日本とドイツの貿易の歴史や関係性は深く、日本はドイツにとってアジアでは中国に次ぐ第二位の貿易相手国で、年間2兆円前後の輸出入額を誇ります。

EU最大の経済圏を誇るドイツは、単純な輸出先としてでだけではなく事業拠点としての魅力も大きく、ここをハブにして多くの日系企業が周辺国家に輸出を行っています。ドイツに進出する日系企業は2,000社を超え、デュッセルドルフを歩くと多くの日系企業の看板を目にすることができます。

そんな日系企業にとって、魅力も関係性も大きいドイツ市場ですが、いざ現地支店を設立してドイツ市場参入となると、多くの準備が必要とされ、一筋縄ではいきません。

このカテゴリでは、実際に日系企業がドイツ市場参入を構想してから市場での成功に至るまでの道筋を、特に成否のカギを担う「適切な現地人材の採用・マネジメント」という観点にフォーカスして、順を追って説明していきたいと思います。

ドイツ市場参入 最初の第一歩は?

人材マネジメントの話に移る前に、今回のコラムでは簡単に、ドイツ市場参入のためのMarket Entryの方法を、いくつかの段階に分けて説明します。

以下の図は、国際ビジネスの場面で度々用いられる、新規海外市場参入のためのフローで、左に行けば行くほど企業側のリスクが少なく、右に行けば行くほどリスクが高くなる、という配置になっています。

Adapted from Root, 1994

企業の国際市場への参入は段階を追って行われることが多く、その最初期に位置付けられているのが「輸出」です(ただし、かならずしも階段状にステップを上がっていく必要はなく、時に、初めから現地支店設立などの方法をとることもあります)。

さらに踏み込んだドイツ市場へのコミットメントを必要とする場合、ジョイントベンチャーや現地法人の設立など、海外直接投資と呼ばれる方法がとられ、リスクが高まっていくという形です。

基本的に現地人材採用の必要性が生じてくるのは、ジョイントベンチャーの設立や、現地法人設立など、海外直接投資の段階に達してからで、この段階で適切な「国際人事マネジメント」を念頭においたストラテジーが求められてくるというわけです。

それでは、具体的にどのような場面で、輸出ビジネスから現地支店設立への飛躍が必要になってくるのでしょうか?
それぞれのビジネス戦略の違いとメリット・デメリットを見ていきましょう。

輸出(Export)

新たな市場への参入で最も手軽に行われる手段が、この「輸出」です。自国で生産した財・サービスを、ドイツの市場向けに輸出する方法で、この場合、現地で輸入代理店を探したり、あるいはオンラインなどで直接顧客に販売する方法も取られます。

一方で、ビジネスオーナーシップ及びコントロールは希薄で、実際に市場で成功するかどうかは輸出先企業の気分次第になってしまうところが少なくありません。また、取引先からの質問、要望などに迅速に応えることも難しく、市場へのコミットメントはあくまで限定されてしまうのが欠点です。

メリット

  • リスクが低い
  • 煩雑な法手続きが不要
  • リスク・コストを抑えつつ自社ブランドを浸透させることができる

デメリット

  • 現地のニーズに迅速に対応できない
  • 輸出先企業との連携が難しい
  • 自社によるブランディング、価格コントロールが難しい

ジョイント・ベンチャー

さらに踏み込んだコミットメントを行う場合、現地のパートナー企業との間でジョイントベンチャーを設立し、既存のリソースを活用する、という方法がとられます。

日独ジョイントベンチャーの場合、商慣習などの実務面ももちろんですが、実際のところ両国の文化差が最大の障壁になってくることが多く、実際に業務が安定するまで数年を要するケースもあります。

(Adapted from Brannen and Salk, 2000)

例えば上記の表は、具体的に日独両国がジョイントベンチャーを設立した時にトラブルのもととなった文化差を表しています。特に初期段階ではこうした文化差に気を使うことがドイツにおけるジョイントベンチャー成功のカギです。

メリット

  • 既存の販売網を活用することができる
  • 既存の人材を活用することができる
  • 法手続き、税手続きなど、現地パートナーのサポートが受けられる

デメリット

  • 日独の文化差がトラブルを招く
  • 現地企業の裏切りのリスクがある(技術流出、ジョイントベンチャー撤退)
  • 利益・リソースを独占することができない

現地法人(支店)設立

上述のジョイントベンチャーと対をなすのが、一から海外支店を設立し、現地の権限を完全に自社のコントロール下に置くという、現地支店(法人)設立です。

ジョイントベンチャーの場合、成功と失敗のリターン・リスクが現地パートナーと分割される一方、まっさらな状態から支店を設立すると、その失敗も成功も自社で責任を負う必要があるため、ハイリスク・ハイリターンの市場参入方法として知られています。

将来的にドイツ支店を軸に欧州ビジネスを展開していく等を想定している場合、支店経営を通じてドイツマーケットとの繋がり、現地人材などを長期的な目線で育てていくことが重要です。そのため、最初の1~2年は主に本社からの投資で赤字分を補填する、というケースが少なくありません。

メリット

  • 支店(法人)のコントロールを本社の下に置くことができる
  • 利益を本社が管理することができる
  • パートナー企業の裏切りリスクがない(機密流失、資金持ち逃げ、等)

デメリット

  • 失敗時のリスクが高い(市場撤退など)
  • 支店(法人)設立のためのリソース(人材など)が必要になってくる
  • 支店運営のノウハウが乏しく、運営方針が安定するまで時間がかかる

上述のように、ドイツに現地支店を一から立ち上げる場合、主に長期的にドイツに根差したビジネスを行うことが前提となり、そのためには軸となる現地人材の登用・育成が成否を分かつカギになってきます。

これは、単に業務上の能力や言語力だけではなく、ドイツ文化との橋渡しを上手くおこないつつ、本社の意向を損なわないという、優れたバランス感覚も意味します。こうした、二国間の折衝役を担えるドイツ人(日本人)の現地人材は、ドイツ市場内でも非常に人気の人材として知られ、ドイツ新規出店の日系企業が人材集めに最も苦労する部分でもありますが、一度採用に成功すると現地の右腕として支店発展の強力な支えになってくれます。

次回以降のコラムでは、具体的な人材調達の方法、どのような人材が支店設立時に必要となってくるのか、給与水準の決め方など、より細かい部分にフォーカスを当てて進めていきたいと思います。

Reference

  • Brannen, Mary Yoko, and Jane E. Salk. “Partnering across borders: Negotiating organizational culture in a German-Japanese joint venture.” Human relations 53.4 (2000): 451-487
  • Jetro ドイツ概況
  • Root (1994) Entry Strategies for International Markets. John Wiley & Sons.