それとも英語?」という疑問が浮かびます。ドイツの企業なので当然ドイツ語なのかと思われる方もいますでしょうが、中には英語での履歴書をもって応募可能な会社が少なくありません。

明確なルールがあるわけではありませんが、応募要件がドイツ語で書かれていたらドイツ語、応募要件が英語であれば英語、と使い分けられると理想的です。また、大学の成績証明書や卒業証明書など、ドイツ語に訳すことが困難な必要書類の類も中にはありますし、そうした場合は英語でも問題ありません。

ドイツ語を必要としない職種であれば面接自体も英語でおこなわれることがありますし、場合によっては「英語とドイツ語どっちが良い?」と選ばせてくれるケースもあります。あまり固定概念にとらわれて「ドイツの企業だからドイツ語で全部準備しなくちゃ!」と慌てる心配はないでしょう。

必要書類

ドイツ社会は典型的な「言ったもの勝ち」の文化です。相手に聞かれ無くても、自分のプラスになるものは推薦状だろうと証明書だろうと提出してしまいます。そのため、企業の応募フォームなどを見ても、履歴書(必須)の他の添付物は「任意」となっていることが多いでしょう。

日本人がドイツで応募する際も同様、必ず必要になるのは「履歴書」で、よほど専門知識や専門資格が要されるポジション以外、その他の以下の書類は提出したければする、というニュアンスに留まっています。

フォーマットも同様、任意であることが多いでしょう。文字化けやフォーマット崩れを防ぐため、ワードなどで作成したものをPDF化し、名前をつけて添付できると面接官も読みやすく、好印象です。

  • 履歴書
  • カバーレター(場合によって)
  • 大学の成績・卒業証明書(場合によって)
  • 過去の職業証明書(場合によって)
  • 過去の実績やレファレンス等(場合によって)
  • 語学など各種資格等(場合によって)

➂応募

ドイツの職探しで応募者に好まれる方法はインターネット上の就活ポータルを活用した方法です。次いで、企業ごとのページからの応募、転職向けSNSの活用、ニッチなサイトからの応募、知人の紹介、エージェントの紹介、と続きます。複数の応募チャネルを使うことが応募者にとっても一般的なため、時間の許す限り様々な方法を試してみても良いでしょう。

ただし、注意しなくてはいけないのは、オンラインのプラットフォームなど、大勢の目に晒される企業案件は世界中から応募が来るため、ニッチな転職プラットフォームや転職エージェントを通した応募とは比べ物にならない応募倍率を持つという点です。そのため、特に就労ビザの条件や求められるポジションの異なる日本人の場合、低倍率で条件の良い企業の内定を取りやすい、日本人向けの転職エージェントや日本人向けのプラットフォームを使用した採用プロセスの割合が増加します。

ドイツ就職で使われがちな就職ポータル:

  • Indeed
  • LinkedIn
  • Xing
  • Monster
  • StepStone

④採用面接

書類選考をクリアしたら、次はいよいよ面接です。ドイツ企業は本当に興味のある人材しか面接に招待しません。そのため、面接に呼ばれるという事は、すでに内定の可能性が高いことを示しています、気を引き締めて面接に取り組みましょう!

ドイツの就職面接に関しては「ドイツ企業で面接を行う際の流れと注意点」や「在独日系企業で面接を行う際の注意点」の記事で詳細を記載していますので、そちらを合わせて参照ください。ここでは、簡単な流れの紹介にとどめます。

面接前

面接前に確認すべき点は以下の3点となります。

  • 会場までの道のり(オンラインの場合ミーティング環境の設定)
  • 企業や応募ポジションの情報確認
  • 持参する持ち物の確認

面接が現地で行われるのか、オンラインや電話でおこなわれるのかで最初の項目は異なりますが、現地の場合十二分に余裕を持った移動が必要となります。ドイツの電車やバスの遅れを考慮しなくてはいけません。

企業情報、応募ポジションの情報はサイト上で確認しましょう。面接中によくある質問内容として「企業のことを説明してください」「どんな業務内容を頭に描いていますか」というものがあり、こうした質問に答えられないと大きな減点ポイントになります。

重要な持ち物に関しては、面接中にメモをするための筆記用具、名刺入れ、担当者の連絡先情報、履歴書のコピー、そしてセキュリティチェックに備えた身分証明書の持参などが挙げられます。その他、持ち物に関して企業側から指定があればそれらも忘れないようにしましょう。

面接当日

面接が企業で直接行われる場合、遅刻は勿論、早く受付に着きすぎてしまっても減点対象です。アポイント5分前を目安に受付に名前を告げ、担当者を呼び出してもらいましょう。

企業へ入館する際、面接の際、準拠しなくてはいけないマナーや服装は、どのような会社に応募するのかによって異なります。ドイツ企業の中にも、厳格なスーツとネクタイを必要とする銀行のような企業もあれば、カジュアルな雰囲気が好まれるスタートアップ企業などもありますし、日本人に応募人気の高いドイツ日系企業などではドイツ風というより日本風の面接マナーが好まれます。

そのため、型にはまったやり方を真似するよりも、企業の方向性や社風などをサイトで事前に確認し、個々のケースに応じた振る舞いができると良いでしょう。

面接で聞かれる内容

ここでは一部のよくある質問事項を紹介します。ドイツの採用担当者は、面接において大きく分けて「会社で活躍できるか」「会社を辞めないか」の2点を確認したく思っています。そのため、以下の質問は基本的にはそのどちらかを見定める質問であるという事を念頭においておきましょう。

また、ドイツの面接担当者にとって興味のある回答は直接業務に関係のある事物です。部活動、アルバイト、趣味、業務に関係のない過去の職歴などはあまり触れないようにしましょう。

  • どうやって面接まで来ましたか?
  • 自己紹介をしてください
  • 過去の職場でどのようなポジションでどのような成果を成し遂げましたか?
  • なぜ過去の職場を退職(したいと思いますか)しましたか?
  • どのような業務内容を頭に描いていますか?
  • 当社でどのようなキャリアを描きたいと思いますか?
  • 強みと弱みを教えてください
  • 仕事のスタイルを教えてください
  • 何か質問はありますか?

➄内定・就労ビザの申請

ドイツは厳格な契約書文化で知られます。なにをするにしても「契約書準拠」が唱えられ、口約束は反故にされることでしょう。そのため、企業から電話やメールで採用の通知を貰ったとしても、まだまだ油断はできません。送られてくる契約書に自身の自筆サインと、会社側のサインがそろって、初めてあなたの採用が法的な効力を持つわけです。

契約書にサインすると同時に、記載されている仕事開始日までのカウントダウンが始まります。すでにドイツにいるのか、日本から応募したのかによってここからの難易度は変わりますが、ここでようやく最後にして最大の難関となる「就労ビザ」の申請に話が移ります。

ここまでが本稿における本題であった「ドイツ就労ビザ取得」までの一連の流れです。書いてしまうと一瞬ですが、自分の手や足を動かして応募、面接、ビザの申請などを全てこなすことは非常に難易度が高く、途中で脱落するケースも多く数えられます。特にドイツでの知見が無い場合、最初から就労ビザのアドバイスを受けられる当社のようなリクルーター会社を通じての求人応募をお勧めいたします(※応募者は無料となります)。