EUの中心という、地理的にも貿易的にも恵まれた環境を持つドイツ企業は、日本企業と比べ海外と折衝する割合が高いことで有名です。

周辺にオーストリア、スイスといったドイツ語圏の国を持ち、ビザなしでEU圏を自由に行き来きできるドイツ企業には、その分出張の機会も多く、日本で言う東京から九州に行くような気軽さで海外出張がなされます。

今回は、人事担当者と求職者を対象に、ドイツにおける第三国への出張の仕組み、出張手当や出張中の有給消化など、知っておくべき注意点についてまとめていきたいと思います。

ドイツ出張事情

上述の通り、ドイツにおける海外出張は、日本における国内出張と同じような手軽さで行われます。例えば、デュッセルドルフ~パリなどは飛行機で1時間15分しかかからず、東京~博多間よりも早く移動が可能です。

ドイツ経済は輸出に依存した構造になっており、お得意様として、EU圏内の他、アメリカ、中国、日本なども挙げられ、EU圏内のみならず北米、アジアへの出張の機会も少なくありません。

以下、こうした出張の際に必要となってくる知識について解説を行います。

移動方法・移動中の取り決め

社内規定によって異なり、具体的に「どの移動方法を使わなくてはいけない」という法律はありませんが、以下に挙げるようなものは、出張の際移動方法を選択する際の一つの目安となっています。

  • エコノミークラス(電車なら普通車)であること
  • 経済的かつ合理的な移動方法であること

また、こうした「移動時間」が労働時間としてみなされるか否かは、ドイツの労働法上明確な取り決めがなされていません。一般的に、「移動中にゲームをしたり本を読んだり」していた場合は労働時間外、「移動中に業務に関係することを行っていた」(メールチェックなど)」場合は労働時間内と見なされます(BAG, Az. 9 AZR 519/05)。

飛行機の場合

特にアジアや北米など遠距離飛行の場合、総務部が旅行会社を介してチケットを手配することが通例です。価格、保険、キャンセルの可否、快適さ、などを総合的に判断した飛行機チケットが確保されます。

ただし、出張中にさらに出張を重ねる場合(例、ドイツ→上海への出張中に、急遽シンガポールに立ち寄ることになった、等)、いちいち総務部に確認していては時間がかかるため、インターネットなどで自分で飛行機を手配することもあります。

この場合も、上述の原則にのっとり、基本的には安く早く快適な(つまり、必ずしも一番安い航空チケットを選択する必要はない、ということ)航空チケットを選ぶ必要があります。

また、飛行機を予約した際のマイルに関してですが、原則、以下のような取り決めがなされています。

Wie das Bundesarbeitsgericht entschied, dürfen Arbeitnehmer die auf dienstlichen Flugreisen gesammelten Bonusmeilen nicht ohne Rücksprache mit dem Chef für private Reisen nutzen.

「ドイツの労働法は、原則、社員は出張によって貯めたマイルを、上司への報告なしに私的に利用してはいけない、と定めている」(Ref. Flugsuche Ratgeber

ただし、実際のところは、そこまでがちがちに厳しい規則を適用する会社は少なく、基本的に上司や担当部署に一言断れば、私的に利用することが許されるケースがほとんどです。

Denn oftmals erlauben die Unternehmen eine private Nutzung der Meilen.

「実情では、多くの会社が私的でのマイル使用を許可する」(Ref. Flugsuche Ratgeber

電車の場合

電車の場合、いちいち会社(総務部)を介さずに自分で予約するケースがほとんどです。また、例えば日本で言う東京→博多間のように、飛行機と新幹線の価格がほぼ同等の場合、どちらを選ぶかの判断も出張者に委ねられます。

例えば、移動時間中にどうしても顧客との通話が必要、という場合は新幹線、特段どちらでもいい場合は早く目的地に着く方法が好まれますが、必ずしもこっちでないといけない、という取り決めはありません。

また、飛行機の場合と同様、基本的に移動によって溜まるポイント(DBのボーナスポイント等)は会社判断に委ねられるので注意が必要です。

タクシーの場合

国によっては、市内での交通に際してタクシーを重宝するようなケースが少なくありません(特に、市内交通の発達していない発展途上国など)。

この場合に注意しなくてはいけないのが、出張費清算のためにレシートを必ず取っておくことです。特に発展途上国の場合、タクシーでクレジットカードを使えないケースが多く、もっぱら現金での支払いになります。

また、アプリなどを使ってレシートが出ない場合は、アプリの「支払い確定」のページを会計係に見せるなどして、実際に支払いをおこなったことを証明します。

出張手当

ドイツ国内、国外への出張に関しては、ドイツの財務省によって定められた所定のリストが存在し、それに基づいて出張手当の計算がなされます(Pauschbeträge)。

例えばドイツ⇒日本への出張に関しては、24時間以上の滞在の場合、東京周辺で一日辺り66€、東京以外の地域に関しては51€が定められています(2019年11月現在)。

こうした出張手当に関しては、出張後に旅費精算を行うときに会計係と一緒に行うことが通例です。

また、ホテルの料金に朝食代が含まれていたり、取引先とディナーを会社のお金で行った場合、この出張手当の中から該当部分が差し引かれて支給されます。具体的には、朝食代20%、昼食40%、ディナー40%、といったかたちです。

例えば、一日にもらえる出張手当が60€の場合で、ホテル代にすでに朝食が含まれている場合、60€×20%分の12€が、出張手当の総支給額から差し引かれる計算です。

ホテル

上述の、出張手当の項に紹介したドイツ財務省の所定のテーブルに、各国あたり使用できるホテル料の上限も定められており、それを基準にホテルを予約するような形です。

以下は、一日辺りのホテル滞在費用上限例です。

  • 日本(東京)233€
  • 日本(東京以外)156€
  • フランス(パリ)152€
  • フランス(パリ以外)96€~115€
  • モロッコ 129€

これは、あくまで上限ですので、実際問題でここまでの費用を許容するかどうかは、会社の方針などに関わってきます。

一般的なヨーロッパのホテル

出張期間中のショッピングやプライベート旅行等

出張期間に余暇を楽しんだり、有給を消費してバカンスを楽しむ人のことを「Bleisure Traveller」と呼びます(Bleisureは「business」と「leisure」を掛け合わせた造語)。

このように、出張期間中に有給を消費することはドイツでも基本的に認められていますが、上限が「5日まで」と決められており、有給中に発生する旅費やホテル費用は当然旅行者自身で負担する必要があります。

また例えば、5日伸ばすことによって飛行機の日程が変更され、追加の費用を請求されたといった場合も、やはり旅行者自身の負担となります。

一部例外的に、会社の費用を利用して余暇を楽しむような方法も存在します。例えば、飛行機の予約をするとき、金曜日にローマからベルリンに帰る便が300€、土曜日の場合だと100€、といった場合、土曜日の飛行機の便にホテル代を加算しても、まだ金曜日に帰ってくるよりも費用が抑えられます。

このように、旅程を伸ばすことが、むしろ旅費の軽減につながるような場合、(総務部の同意のもと)、余暇と組み合わせることが可能になります。

Reference: