全人口の3割に移民的バックグラウンドがあるという多民族国家であるドイツでは、国籍をまたいだ国際カップル(binationale Paare)が日本以上に珍しくない存在です。戦後に労働移民を多く受け入れてきた歴史的背景だけでなく、 ヨーロッパ大陸の中心に位置しているという地理的要因、またEU加盟国であるという社会的要因から国境をまたいだ人の往来が盛んなドイツで、異国籍のカップルが目立つのは不思議なことではありません。

実際ドイツの国際結婚事情はどうなっているのか、政府の統計データを交えながら、その現状と、日本人がドイツ人と結婚する場合の手続きや注意点についても紹介します。

ドイツの国際カップルと国際結婚の現状

ドイツにおける国際カップル(夫婦のどちらかが外国人)の婚姻数は、過去5年間で毎年5万組程度、全婚姻数に対する割合で10〜12%前後が報告されています。参考に日本と比較してみると、全婚姻数に対する割合は3%〜3%後半(婚姻数2万組弱)で、ドイツの1/3〜1/4程度の実績となっています。

ドイツ連邦統計局 “Eheschließungen zwischen Deutschen und Ausländern”、厚生労働省 「令和3年 人口動態統計」を基に著者作成

2021年にドイツ人と結婚した国際カップルの内訳を見てみると、ドイツ人男性と外国人女性の組み合わせが53.2%(22,665組)、ドイツ人女性と外国人男性の組み合わせ(18,639組)が43.8%で、妻が外国人というパターンが10%程度多くなっています。ドイツでは2017年に同性婚が合法化されたため、ドイツ人男性と外国人男性(891組)、ドイツ人女性と外国人女性(386組)の同性カップルも合計で3%婚姻関係を結んでいます

ドイツ連邦統計局 “Eheschließungen zwischen Deutschen und Ausländern”を基に作成

ちなみに、ドイツでも日本と同様、婚姻率は年々低下傾向にあります。1970年には575,233件(人口1000人あたり7.4件)あった婚姻数が、1990年には516,388件(人口1000人あたり6.5件)、2010年には382,047件(人口1000人あたり4.7件)と減少を続け、2021年には357,785件(人口1000人あたり4.3件)と過去50年で38%も低下しました。ドイツでは子供がいても公的な結婚という形を取らない家族も珍しくなく、そのような選択が尊重されることも、婚姻数の減少に影響しているのかもしれません。

転職ペンギン

日本でも国際結婚は増えてきたイメージがあるけど、まだ全体の3%程度なんだね

フェリ

どうしても「日本人」と「外国人」のイメージ差が強い日本と、小さいころから国際的な環境に身を置いているドイツとでは風当たりが異なるわね

ドイツでの国際結婚、相手はどの国籍が多い?

ドイツで婚姻を届け出た夫婦の国籍を見てみると、女性と男性、昔と今で違いが見られます。妻の国籍としては、ドイツ(90%)を除外すると「その他ヨーロッパ」※(2.7%)が最多で、次いでアジア(2.0%)、トルコ(1.3%)が上位に名を連ねています。夫の国籍は、ドイツ(91%)を除外すると多い順にトルコ(2.0%)、その他ヨーロッパ※(1.9%)、アジア(1.4%)となっています。

※ドイツ、ベルギー、フランス、セルビア(コソボ含む)、ギリシャ、イタリア、モンテネグロ、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、スイス、スペイン、トルコ、ハンガリー、英国を除くヨーロッパ地域

ドイツ連邦統計局 GENESIS-Online “Eheschließungen: Deutschland, Jahre, Staatsangehörigkeit der Frau” を基に著者作成

ドイツ連邦統計局 GENESIS-Online “Eheschließungen: Deutschland, Jahre, Staatsangehörigkeit des Mannes” を基に作成

男女どちらにおいても、1960〜70年代前半に一定割合を占めていたギリシャやオーストリアは1970年代後半に影を潜めて以来、現在も低い比率となっています。1960年代に外国籍の夫としては最も多かったアメリカは、1970年以降のドイツ駐留米軍兵の縮小に伴って減少したものと思われます。

転職ペンギン

男女問わず、アジア人とドイツ人のカップル数もここ最近で増えているんだね

フェリ

中国人、韓国人、ベトナム人あたりはドイツでも独自のコミュニティを形成し、地元社会に根付いている層が多いわね。特にデュッセルドルフなど国際色豊かな町の写真だけ見せられると、ドイツなのかアジアの都市なのか分からないかも

日本人がドイツ人と結婚するときの手順

国籍が異なるカップルが結婚をする場合、まず、どちらの国で結婚するかを考える必要があります。日本人とドイツ人のカップルの場合、

(1)ドイツで結婚したのち、日本で書類を提出する
(2)日本で結婚したのち、ドイツで書類を提出する

の2つのパターンがあります。手続きの手間や複雑さだけで判断すると、日本で結婚する(2)のパターンの方が簡単です。

ドイツで結婚したのち、日本で書類を提出する

手順 ドイツ人のタスク 日本人のタスク
①結婚に必要な書類を入手

(住所登録のある戸籍役場:Standesamt)

(本籍地の市区町村役場、住所登録のある市区町村役場)

②アポスティーユ(公文書の証明)の申請と取得  

(外務省)

③書類のドイツ語への翻訳・認証  

(ドイツ公認翻訳士に依頼)

④ドイツの役場へ書類提出

(戸籍役場)

⑤宣誓式

(戸籍役場か提携の教会)

⑥日本への婚姻届提出  

(在独日本国大使館・領事館)

ドイツで結婚する場合、日本にはない手順で注意すべきは④と⑤です。書類を提出する際は必ず結婚する2人が揃って役場に出向かなければならず、ドイツ語が分からない場合は、政府公認通訳の同席が必要です。④で書類に不備がないと認められたら後日⑤の宣誓式が行われ、宣誓式後に「結婚証明書(Heiratsurkunde)」が発行されます。この結婚証明書は配偶者ビザの申請や子供の出生届・パスポート申請など、あらゆる場面で必要になります。

結婚証明書が発行されたら、在独日本国大使館・領事館経由で日本の本籍地の役場へ婚姻届を提出することも忘れてはなりません。日本への届けがされていないと、ドイツ人配偶者が日本に住むことになった場合に配偶者ビザを取得することができない、コロナ禍のような事態で外国人旅行客の入国が規制された時に家族として日本に入国できない、など何かと不都合が生じます。

日本で婚姻届が受理されたら、(結婚時に姓を変えた場合は)パスポートの名義変更などの事務手続きも必要になります。ドイツでは夫婦別性が認められているので日本の姓のまま変更しないこともできますし、ドイツ人配偶者の姓に変更、あるいはドイツ姓と日本姓を組み合わせたハイフン名※を名乗ることもできます(例:Müller-Suzuki)。
※日本の戸籍上はハイフン名が認められていないため、日本姓かドイツ姓を選ぶことになります

転職ペンギン

結婚式やハネムーンだけで終わればいいんだけど、実際には気の遠くなるようなお役所手続きが待っている。。

フェリ

パートナービザの申請や、配偶者ビザでの仕事の可否などの説明は「【ドイツ配偶者ビザ】申請方法から取得完了までの全プロセスを紹介」の記事に譲るわね。実際に専業主婦(主夫)としてドイツで結婚し、その後ドイツの日系企業に就職する層も少なくないわ。興味があれば下記の求人をクリックしてみてね!

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日本で結婚したのち、ドイツで書類を提出する

手順 ドイツ人のタスク 日本人のタスク
①結婚に必要な書類を入手

(住所登録のある戸籍役場)

(本籍地の市区町村役場)

②アポスティーユ(公文書の証明)の申請と取得

※役所の指示により必要な場合に限る

(居住地がドイツの場合→管轄の役場、居住地が日本の場合→ Bundesamt für Justiz:連邦司法庁)

 
③書類の日本語への翻訳

(自分で作成した翻訳が認められるかは日本の役場に確認)

 
④日本の役場へ書類提出

(役場の戸籍担当課)

⑤ドイツの婚姻登記簿(Eheregister)への記載申請

(住所登録のある戸籍役場、居住地が日本の場合はドイツ大使館・総領事館)

 

日本の手続きの方が、書類の提出で完結するぶん時間もかからず比較的簡単と言われています。⑤で、ドイツ法にのっとった姓の選択手続きを行う場合は、夫婦そろって申請に出向く必要があります。

国際結婚、3つの注意点

違う環境で育った他人が生活を共にすれば、日本人同士であってもさまざまな問題や軋轢が生じがちです。それが国際結婚となればなおさらで、常識・生活習慣・食文化・子供の教育などすべての場面で異なる価値観を持っている者同士と言っても過言ではありません。互いの価値観を尊重する気持ちは大前提ですが、結婚してから「こんなはずじゃなかった」とならないために、ドイツ人と結婚する前に知っておいた方がいい3つの注意点を紹介します。

配偶者ビザにもドイツ語能力が必要

日本のパスポート所持者は最大90日間ドイツに滞在できますが、それを超える場合は滞在許可(Aufenthaltgenehmigung)が必要になります。配偶者ビザを取るにあたって、条件のひとつとされているのが基礎的なドイツ語能力(目安はGoethe-Zertifikat A1)の証明です。

基礎的なドイツ語能力を認められ、めでたく滞在許可証(Aufenthaltzettel)を手にできたとしてもそこで終わりではありません。滞在許可証取得と同時に、外国人局(Ausländerbehörde)から統合コース(Integrationskurs)履修の案内がされるので、語学コース(Sprachkurs)とドイツの歴史・政治・文化を学ぶオリエンテーションコース(Orientierungskurs)から成るこのコースに申し込んでみっちりドイツ語を学ばなければなりません(ドイツ入国時からB1に相当するドイツ語能力を保有し、それを証明できる場合はその限りではありません)。これは、移民社会であるドイツが、外国人移民・難民の社会統合を目的に2005年に施行した「ドイツ移民法」に基づいた政策です。長期的にドイツに住む外国人は基礎的なドイツ語を身に付けるべきである、という考え方が根底にあります。

子供の連れ去り問題とハーグ条約

夫婦げんかが原因で妻が子供を連れて家出…日本ではよく聞く話ですが、国際社会では拉致・監禁に相当する犯罪行為です。国境を超えた子供の不法な連れ去りや留置は子供の利益に反するとして「ハーグ条約」(1980年)により禁止されており、日本も2014年にこの条約の締結国となっています。

国際結婚件数の増加に伴って、日本人の一方の親が許可なく子供を国外に連れ去る事案(日本に一時帰国したまま戻ってこない、帰国後に子供との交流をさせない、など)が問題視されており、日本が国際条約を遵守していないとして欧州議会などから非難されています。

国際結婚家庭では一方の親が単身で子供を連れて日本に一時帰国することは珍しくありませんが、ハーグ条約に基づき、出国審査でもう一方の親の同意書の提出が求められ、持参を忘れると出国ができないことを覚えておく必要があります。

離婚は日本よりずっと大変

役場に離婚届を提出すれば離婚が成立する日本と違い、ドイツで離婚するには時間と手間がかかります。離婚したいと思った時にまずしなければならないことは、1年間の別居生活。 家庭内別居でも認められますが、生活費や銀行口座を別にするなど生活を完全に分ける必要があります。

1年間の別居生活を経てなお離婚の意思が固ければ、弁護士を通じて夫婦の生活拠点となっていた地区の家庭裁判所に離婚を申請します。離婚申請が受理されると離婚裁判が行われ、双方の合意の上で離婚が成立する、という流れになります。

【参考・出典】

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