ヨーロッパと言えばEUの印象が強いですが、地理的にヨーロッパにある国だからと言ってEU加盟国であるとは限りませんし、またEU加盟国だからと言って往来が自由であったりユーロ通貨が使えるとも限りません。
また、ヨーロッパの特定の国の就労ビザを取得したからと言って他の国で働けるわけでもありませんし、年金が受け取れるわけでもなく、「EU」といっても国によってできることは様々です。
今回は、初歩的ながら人に聞けない、ヨーロッパ内の様々な共同体について解説していきます。
・ヨーロッパの共同体について理解を深めたい人
・ユーロを導入している国について整理したい人
欧州連合(EU)
共通市場と関税同盟を2大テーマと置く世界最大の地域共同体で、2024年11月現在27ヵ国が加盟しています。EU市場内のモノとヒトの往来は簡便化されており、越境、労働、学業、認証など様々な点から自国内でのように扱われます。
また、EU加盟国には原則として関税同盟が適用されるため、輸出入にあたっての関税や非関税障壁が免除されます。日本とEU間の経済連携協定(EPA)にあたっても、日本がドイツやフランスのような国と個別に協定を交わすのではなく対EUという一つの窓口で結ばれます。
ヨーロッパの中でEU加盟国でない主な国
- イギリス
- アルバニア
- ボスニア・ヘルツェゴビナ
- ジョージア
- モルドバ
- モンテネグロ
- 北マケドニア
- セルビア
- トルコ
- ウクライナ
- アイスランド
- スイス
- ノルウェー
もっとも、EU加盟国であるからといって、完全な単一市場として扱われるわけではないことに注意しなくてはいけません。例えば後述のように、EU加盟国でありながらユーロを導入していない国もありますし、NATOに加盟していない国もあり、その思惑は様々です。
また我々EU圏外出身の人間が注意しなくてはいけないのが、特定のEUの国で発行された労働許可証は通常、国をまたぐと効力を持たないということです。例えば、ドイツの労働許可を持っているからと言ってフランスで働くことはできず、別途で取得する必要があるわけです。EUとしては、人材不足対応に向けた域内の単一労働・滞在許可の実施を目指していますが、まだ各国での法制化には至っておりません(2024年11月時点)。
ユーロ圏
EUの共同通貨はユーロですが、かといってEU加盟国のすべてがユーロを導入しているわけではありませんし、逆にEU加盟国でないながらユーロが使える国もあります。理由は複数ありますが、政治的、財政的、その他様々な理由から2024年11月現在ではデンマークを筆頭に7ヵ国が自国通貨を保持しています。
EU加盟国だがユーロ使用国でない
- デンマーク
- スウェーデン
- ブルガリア
- チェコ
- ハンガリー
- ルーマニア
- ポーランド
- 飛び地や海外領土
こうした国に旅行する場合、ユーロではなく現地通貨に両替して持参する必要があります。後述の通り、これらの国はシェンゲン協定国ではあるので国境を超えるような感覚無しに入国できてしまいますが、一歩国境を越えるとユーロが使えないお店もあるので注意しましょう。
また、このように独自の通貨を使用している国では、金利はその国の中央銀行で定められることになっています。そのためEU域内でも、金利やインフレ率にばらつきが生じています。
EU加盟国でないがユーロ使用国
- コソボ(公式にユーロ圏ではないため、ECBに代表を出さない)
- モンテネグロ(公式にユーロ圏ではないため、ECBに代表を出さない)
逆に、これら2ヵ国はEU加盟国ではないため入国時に国境審査が求められますが、入国後にはユーロを用いることができます。
シェンゲン協定加盟国
シェンゲン協定は、ヨーロッパの国境にてコントロール(スタンプの捺印など)を免除して越境できるシステムのことです。
日本から海外に旅行すると空港や港での国境コントロールがありますが、シェンゲン協定内を行き来する場合では国境コントロールが免除され、旅行やビジネスなど目的での人の往来が促進されます(※ただし、国境で警察などからパスポートの提示を求められる場面はあるため、原則としてパスポートや滞在ビザは常に携帯する必要があります)。
今までは、難民や犯罪者などの流入を防ぐためにEU加盟国でありながら一部の国はシェンゲン非加盟といった状況にありましたが、2023年にはクロアチアが、2024年にブルガリアとルーマニアがシェンゲン協定に加盟したことで、2024年11月現在EU加盟国でありながらシェンゲン協定非加盟国は以下の通り一部の例外を除きなくなりました。
ただし、フランスやノルウェーの保有する海外領土や一部の島などではシェンゲン協定の対象から除外される地域もあり、注意が必要です。また、難民トラブル、テロリズムの脅威、COVIDの影響、などで定期的に国境コントロールが再開されることもあります。
EU加盟国でありながらシェンゲン協定対象外
- ブルガリア(陸路に対しコントロール実施)
- ルーマニア(陸路に対しコントロール実施)
- アイルランド(イギリスとの共通旅行区域を設ける)
- キプロス(将来的な加盟を目指す)
逆に、EU加盟国ではないがシェンゲン協定対象という国も存在します。代表的なところではEFTAの協定国でもあるスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの4ヵ国で、それ以外にもバチカン、モナコ、アンドラ、サンマリノなどのマイクロ国家は事実上国境審査を実施していないことで有名です。
EU加盟国でないがシェンゲン協定対象
- スイス
- ノルウェー
- アイスランド
- リヒテンシュタイン
欧州連合関税同盟年金協定
原則として、EU加盟国はそのまま欧州連合関税同盟の加盟国(飛び地や海外領土など一部を除く)となり、EU間の貿易には関税がかからないうえ、EPAのようにEUとそれ以外の国が締結する貿易協定はEU加盟国すべての国が対象となります。
日欧間の貿易協定、あるいは一般的なFTAでは非関税障壁がネックになることがありますが、EU内の関税同盟においては認証などが統一されているため、ほぼ自国内製品のような扱いで国境を越えることが可能になります。
EU内の貿易・経済成長を促進すると同時に、EU加盟国内の自国産業を停滞させるなどの見解から、一部の国や産業からは不満の声が上がることもあります。
NATO
国防の観点からいえば、EU諸国は一部の中立国を除いてNATO(北大西洋条約機構)に加盟しています。ロシアのウクライナ侵攻を受けてスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟したことで、現在NATOに加盟していないEUの国は以下の4ヵ国となりました。
EU加盟国だがNATO加盟国でない
- オーストリア
- キプロス
- アイルランド
- マルタ
逆に、EU加盟国ではないもののNATO加盟国も以下のとおり存在します。
NATO加盟国だがEU加盟国でないヨーロッパの国
- イギリス
- ノルウェー
- アイスランド
- トルコ
- アルバニア等
EUで働くには?
このように、モノとヒトの往来をスムーズにする目的で開始されたEUの構想ですが、イギリスの脱退や一部国のユーロ圏への非参加など、一部の問題を抱えながら徐々に加盟国を増やしながら世界最大級の経済圏へを成長を遂げてきました。
その中の盟主の一国であるドイツは、EUの関税協定、ヒト・モノの移動の自由化を活用し、経済大国としての地位を享受しています。別の国の文化を保ちながら、一つの国に住んでいるように仕事や旅行ができる、そんなワクワクするような環境で皆さんもキャリアを積んでみませんか?
ドイツに住むとできること:
- EU国で自動車の運転ができる(※EU免許証所持者の場合)
- EU国を国境審査無しで簡単に越境できる
- ユーロ通貨を用いて生活できる
- 将来的にEU永住権を得られる(※条件アリ)