日本国内における転職活動、日本から海外への転職活動、とそれぞれ制度やプロセスが異なり、場合によっては困難を覚えるかも知れません。また、人によってはそもそもすでにドイツに住んでおり、ドイツ国内での転職活動をおこなう、といったケースもあるでしょう。その場合、言語面、制度面などで難易度が格段にあがる可能性があるので注意が必要です。

今回は、ドイツ国内での日本人の転職活動(ドイツからドイツへ)に焦点を絞り、具体的にどのような手順を踏み、どのような点に気を付けなくてはいけないのかについて詳細の解説をおこなっていきたいと思います。

手順1: 転職のリスクの再確認

周りのドイツ人が頻繁に転職したり、そのたびに給与アップしたなど、良い話ばかりを聞いて気を逸らせてはいけません。日本人がドイツで転職する際にはドイツ人のルールが適用される、あくまで「外国人」としていくつかの不利益を被る点を理解しておく必要があります。

典型的な例が就労ビザの取り決めです。特殊な場合を除けば、日本人がドイツで就労する際に必要な就労ビザは、最初の2年までは同一企業に縛られるというルールがあり、仮に2年未満での転職を考える場合、新しい労働契約書などを証拠に外人局の許可を得る必要が出てきます。

また、ドイツにおいては無期限契約社員(一般的に2~3年以上同一企業で働くことで無期限契約となることが多い)は労働者保護の観点から容易に解雇できないケースが多いものの、新しく転職しなおすと既存の労働契約が失効するため、また試用期間からやり始めることとなり、雇用の安定性が失われる恐れもあります。

前の転職から数えて早すぎる転職活動も要注意です。転職回数が多い、あるいは転職スパンが早すぎる、という事実は人事面接の際にやり玉に挙げられる可能性が高いと言えます。こうした危険がある場合、人事担当者を納得させられる理由を十分に用意しておく必要があります(転職回数等に関する詳細は「【ドイツ転職事情】賃金志向だが実は転職回数は少ないドイツ人」の記事を参照ください)。

一方で、こうしたリスクがありながらも、適切なタイミングと方法で転職をおこなえば、労働条件や賃金水準に大きな改善が見れることもあります。重要なのは、リスクとリターンをあらかじめ天秤にかけておくことでしょう。

手順2: 転職スケジュールの確認

多くの転職サイトや労働局が注意喚起するように、失業後に転職活動を開始することはおススメされていません。滞在ビザの期限や生活費といった即物的なデメリットに加え、精神的にも後がない状況でおこなう転職活動では焦りが出てしまい、面接に受かるものも受からなくなってしまいます。

とはいえ、半年後、1年後といった長い先の転職活動をしても、企業側からしてみたら優先順位が低いと見なされてしまうため、在職しながら転職活動を行う際には2~3ヶ月後の転職を意識したタイムラインを組むべきでしょう。

スケジュールを組むにあたり、もう一つ注意しなくてはいけない点が「Kündigungsfristen(解雇通知期間)」の存在です。原則、即時退職は禁じられており、今までの雇用期間に応じ余裕をもって退職届を出す必要があります。例えば、3年同じ企業で働いた際の解雇通知猶予期間は1ヶ月となり、自身の退職日から起算して1ヶ月以上の猶予が必要となります。

ドイツ労働法(§ 622 Kündigungsfristen bei Arbeitsverhältnissen)を元に著者作成

手順3: 応募・面接

上述の通知期間や就労ビザの点に注意を払えば、その他ドイツ国内で転職活動を行う際の手順はドイツにおける一般的な就職活動とあまり変わりません。「日本人がドイツに転職する方法、応募条件、ビザ等」の記事で詳しく書かれている通り、就職ポータルや転職エージェントを通じて、自身の強みを活かせそうな企業に応募をすることとなります。

新卒での採用やドイツ国外からの転職活動と違い、ドイツ国内における転職の場合、就労ビザ、コンタクトの容易さ、信頼度の高さなどから、一般的に企業側からの返信の割合は高まると言えるでしょう。

注意としては、面接において転職ならではの「なぜ今の企業を去って転職したいのですか」という質問がついて回る点です。「良い給料が欲しい」「ストレスがたまらない労働環境が欲しい」という転職理由は本音としては通用しますが、面接官に伝える建前としては好ましくないでしょう。「キャリアアップ」「さらにチャレンジがしたい」「家族の都合」など、基本的には前向きな転職自由がドイツの転職市場でも好まれます。

手順4: 退職の申請と書類の受理

ドイツの契約書文化を体現するごとく、ドイツにおいて口頭での「退職願」は法的効力を持ちません。ドイツ民法623条に則り、退職届には書面での通知が必須になるのです。この退職を申し出る重要な手紙は「Kündigungsschreiben」と呼ばれ、以下のようなルールに準拠する必要があります(※あくまで明記するポイントの一例です。最終的な退職届を作成するにはドイツ語のフォーマットなどを参照してください。)。

  • 明確な内容(退職の明示。丁寧な書き方や婉曲した書き方はタブー)
  • 自身のサインが必要
  • 労働契約を終了する明確な日時の指定
  • 自身の名前、住所及び雇用主の会社名と住所を明記する

もっとも、こうした退職通知をいきなり送り付けるのではなく、一般的な円満退職を求めるのであれば、前もって上司などと対面での相談が必要でしょう。労働環境に不満があるのか、給与が低いのか、などこうした相談に乗ってくれるパターンもあります。

並行して、退職届が受理された場合、自身の将来に必要な書類を会社側から受け取る必要があります。「Arbeitszeugnis(労働証明書)」など、転職や失業手当受給に必要なものもありますので、後からではなくなるべく早めに受理するようにしておきましょう。

退職の際に受け取れる書類の例

  • Lohnsteuerbescheinigung(課税証明書)
  • Arbeitszeugnis(労働証明書)
  • letter of recommendation(推薦状 ※任意)
  • Urlaubsbescheinigung(休暇証明書)
  • Arbeitsbescheinigung(雇用証明書)

手順5: 引っ越しなど

転職先企業と労働契約書を締結し、転職前の企業と退職関する上記のやり取りを終えたら、あとは新天地に向けて事務処理的な手続きが控えています。同じ引っ越しを伴わない転職であれば多くの手続きは不要となりますが、管轄が変わったり、就労ビザを取り直すなどの手続きが生じる場合注意が必要です。

  1. 引っ越し
  2. 引っ越し先における住民登録
  3. 引っ越しに伴う各書類の住所変更(銀行、保険、就労ビザ等)

転職前企業で残された有給休暇は、原則として退職日までにすべて使い切る必要があります。こうした有給休暇を利用して、引っ越しやそれに伴う申請手続きを終えられるように努めましょう。